見出し画像

入金消込って必要!?〜DXの前処理【1】

言いたいこと!

入金消込を行っているなら、即座にやめるべし。現場の負荷でしか無い。現場で決められないなら経営者が判断を。

はじめに

私はERPの導入コンサルテイングを行っています。今まで、大企業へのSAP導入プロジェクトや中小企業のSAP Business Oneの導入、内部統制の構築、経営者、会計事務所勤務などの様々な経験をしました。それを総動員して、クライアントの業務最適化にあたっています。

ERPの導入というと、その対象範囲は全てです。
会計、販売、購買、在庫、生産、ありとあらゆる業務が対象となります。

その中でも本記事のポイントは、入金消込業務。
もちろんそもそも入金消込を行っていない場合は問題ないのですが、原状行っている場合には、その意味や負荷を考慮して、本当に継続する価値があるのかを検討してもらいます。
今まで入金消込を行っている会社の場合、継続するのが当たり前になっていて、「消し込みしないってどういうこと??」というところからスタートするのですが、本記事ではまさにここからスタートして解説していきたいと思います。

売掛金の管理手法は二通り

まず「入金消込」とは何かを確認します。ここでは「入金消込」とは取引先から入金があった際に、その入金と請求書を突合する業務プロセスとします。入金はシステムに記録しますから、入金の登録と同時にすでに発行した請求書に対して消込完了したことを示すフラグを立てる、などの処理を行います。

入金消込をしない場合にはわざわざ請求書と入金の突合をしないのですから、その場合の業務プロセスは至って簡単です。かといって請求残高そのものは管理します。そうでないといわゆる取りっぱぐれが発生してしまいます。

では具体的な例を上げて、上記の二通りの業務プロセスを追いかけてみましょう。

共通の例として、得意先Aに対して次のように請求書を発行していたとしましょう。

No.1    7/31 発行    300,000円
No.2    8/31 発行    120,000円
No.3    9/30 発行    230,000円

更にこの得意先からの入金が次のようにあったとします。
9/25  120,000円の入金 = 入金伝票①
10/25 200,000円の入金 = 入金伝票②

<1>入金消込を行う場合

入金消込業務は当然ですが入金があった時に発生します。具体的には9/25ですね。
この時に120,000円の入金がありますから、この額で請求を探します。すると請求書No.2が120,000円であることがわかります。
その結果、この得意先に対する請求状況は次のようになります。

No.1    7/31 発行    300,000円
No.2    8/31 発行    120,000円 <=9/25 入金あり
No.3    9/30 発行    230,000円

この時点では、8/31に発行した請求書No.2が消し込まれています。しかしその一ヶ月前に発行した300,000円の請求書はまだ消し込まれていませんね。

では次の入金を見てみましょう。次は10/25の200,000円の入金です。これと同じ額の請求書を探してみますが、見つかりませんね。
ではどうすればいいでしょうか。
得意先にいいてみたところ、「9/30の請求に対する支払いです」と回答があったとします。しかし9/30には230,000円の請求をしていますから、30,000円不足しています。
一応これまでの請求状況をまとめると次のようになります。

No.1    7/31 発行    300,000円
No.2    8/31 発行    120,000円 <=9/25 入金あり
No.3    9/30 発行    230,000円 <=10/25 一部入金あり(30,000円不足)

9/30の請求に対して30,000円不足していますが、そもそもさらにその前の7/31の請求に対しては1円も支払われていません。

ではこの状況でこの得意先から500,000円分の注文が来たとしましょう。
この受注を喜んでいいでしょうか?
通常であれば当然喜ぶところですね。売上が立つわけですから。

しかしビジネスとしては、お金が入ってきて初めて完了します。お客様とはいえ7/31の請求分にも支払って来ていないので、この先も不安ですね。

どう判断すれば良いのか迷いますね。

いずれにしても入金消込を行う場合には、入金の都度対応する請求書を特定し、各請求書に対する支払状況を把握することになります。

<2>入金消込を行わない場合

では今度は入金消込を行わない場合を考えましょう。
流れは<1>のケースと同じです。9/25に120,000円の入金がありました。
9/25時点ではまだ9/30の請求書は発行していませんから、取引の履歴は次のようになります。

No.1    7/31 発行    300,000円
No.2    8/31 発行    120,000円
            9/25 120,000円入金あり
=>9/25入金後の請求残高=300,000円

