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上場会社の子会社になるとどうなる?

最近の経済界では、団塊世代がリタイアするタイミングということもあり、事業承継が大きな話題となっています。特に非公開の中小企業の場合は、家族経営となっていることも多く、事業承継と相続税といった複合的な問題が発生することもしばしばです。

今回の記事では、事業承継ではないのですが、会社のExit手段の一つとして上場企業に株式を売却する場合について考えてみたいと思います。

実際に株式を売却して多額の現金を手にした人なんかもいますから、こうした人に話を聞くのもいいでしょう。しかしその時にはデメリットも把握したいものです。

そもそも上場会社とは?

まず「上場」という言葉自体をしっかりと把握したいと思います。

上場とは次のように説明されています。

企業が自社の株式を、証券取引所で一般の投資家が自由に売買できるようにすること。新規株式公開(InitialPublicOffering=IPO)ともいう。上場するときは新たに株式を発行するなどして、大株主や企業関係者がもつ株式の比率を一定割合に抑える必要がある。上場時に発行する株式の価格を「公募価格」として示し、証券会社が買い手を募る。初めて取引所でつく株価(初値)は、市場での人気が高ければ公募価格を上回り、人気がないと下回る。上場企業は、発行した株式を公募価格で売った分から、証券会社の取り分を引いた金額を手に入れる。
(2013-12-03 朝日新聞 朝刊 1経済)

つまり、「会社の株式を取引所を通して売買できるようにすること」と言っていいでしょう。この行為を行っている会社が上場会社なわけです。

「取引所」とは、株式を取引する場所のことです。実際の取引はオンラインでも可能です。しかしもともとは本当に取引をする場所だったわけで、魚市場のようなものをイメージするとよいかと思います。魚市場が漁港にあるように、株式の取引所も経済活動が活発なところにあります。日本にある取引所は次の通りです。それぞれリンクを入れているので気になる方は見てみてください。

東京証券取引所(東証)

名古屋証券取引所(名証)

福岡証券取引所(福証)

札幌証券取引所(札証)

以前はもっとたくさんありましたが、吸収されていきながら現在のようにまとまっていきました。最たるものは大阪取引所で、これは東京に吸収されています。

ちなみにこの取引所自体が株式会社になっており、決算内容も公開しています。

上場会社になるとやらなければならないこと

上場すると、不特定多数の人に株を持ってもらうわけですから、情報公開を含めやらなければならないことが増えます。主には次のようなものでしょう。

・四半期毎に決算を報告する(四半期報告書と有価証券報告書の提出)
・監査法人からの監査を受ける
・株価を気にしつつ、株主の言うことに耳を傾ける

はっきり言うと面倒だしコストもかかります。でもそれをしてまで上場する会社があるからにはそれなりのメリットがあるのです。それは主に次のようなものでしょう。

・社会的ステータスが上がり、営業活動や採用などで有利になる
・設立当初から入れていた資本金の株価が上昇し、創業者利益が得られる
・市場から資金調達できるようになる

他にももちろんたくさんのメリットがあります。皆さんも考えてみてください。

子会社とは?関連会社との違いは?

上場の意味が分かったところで次に、「子会社」についてです。よく似た言葉として「関連会社」や「関係会社」という言葉もあります。ひとつづつ整理しましょう。

親があっての子なので、親会社と子会社の定義を見てみましょう。

一般には、2社以上の会社が支配従属関係にあるとき、他の会社(=子会社)を支配している会社のことを親会社という。

具体的には、子会社の議決権の過半数を所有していること(持株基準=形式基準)、または議決権の40%以上50%以下を所有している場合でも、子会社と緊密な関係があることにより、自己の意志と同一の内容の議決権を行使するものが議決権の過半数を占めている場合(支配力基準=実質基準)や、役員等が取締役会等の構成員の過半数を占めている場合(支配力基準=実質基準)なども親会社という。

従来、旧商法と証券取引法では、親会社の定義が異なったが、会社法では実質基準の考え方が導入され、証券取引法(現在の金融商品取引法)とほぼ考え方が同一となった。

野村證券 用語解説ページより)

