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開け放たれたドア【ショートショート】【#35】

ケータイのアラームで目を覚ました。

起きたのは11時。今日は3限からだから、12時くらいに家を出れば余裕だ。のびをしながらゆっくりとベットから降りた。枕元に置いてあるケータイを引き寄せてみると、接触でも悪かったのか充電されていない。まだ40%はあるものの、これで一日過ごすには心もとない。まだ家を出るまでに1時間くらいはあるし、その間充電しておこう。ケーブルを指し直してお手洗いに向かった。その後は腹ごしらえだ。

6枚切りの食パンをトースターに突っ込み、つまみをひねる。その間に新聞を取りに行って、常備してある水をコップに注いで、テレビをつける。それがいつものパターンだったけれど、すぐにつまずくことになった。テレビが付かないのだ。リモコンを当てる角度が悪いのかと、向きを変えたり近寄ったりしてみたものの、うんともすんとも言わない。さては電池切れだろうか。替えの電池は置いてなかったと思うし、学校の帰りにでも買ってこよう。とりあえず諦めてテレビ本体のスイッチをぽん。

……つかない。リモコンが動かないくらいなら、軽い話だけれど、テレビが付かないのはオオゴトだ。電源が刺さっているか確認したり、ゆっくり押してみたり、色々試してみたけれど、画面は依然まっくろなまま。……どうしよう一大事だこれ。……それに3限があるから、今はそこまで時間的余裕もない。とりあえずごはんを食べながら考えよう。そう思って、トースターのところに戻ってきたときに気が付いた。

……トースターも動いてない。

パンは突っ込まれたままの姿で全く焼けていない。というよりも、トースターが熱くなった様子がない。もしや、と思い横にあるレンジのスイッチを入れてみるも、こちらも同じように何の反応も見せてくれない。

これは……もしかして、寝ている間に停電かなにかが起きたのかな。

そんな思いが頭を駆け巡るも、ニュースを見ることができなければ、今の状況を知ることもできない。ケータイなら……と、ベットにとってかえって、ケータイをつかむ。充電はあと35%。全く充電されていないどころか、減っている。やはり電気が来ていないのだ。そして無情にも表示される「圏外」の二文字。もともとパソコンはないし、もう他に情報を得る手段がない。

「どうなってるのよ……」

もちろん、その疑問に答えてくれる人はいない。とりあえず、一人で悩んでもいられないので、近くの友達の家に行ってみることにする。とりあえず連絡してみたいけれど、相変わらずケータイ画面には「圏外」の文字が躍っている。ケータイもSNS もダメなら、もう直接行く以外に取れる手段は残されていない。こんな時に近くに住んでいる友達がいて良かった。適当な洋服に着替えて、帽子をかぶってマスクをする。友達の家までは徒歩で5分もかからない。

でも、家を出てすぐに異変に気が付いた。
すぐ向かいにはコンビニがある。普段は割と閑散としているコンビニだけど、今日はそこに大勢の人が詰めかけてるし、何よりも怒声が響いている。あたりには割れた窓ガラスが散乱していて、明らかに尋常じゃない。ホント、あたしが寝ている間に何が起こったの……

そのまま素通りしようか悩んだあげく、結局後ろの方に居たおばさんに、おそるおそる声を掛けた。

「……あのー」
「……何?」
「えっっと……その、何があったんですか?」
「あなた知らないの!?電気が無くなったのよ。電気が急になくなったのよ。それもこの辺だけの話じゃないらしいのよ!かなり広い範囲らしいし、いつまで続くかもわからないんだって!あなたもモノがあるうちに確保しておいた方がいいわよ!」

コンビニに集まる群衆は、そこに残る商品を買い求める人々の群れだったのだ。情報がない中、口コミでこの「異常さ」と「範囲の広さ」を知り、それが、物流の停止いや、日本中の活動という活動の停止を予期させ、瞬く間に恐怖を作り出したのだ。何せ理由がわからないし、「電気」だけでなく「電波」すらもない、となればパニックが起こるのももっともだ。

とにかく、まずは友達の家に行こう。何事もなく無事でいてくれるといいけど。そう思って、足早にそこを離れた。そして、どうやらそんな祈りは神様には関係ないらしい。

彼女の家のドアは開け放たれ、彼女はいなくなっていた。


(続きません)


#小説 #掌編小説 #電気 #ない #ショートショート

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)