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「一度きりの人生」という考え方が与えるもの

本記事は、米国オレゴン州ポートランドを中心に毎月発行されている日系紙「夕焼け新聞」に連載中のコラム『第8スタジオ』からの転載(加筆含む)です。1記事150円~200円。マガジンでご購入いただきますと600円買い切りとなり(マガジンご購入者は過去の記事もこれからの記事もすべて読めます)、お得です。

2018年はいろいろな意味でメモリアルだな、と個人的に感じている。過ぎ去ったことではあるが、安室奈美恵が丸25周年を機にこの9月に引退した。劣化とは無縁の安室奈美恵が、出せば売れる安室奈美恵が、後ろ髪をひかれる様子もなく、次にやりたいことを明示することなく芸能界から去ることに驚愕した。

さらに、年内をもって「タッキー&翼」が解散することを発表。タッキーこと滝沢秀明は年内で表舞台を去り、若手育成、舞台・コンサートなどのプロデュース業(つまり裏方)に転身するという。美青年の、まさに表舞台に向いている彼が、その顔面を利用しない方向にいくということに、わたしはまたも驚愕したのであった。

さらに、「関ジャニ∞」のメインボーカルであった渋谷すばるも、年内をもってグループ脱退とジャニーズ事務所退所を発表しており、会見で「36歳、人生残り半分という年齢になった。この先は今までの環境でなく音楽活動を追求するために海外に拠点を移し、自分の音楽を追求していきたい」と語った。

「36歳で残り半分ですって?!」と思ったけれど、確かに36歳というのは人生の折り返し地点なのかもしれない。100年時代といっても、80歳以降は自分の体が自分の思うように動くとはとても思えないから、やっぱり40歳前後が折り返し地点といって差し支えないだろう。なんとも冷静な視点だ。

わたしは、彼・彼女らに格別な思い入れはない。CDを買ったこともないし、熱狂的なファンというわけでもない。けれども、これらの事例は、世相を反映しているような気が、やっぱりする。

芸能界に入るということは、承認欲求が強いことのあらわれだと思う。人に知られ、人に認められ、有名になり、影響を与える。どんな人でも一度くらいは夢想するんじゃないか。そういう人生に立つことを。

けれども彼・彼女らは、まだまだ衰えてはいないのに、わかりやすく劣化しているわけでもないのに、その場を去るという。アイドルを辞めるという。承認欲求を捨てるという。人の羨む場所にいることは、本人を決して満たし続けるわけではないということがそこに垣間見える。

大事なことは、自分がやりたいことは何か。それだけなのだろう。

自分が何をやりたいか既にわかっている人は、そうじゃないことをやっている時間に耐えられなくなるのではないか、と思う。

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