議決権というのは株主総会における票数のようなものです。全体を100とした時に過半数を持っていれば親子関係が自動的になりたち、40%以上持っているが過半数ではない場合でも、実質的な基準を見て判断するようですね。つまり子会社というのは、重要な意思決定をする時にいちいち親の顔色を伺わなければならない、あるいは親が言う通りにしなければならない会社、と言えます。

そして子会社は基本的には親会社の連結対象です。つまり親会社が株主に対して公開する決算内容に組み込まれるわけです。

続いて関連会社の定義です。

株式会社(当該会社が子会社を有する場合には、当該子会社も含む)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の会社の財務、営業、事業の方針について重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の会社のことを関連会社という。

野村証券 用語解説ページより)

関連会社の場合は、出資こそなくても実質的に意思決定に影響を与えている場合は含まれますね。現実的にはほとんどの場合が出資関係があると思います。関連会社を一言で言うと、子会社ほどではないがそれなりに親会社の影響を受ける会社、と言えます。

決算に関しては、ほとんどの場合持ち分法が適用されます。これは一行連結とも言いますが、子会社の時価を親会社に反映させるとでも考えてください。つまり、親会社の連結財務諸表上には、売上などの各勘定科目ごとで合計されるのではなく、親会社の一項目として載ってくるだけです。

株式を売却するとはどういうことか?

上場会社の子会社になるには株を親会社に売れば良いわけです。その時の価格が問題になり、株価を査定する方法にはいくつかの種類があります。この記事でそこを深追いすると厄介なので省きますが、過去からの決算で業績が良く、今後の見通しもよければ、当初出資した時の金額よりも大きな金額で売れます。

創業社長が100%株を持っていた場合であれば、その社長が株を売却した分だけ個人の懐にお金が入ります。(もちろん税金の申告もします)

100%のうち、60%を売却して残り40%を保持するなど、売却する株の比率は自由です。もちろんその比率によって子会社になるかならないか、関連会社になるかならないかが決まります。

子会社になるメリット

まずメリットを見てみましょう。まず株を売却するわけですから、現金が手元に入ります。例えば自社の株価が上がっていて相続が、、、なんて心配をしている方は現金が手に入ることによって、相続税の心配は少し減ります。相続税自体がなくなることはありませんが、いかんせん税金は現金一括納付。だから現金を資産として遺せるのは非常にメリットがあります。

他には親会社側のリソースを上手に使えるかもしれないというメリットがあります。親会社の信用を利用できるので取引条件が良くなることは一般的にもよくあります。

あとはお金の心配が減ることでしょうか。銀行借入がやりやすくなるでしょうし、代表者保証も外れていく方向になると思います。ただこの銀行に関しては、個別企業をそれぞれの銀行が審査するので、必ずしもメリットが出るとは限りません。今まで通り、金利も低くならず、保証も求められることもあるかもしれません。そんな時は、親会社から借りるということも親子関係の債権債務は情報公開されますから、安易に利用するべきものではないかもしれないですね。

子会社になるデメリット

続いてデメリットを考えましょう。なんと言ってもその第一は、親会社の影響を受けることです。今までは簡単に決めて進めることができた事案も、いちいち親会社の意向を問わなければならなくなります。例えば新たに不動産を取得する場合です。購入する場合は当然大きなキャッシュアウトになりますし、賃貸であっても敷金や前家賃などがあります。そこを工場や店舗にするとなれば、内外装の工事でさらに支出が続きます。こうした大きな意思決定を単独ではできなくなります。新しい事業に取り組むなんてときにはなおさらですね。

