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5:06起床。

天気は曇り。
でも、辛気臭くなくて。
朝は、ちゃんと祝福されていて。

花が好きだ。
花そのものじゃなくて、
「花」という字が好きだ。

まるで、
小さな子どもが、ふっとひらめいたような、
かわいらしい拙さがある、この字が好きだ。

花を愛でる。
花を慈しむ。
できることなら、してみたい。
でも、
文字に対してそういうことは、ちょっとできない。
(もし、できるというのなら、教えてほしい。)
それに、
指1本ふれるのも、ちょっと憚られる。
だって、
ちょっとふれただけで、壊してしまいそうだから。

「花」には、弱さがある。
「華」には、強さがある。

花は、深窓の令嬢。
華は、夜会の女王。
さあさあ、あなたはどちらを選ぶか……。

僕は、
どんな人でも惹きつける女王さまよりも、
ひとり、ぽつねんとたたずむお姫さまを、
そこから、こっそり連れ出してあげたい。

――これから、どこに行くのですか。
――どこにでも。あなたが、望むところへ。
――望むところなんて……そんなの、わからないわ。
――そうですね……じゃあ、海にしましょう。
――海? 海って、なに?
――とても、とても美しいところですよ……。

僕は、
花そのものは、そんなに好きじゃない。
いや、嫌いってわけでもないんだけど、
なにせ、花粉症だから。
あと、匂いとか。

花っていう字が存在するのは、
花そのものが存在するからだ。
それなのに、
それを否定するとは、何事か。

いえいえ、
否定しているわけじゃあないんですよ。
ただただ、
体が受け付けないだけなんです、ええ……。

タバコを吸ってみたいけど、吸えない。
(僕は、しょっちゅう咳をしている。)

酒を呑んでみたいのに、呑めない。
(カクテル1/4杯で、2日酔いになる。)

サイダーを飲んでみたいけど、飲めない。
(唇にふれるだけで、痛くってしょうがない。)

僕には、片想いが多すぎる。

だから、
こうやって、ことばをしたためている。

少しだけでも、近づきたくて。
少しだけでも、してみたくて。

――私、やっぱり行けないわ。

花は、ぽつりといった。

――私、ここにいないといけないんだもの。
――ちょっとだけでも、だめなんですか?
――ええ。だって私、花だから。
  花は、ここにいないといけないもの。
――……。
――でも、海?っていうの見てみたかったわ。
  それは、本当よ。
――……そうですか。 
  そう思ってもらえたなら、それで充分です。

僕は、よいしょと重い腰を上げる。

――また、会えますか?
――いいえ。私、だれにも会っちゃいけないもの。
――じゃあ、これでさよならですね。
――ええ。来てくれて、ありがとう。
――こちらこそ。どうか、お元気で。

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