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AKB48の握手会と単純接触効果

ちょっと前に、サマソニに行った話を書きました。
そしてサマソニという単語に関連して、思い出したことがあります。

『AKB48の握手会』です。

握手券を握りしめ握手を求めにいく側の話ではありません。あ、もちろん握手される側(アイドル)ってわけでもありません(笑 私は、AKBの握手会の「会場整備」をやったことがあるんです。

といっても、やったのは今から10年以上前。
AKBは国民的アイドルというにはほど遠く、握手会の会場は、ソフマップの上の何の変哲もない会議室でした。

何故、私の中で「サマソニ」という単語と密接にかかわっているかというと、タイミングが被っていたからです。

そのときまだ学生で、ライブの会場整理の日雇いバイトをはじめたばかり。初めてバイトの事務所に行って、簡単な説明を受け、じゃあさっそく仕事あるけど、どれか入りますか?と出てきたのが、

『サマソニの会場整理』か、『AKBの握手会』か、の2択だったわけです。

当時のAKBの世間的な知名度は「秋元さんが今度は秋葉原でなにかやっているらしい」くらいのものだったのではないでしょうか。CDとしても、「会いたかった」はそれなりにインパクトがありましたが、その後はキングレコードに移るまで、ほとんど鳴かず飛ばずが続いていたはずです。

私自身のイメージでも、AKBというのは秋葉原で定期的にステージをしている『地下アイドル』というものでした。(地下アイドルという言葉もありませんでしたけどね)

……じゃあ、なんで私がサマソニを蹴って、AKBの握手会の会場整備をやろうと思ったのかと言いますと、答えは至極単純で、おもしろそうだったからです(笑

当時、アイドルを好きになったこともなかったですし、正直な話、大変失礼ではありますが、「キワモノを見に行くことができる」くらいのつもりでした。

でも、あの選択は末代まで誉めてやりたい、と今では思っています。
今でこそ勢いも落ちておりますが、AKBに係る仕事が出来たこと、あとネタとして面白かったことが主因ですね(笑

場所は前述したようにソフマップの上にある、ごくごく普通の会議室。
奥と手前に2つのドアがある構造。

部屋の手前の、壁際に机を挟んで握手をするための場所を作り、長く列を作れるように横にビニールテープをひく。一回の握手会で6人だったと思うので列も6列。奥のドアから入ってきたオタさんたちは、それぞれ目当ての子の列に並び、握手をしたら、手前のドアから廊下に排出されるという作り。

今でこそAKBが人気になり、ももクロちゃんも追随し、アイドル戦国時代という時期があり、アイドルオタクも少なくないですが、AKBが人気になるまでは、アイドルオタクの地位は今よりもだいぶ低かったはずです。

そんな「ごく普通の会議室」を見て思ったのは、「そりゃ、こんなもんだよね」というテンションの低い納得感でした。


でも、そんな斜に構えた私の予想は軽々と裏切られるのです。

開場してからの私の役割は、「もぎり」と言われる、入り口でオタさんたちの持ってくる握手券を回収する役です。

ドアの横に構えて、来た人が出してくれる握手券を回収する。持てなくなったら後ろに置いたダンボールにでも入れておく。ただそれだけの簡単な仕事でした。

他のバイトの人で慣れている人は「はがし」と呼ばれる仕事をしていて、アイドルの横に構えていて、握手時間が長くなり過ぎないように、一定時間が来たら「はいっ終わりでーす」と促すのです。
今のAKBは確か、握手券1枚で3秒くらいでしたっけ。当時は人気がなかったので、もっと長かったと思いますが、オタさんの体に触れてはいけない、とか細かなルールもあって、そちらはやはり慣れていないと難しい役です。

設営も整い、時間も迫ってくるとAKBの子たちが先にブースに入りし、さあいよいよ始まるのかな……と、私は初めてのバイトに胸を高鳴らせるのでした。

ちなみに、当時私はAKBについてほぼ何も知りませんでした。

知っていたのは「マエダ」「オオシマ」という人気の子がいるらしい、ということくらい。顔も全然わかりません。そして、その日の握手する側に「オオシマ」という子がいることは早い段階でわかりました。

ただ、詳しい人はご存じでしょう。
当時のAKBには「オオシマ」が2人がいるんです。大島優子と大島麻衣です。今でこそ世間的にはもちろん優子の方が知名度がありますが、当時は知名度なんてどっちもどっち。