入金消込を行わないので、入金された120,000円はどの請求書に対応するものか関係ありません。とにかくこの得意先には残高が300,000円ある、という状態を把握するのです。
そして9/30の請求ですが、この月の請求額は230,000円だとしても、繰り越している300,000円も合わせて請求するのです。

繰越額   = 300,000円
当月発生額 = 230,000円
合計請求額 = 530,000円

この530,000円を請求書に記載するのです。もちろん相手にはその内訳がわかるように、繰越がいくらで、当月発生したものがいくら、というのは明記します。

次に10/25に200,000円の入金がありました。
その結果、状況は次のようになります。

請求残高    530,000円
入金      200,000円
残りの請求残高 330,000円

入金額の200,000円はどの請求に対するものなのかは関係ありません。
とにかく残高を把握します。この残高のことを与信残高といいます。売掛残高、請求残高などとも言いますが、どれも同じ意味です。
書いて字のごとく、相手に信用を与えている残高です。530,000円の入金がまだだけど、相手を信頼してるから取引していますよ、という意味合いですね。

業務的には、この与信残高に対して、上限を設けることもあります。この上限額のことを与信限度額といいます。
与信限度額を越えたら取引を停止するためにこのような上限を設定します。

具体的に見てみましょう。
例えばこの得意先に対する与信限度額を500,000円としましょう。10/25に入金があるまでの与信残高は530,000円でした。だからこの状態ではこの得意先からの注文は一時的にストップします。
しかし10/25に200,000円の入金があり、その結果与信残高が330,000円になりました。
与信限度額である500,000円を下回りましたので、この得意先からの注文受付を再開します。

このとき、得意先から次のような問い合わせがあったとしましょう。

「先日200,000円のお支払いをしたのですが、どの請求書に該当するものかわからなくなったのですが教えていただけますか?」

この質問、回答する意味ありますか?むしろこっちだってわかりませんよね。

このように入金消込を行わない場合は、与信残高を把握し、その金額に応じて注文の受付を切り替えます。

おすすめの方法は?

私がおすすめする、というかほぼ強制するのは入金消込を行わない方法です。

ここまで読んだ方ならわかっていただけたと思いますが、入金消し込みは面倒です。面倒でも意味があれば良いのですが、意味はありますか?

まれに、入金消込をやめてもらおうとすると、取引先からどの入金がどの請求に対応するのか質問が来た時に困る、ということを言う方がいます。
しかし断言できますが、その質問自体に意味がありません。ですから次のように回答すれば良いのです。

「当社では請求書に対して入金を突合することはしていません。御社に対する売掛金の残高はXXX円で、この額を持って与信管理をしています。もしよろしければ、売掛金の補助元帳をお送りしますのでそちらで確認されてみてください。」
これほど誠意のある回答はありません。(笑)

まれに官公庁が相手だと、請求と入金の突合が必要、と言われることがあります。私はそれでもなお、入金消し込みは内部の業務としてやってはダメだといいます。面倒で時間がかかるからです。それに官公庁であれば、たいてい請求どおりに順番に払ってくるでしょうから、元帳を見ていけば十分です。

経営者の関与は必須

以上に書いたように、私のオススメは断然入金消し込みは行わない方法です。
しかし、今まで入金消込を行っていた会社の場合は特に、担当者がなぜか不安がって入金消込を引き続き行おうとします。
担当者からすると、変更することによって万が一不具合があって怒られるようなことがあったら困るからでしょう。
万が一にも不具合はないですし、困ることもないのですが、やはり人間は本能的に変化を嫌うものなのです。

ではどうすれば良いか?

中小企業であれば、経営者(社長やそれ準ずる意思決定者)が関与することです。

システム導入の際に経営者が積極的に関与しない場合がありますが、その場合にはこうした業務改善のチャンスを逃すことになります。

これは非常にもったいないことです。絶対に経営者が前のめりに関与して、システム導入を機に業務プロセス全体を見直す機会と捉えていただきたいものです。

不要な業務で従業員に無理をかけていないか、しっかりと中止していく必要があります。無駄な業務が減れば、会社もその担当者もハッピーですから。

まとめ

長々と書いてきましたが、要するにシステム導入は経営者が積極的に関与して単なるシステム刷新ではなく業務そのものを改善する機会と捉えるべき。その中でも入金消込業務は現場はやりがちなので、売掛金残高による与信管理に切り替えるようが良い。現場手動で動かないなら、経営者がみずからその意思決定を行うべし。

以上、ありがとうございました。


皆様のお役に立てるよう日々邁進してまいります!