【Episode 6】「突然ですが、あなたの実家に帰らせていただきます」あーりん、義実家帰省の真相

#20

8月3日、水曜日。
まみーごの誕生日の前日。

わたしは生後5か月の息子を連れて、夫の実家へと向かった。

その日は朝から大忙しだった。
荷造りは前日のうちにほとんど終えたものの、当日の朝までバッグに詰められないものも多い。子連れとなるとなおさらだ。

まして今回は、息子にとって初めての義実家帰省だ。
必要なものは義実家側でも、あらかじめ色々と揃えてくれていた。
足りないものはその都度買い足せばよいのだが、エレコで「地」属性が強いわたしは事前準備をしっかりしたい傾向にあり、「もしかすると必要かもしれないもの」を思いつく限りバッグに押し込んだ。

「もしかすると必要かもしれないもの」として、ニンテンドーDSと、DS版のぷよぷよのゲームソフトも2種類バッグに詰めた。
結果的にはそれらを取り出すことも、持ってきていると話すこともなかったが、そんなことは重要ではない。
大事なのは「事前準備を万全にした」という実感なのだ。

息子に離乳食を食べさせてから食器類をざっと洗い、洗ったばかりの離乳食用のスプーンをカバンに詰めた。息子を抱っこ紐で抱っこし、ベビーカーに荷物をひと通り積んで家を出た。

#21

電車に乗る前に、駅前のコンビニで「業務提携契約書」という名称のドキュメントを3セット印刷した。ミーティングで業務提携の仕組みについて話し合い、最終的な決定事項を反映した契約書だ。

3人のメッセンジャーグループでは、まみーごとこみーが翌日の待ち合わせに関するやり取りをしていた。

2人はJR成田駅から電車で2駅の滑河駅に移動し、そこからシャトルバスで成田ゆめ牧場に向かう予定だ。成田駅から滑河駅に向かう電車は一時間に一本しか出ておらず、その発着時間にあわせてシャトルバスも動いていた。

牧場には11時から13時の撮影を申請していたため、2人は10時のシャトルバスを目指すことになった。滑河駅から成田ゆめ牧場までは、シャトルバスで10分程度の距離だ。わたしは2人の到着見込み時間に合わせて、10時15分に牧場に送迎してもらうよう義父にお願いした。

心配なのはお天気だった。
撮影前日の8月3日は雲ひとつない晴天で、ニュースでは日本各地で猛暑日となっている様子が報じられていた。
しかし、翌日4日の天気予報は雨で、一部で雷雨になるとの情報もあった。

「みなさん、明日奇跡的に晴れることを祈りましょう!!笑」
わたしはいつになく明るい語調でメッセージを送った。
すぐにこみーから「わぁー!雨になってるー!」と返信がきた。

わたしはお決まりのネット検索で「雨 ひまわり 写真」と検索し、雨の日のひまわり畑の写真をアップしている写真家のブログを共有した。
「みてみて、雨でもきっと素敵な写真撮れそうだよ!!と言い聞かせる笑」

これに対して「カメラマンの技術…(笑)」と、こみー。
「とりあえず8月4日になるのを待とう、、笑笑」と、まみーごも加わる。

わたしは楽しくなってきて、もう少し場をかき乱すことにした。

「今回のカメラマンさん、最近写真をとても褒めてもらっているそうで。
期待が高まりますな♡」
すると「今回のカメラマンさん、Facebookの投稿から取材のお仕事いただいたそうですよー!(笑)明日めっちゃ楽しみだし緊張もする!」と、当のカメラマンさんもまんざらではない様子。
さらに「今回のカメラマンさん、最初ライターさんだったのに、どんどんカメラの腕も上がってるそうですよ♡」と、モデルさんも乗っかる。

「いやー期待しかありませんな!モデルさんにも、カメラマンさんにも」
「ここにきてみんなでプレッシャーかけ合うの笑うんだけど。明日晴れろー!!雨降ったらサニーじゃないな…」

モデルさんとカメラマンさんに散々プレッシャーをかけておきながら、撮影当日にこれといった役割がない自分は気楽なものだった。
「(わたしだけ気楽でごめんね♡笑)」と送ると、そのメッセージに対してこみーからは怒り顔のスタンプが、まみーごからは爆笑顔のスタンプがついた。