そして、顔もわからなかった私は、いまだにその場にいた「オオシマ」が優子なのか麻衣なのかわからず仕舞いなのでした(笑

「開場しまーす!」の声と共に、新米バイトの私が構えるドアに向かって我先にと押し寄せるオタさんたち。

さあオタさんとAKBの真価を見てやろうじゃないか。

と思ったとか思わないとか。でも、最初は意外とみんな礼儀正しいんです。落ち着いてて、ちゃんと握手券も渡してくれて、あ、こんな感じなのか……ってちょっと拍子抜けしました。

でも、これまでの静けさはなんだったのかと思うほど、会議室に入るとすぐにヒートアップします。何せ中にはお気に入りの子がいるのですから、テンションが低い方がおかしいのです。
すぐに会議室は埋め尽くされて、廊下の列も途切れることはなく、一番多いときは300人くらいは居たのではないでしょうか。

結構人気あるんだな。そんな驚きをまずここで感じました。

そして、今でこそ知識として知っていますが、オタさんたちは、基本的に「握手券を1枚だけしか持っていない」……なんていうことは、まずないんですよね。

数枚なんて少ない方。
多くの人が、数十枚におよぶ握手券を持って、このちっぽけな会議室に集っているのです。

奥のドアで握手券を私に渡して、中で握手をして、手前のドアから廊下に出される。そのまま廊下を通り、私のところに来てまた握手券を渡して握手するために中へ……

そう、つまり無限ループです(笑

いや無限は言い過ぎなんですけど、本当にほとんどの人が数十枚の握手券を持参しているわけで、10回、20回と私にそれをくれる。いくら今日初めてあった人たちとはいえ、この単純接触効果はすさまじいものがありました(笑

だんだん馴染んでしまって、顔見知りみたいになって、

「っす!お疲れーすっ!」

とか普通に声かけてくるし、気持ちはありがたいけれど、こっちは仕事なんですけど(笑

しかも中に入るたびにヒートアップする構造は変わらないわけで、どんどんフロア自体が熱気を帯びて、もう何が何だか。バターできそう。握手券が無くなった人から帰っていくわけなのですが、残っている人は「まだ俺のタネは尽きてないぜ!」といった、謎の矜持も芽生えるようで、熱量が下がらない(笑

そんな熱狂っぷりは予想をはるかに超え、完全に異世界に迷い込んでしまった気分でした。


そして、そんな時に事件が起こります。

私の位置からだと、詳細はほとんど見えなかったんですけど、会議室の中に激しい音が鳴りひびきました。

小銭がぶちまけられる音と、罵声です。

周囲にざわめきがはしり、スタッフさんがあわてているのが伝わってきます。どうやら、列の先頭で握手をしていた一人のオタさんが、何かの拍子で急に怒り出し、アイドルに向かって小銭をぶちまけ、喚き散らしたようでした。

もちろんそのオタさんは、すぐに周りの人に抱え込まれて強制退去の運びとなるのですが、かわいそうなのはぶつけられたアイドルの方。奇しくもそんな災難にあったのは、私が唯一知っていた「オオシマ」さんのようでした。

泣き崩れているところを、両脇を支えられて、こちらも控室に。

アイドルって怖い商売だな。これがトラウマにでもなったらどうするのだろう。少なくとも今日はこれでもう出てこれないだろう。かわいそうに。

握手会は続くようでしたが、私は疲れと熱気にぼーっとする頭でそう考えていました。

……が、ここでも予想はすぐに裏切られるわけです。

出てくるんです、これが。

時間にして十分程度だったんじゃないでしょうか。「みんな会いに来てくれてるんだよ!」「出来る!出来るよ!」と周りのスタッフさんに口々に鼓舞され、背中を押されながら、会議室に戻ってきたんです「オオシマ」さんが。

私には絶対できない。そんな覚悟はない。さっきの人はいなくなったとはいえ、同じような人がいない保証もない。気持ちも落ち着かないこんな状態で、また戻ってくるなんて……

その根性というか、覚悟には本当に脱帽しました
それにアイドルというものをなめていた、とその時に痛烈に感じました。生半可な気持ちでこんなことはできません。もちろん内心はかなり無理をしていたと思いますが、「オオシマ」さんは、無事握手するブースに戻り、あたりは拍手が鳴りやみませんでした。

その後、会場は平静を取り戻し「オオシマ」さんの列はその後も途切れることなく最後まで続いたのでした。

意識したことはなかったのですが、これが私がその後、アイドルオタクになる1歩目であったのは間違いないでしょう。

あの時、私が完膚なきまでに打ちのめされたあの『熱気』と『覚悟』は、他のアイドルでも感じることができます。それがアイドルの素晴らしさです。

今は特定のアイドルを追っかけてはいませんが、また余裕が出来たら現場にも行きたいものです。



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