経営方針についても、株主の影響を間接的に受ける可能性があります。親会社の株主が求めるのは配当や売買益です。ですから短期的な視点で意見を言う傾向にあります。長期的視点に立ち、短期的な赤字を甘受しながら会社の成長を目指す、なんてことは理解させるのに一苦労です。もちろん子会社がわざわざ親会社の株主に何かを説明するわけではありません。しかし親会社の連結財務諸表に加わるわけですから、赤字を垂れ流すわけにもいきません。子会社の赤字は、親会社の連結財務諸表の評価を落とし、その結果親会社の株価下落の原因になります。そうすると株主は黙っていないでしょう。株主総会などでは、なぜこの子会社を持っているのか?どうやって黒字にするのか?むしろこの子会社の株式を今のうちに売却しておいた方が良いのではないか?などと言った意見が出るでしょう。

内部統制などの体制が強く求められるのもデメリットです。内部統制は当然あってしかるべきですが、一方では業務の効率性を奪います。子会社が親会社の重要な業務プロセスを担っている場合などは、監査法人から直接監査を受けます。そうでなくても内部統制が有効であることは必要で、今までは社長が一人でどんどん決めていたことが、わざわざ社内で稟議をまわして承認をしてからでないとできなくなることもあります。

親会社から役員が派遣されてくることもあります。極端な例では、取締役のメンバーが全て親会社関係の人ということも。またそうではなくても、監査役が親会社の人であったり。

総じていえば、経営の自由度が下がるといってよいでしょう。

相続対策としてみた場合

あなたが中小企業の経営者で、自社の株価が上昇してどうしよもないと困っているとしたら、相続対策の視点で上場会社に株式を売却することは祐光港かどうか考えてみましょう。

既に述べたように税金は現金一括です。したがって、会社にたくさんの現金がある状態であれば、無理に株式を社外に売る必要はないでしょう。株式を相続した方が、現金を一時的に会社から建て替える、あるいは減資するなどをして相続税を収められます。

会社の株価がどうなっているかは、顧問税理士がいればその方に相談するのが良いでしょうし、いなければ税務署などに相談してみましょう。

「あなたの会社の株、買いますよ」と言われたら?

よくあるのが、上場を目指している会社が上場基準を満たすために、「あなたの会社の株を買いますよ」と言ってくるケースです。

こういう話を受けたら、まず自分の会社のためになるかどうかだけを考えましょう。既に言ったようにデメリットもたくさんあるわけですし、それを踏まえて売却しようと思ったとしても、それが「今」である必然性はないわけです。

おそらく多くの場合、上場を目指すと言っている会社のオーナーのためにしかなりません。むしろそれが分かっているから「買いますよ」とそそのかしているわけですから。

「経営に口を挟まないので」なんて言われても要注意です。親会社の業績が悪い時に口をはさむのは株主です。その株主の意向を受けて子会社の管理方針なんて、いきなり180度変わることもあり得ます。

あと考えるべきは従業員です。中小企業の従業員は、大企業と違って社長との距離が非常に近いです。その社長がオーナーだから働いている、という人情もある世界です。

そこに例えば親会社からの役員が来たら従業員はどんな反応をするでしょうか?あるいは親会社からの出向者が重要な役職を占め、もともといるプロパー社員が虐げられるようなことがあったらどうでしょう?

そんなドラマみたいなことが。。。と思う方もいるかもしれませんが、決して大げさな話ではありません。

株を売った直後は現金が手元に発生するので良かったと思えるかもしれませんが、その現金は一時的なものです。毎年出るわけではありません。さらにこれからは配当も出さなければならないかもしれません。

中長期的に考えると、大きな後悔を生む可能性もあるのではないでしょうか?

考えるべきは「会社の理念」

さて、メリットやデメリットを書いてきましたが、結局考えるべき最大のことは「会社の理念」です。

いったい何のために会社が存在しているのか、従業員に対して会社はどのような意味や価値を持つのか、取引先に対してはどうなのか。そして自分自身に対してはどうなのか。中小企業のオーナーの場合、これに家族も加わることがあります。

中小企業は地に足の着いた立派な理念を掲げている会社がたくさんあります。大企業のように、とげのない美麗美句を並べて実体のない理念ではないのです。

その自社の理念を追求して考え抜いてから結論を出すべきでしょう。

皆様のお役に立てるよう日々邁進してまいります!