「雨だったらBe Sunnyにタイトル変更かな」
「タイトル一応もうあるけど、やりながらまた考えたいね」
「たしかーに!」

タイトルのこともあるが、そもそもあまりに雨が強かったら、撮影も何もあったものではない。そんなことを考えていると、牧場の担当者から
「明日のお天気が雨のようなのですが、撮影はいかがされますでしょうか…?」と電話がかかってきた。
当日の天候次第で撮影を中止したとしても、キャンセル料は特にかからないとのことだった。わたしは撮影中止の場合は事前に連絡すると担当者に伝え、電話を切り、電車に乗った。

#22

義実家の最寄り駅では、改札前で義父が到着を待っていてくれた。
わたしたちの姿をみつけた義父は嬉しそうに手を振り、「よくきたね」と迎え入れてくれた。

荷物を車に積み、チャイルドシートに息子を乗せた。義実家に到着すると、義母が「いらっしゃい!おかえり」と明るく迎えてくれた。

最後に義両親に息子を会わせてから2か月近く経っており、まして初めての義実家帰省ということで、息子がどんな反応を見せるか心配していたが、その心配はまったくの杞憂だった。
息子は終始笑顔で、義父の膝の上でつかまり立ちをし、ぴょんぴょん跳ねるような仕草を繰り返していた。その様子を義母は微笑ましそうに見守り、スマートフォンで写真や動画を撮っていた。

夫抜きの義実家帰省に、不安が全くなかったわけではない。
だが、息子や義両親の様子を見て、「来てよかったな」と心から思った。

はしゃぎ疲れた息子がお昼寝をした後、わたしは義両親に今回の写真集プロジェクトの経緯や、そもそも自分がコミュニティに入った理由、ビジネス講座の受講に至った動機などを改めて伝えた。それらのひとつひとつが、義両親にとっては聞きなれないものだったと思うが、「あやかさんのそういう考えや行動、ステキだと思う」と言ってくれた。

それから義母が、地元の千葉新聞の最近の記事を持ってきてくれた。そこには、まさしく翌日のロケ地である成田ゆめ牧場のひまわり畑で、幼い子どもの写真を撮る家族の様子が、写真付きで紹介されていた。

「こんな感じで、明日はいい写真が撮れるといいね」

そんな義母の心遣いが嬉しかった。
わたしはその記事を写真に撮り、3人のメッセンジャーグループに送った。こみーから「いい写真だー!」と反応が返ってきた。


#23

その日の晩。
わたしはテレビの天気予報を確認した。
翌日の天気は「一部地域で雷を伴う激しい雨」と報じられていた。

義母が信頼できる天気予報のサイトをいくつか調べて見せてくれた。もともと天気図の見方に詳しく、彼女の見立てでは「せいぜい小雨じゃないか」とのことだった。

現時点で、明日の天気はなんとも予想しがたい。
朝になったら実際の空模様を見て、臨機応変に動く必要があると感じた。
わたしは2人にこう提案した。

「明日、わたしも9:30頃に成田駅に着くようにして、電車で滑河に向かおうかなーと考えてて。というのも、万が一本当にひまわり畑での撮影が難しいくらいすごい雨だったら、そもそも牧場には行かず、成田周辺の屋内で打ち合わせとか取材とかにした方がいいのかなとも思ったり。。どう思う?」

こみーから「あーりん、天才だ…」と返信がきた。
天才。そう言われて悪い気はしない。笑

「とりあえず明日9:30頃にJR成田駅に向かいます!天気の様子見て朝やり取りして、どうするか決めましょか!」

こみーから「いいね!」のスタンプが届いた。今ごろまみーごは飛行機の中か、成田に到着してホテルに向かっている頃だろう。

寝室に向かう前に、翌日は成田ゆめ牧場への送迎ではなく、9:30に成田駅に送ってほしい旨を義父に伝えた。そこから家を出る時間、起床時間を逆算していった。

わたしは息子の寝顔を見ながら「明日晴れますように」と願った。
どんな天気でも臨機応変に動けるような手はずを整えたとはいえ、できることならやっぱりひまわり畑で撮影をしたい。
それにその後、あわよくば息子にウシさんやヒツジさんを見せたい。

そんなことを考えながら、眠りについた。

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