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青春と変態は表裏一体であるという証【レビュー】【青春と変態】

奇しくも、「表現の不自由展」が紆余曲折の末、中止となったこの夏。

それとはまったく関係なく、単なる偶然のタイミングの一致で、会田誠の著作である本作『青春と変態』を読んだ。いや結果的には「まったく関係ない」つもりだったけれど、十二分に関係があった(笑

そもそも不適切表現の代名詞の一人である会田さんの作品が選ばれていなのはおかしいと思っていた。エログロは最初っから選外にしていたから……という憶測が飛び交っていたけれど、実際には「津田さんからオファーはあったけれど、最終的に上の人に蹴られた」という流れがあったとご本人がお話ししていた。

小説である今作にも、そういった会田誠のもつ『社会通念や道徳心に対するアンチテーゼを含む、センセーショナルさ』はあふれており、そんな「表現の不自由さ」を十分に体現していると同時に、小説としても大変読み応えのある特異な作品である、といっていいだろう。

なにせ、高校生がスキー合宿に行って、トイレで『のぞき』をする話だ。
本人の言葉を借りるなら、その成分は

赤面 24.3% / スカトロ 8.3% / 吐き気 20.8% / スキー 5.5% / 純愛 15.4% / 涙 2.1% / 犯罪性 12.5% / 思想 0.1% / お笑い 11.0% / 反省 0%

であり、それもあまりにも克明で詳細な「のぞき描写」とともにつむぎ出されるのが、今作「青春と変態」なのだ。

本作は、自身を投射したであろう主人公の少年の『日記』の形態で語られていく。そして上記したように、主眼は「のぞき」だ。

年端も行かない同級生がトイレにしゃがみこみ排泄する行為を、いかにしてのぞくのか、その時の心理や目的。そして、その状態や形状など、あまりにも詳細に語られる、その「のぞき」という行為の数々。

あまりの熱量と克明っぷりに、読んでいるこっちがめまいがしてくる。正直このテンションで最後まで行くのであれば、頭がおかしくなる。そう思った。

これは小説と言う形をとっているだけで、会田誠の自伝ではないのか。
つまり、単なる実体験を読まされているだけなのではないだろうか。そうでもなければ、こんなに克明な「のぞき」の心理や状況が書けるわけがない。あまりにもリアルすぎる。そもそもこの人は、小説家ではなかったはずだが、この描写力は一体なんなのだ。

そんな様々な感情の奔流が生まれ、それが一層の混乱を引き起こす。途中もう持たないかもしれない、と何度か覚悟するものの、読む手は一向に止まらない。結末が気になるとかではない。ある種の呪いを受けてしまったかの様に手が勝手に動くのだ。
ああ、このまま私はどうなってしまうのか。これを読み終わったころには、知らず知らずにかぶっていた「普通の人」の皮は破りさられ、立派な変質者にでも生まれ変わるのだろうか。

そんな心配をよそに、最終的にはこれが結構爽快に終わる。

爽快、というのもおかしな表現だが、最初の最初から貫かれる『変態性』が最終的には行き着くところまで行き着き、そのまま突き抜けてしまったがゆえに、読者に対して一切の妥協も忖度もなく、爽快感と達成感を感じさせるというあまりにも直線的で暴力的な読後感なのだ。

すばらしい。あまりにもすばらしい。

会田誠という、稀有なクリエイターの書いたものだ。ただの作品ではあるまい。そんな意識はもともとあった。ただ、ここまで「読ませる」作品であるとはちっとも期待していなかったので本当に驚いた。あと、思ったより根っからの変態だった。うん。

非常に面白かったし、読みやすい。が、オススメですというと私の品性が疑われてしまうので、オススメはいたしません(笑

でも楽しいので、のぞきが趣味の方はどうぞ一度お読みください(笑


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