会計事務所の未来

どんな会社も最低でも1年に一回の法人税申告があります。決算をして、税金を計算、そして納税するという一連の流れですね。

中小企業ではほぼ100%、法人税の申告を税理士や会計事務所(以降この二つをまとめて会計事務所と表記します)に委託しているかと思います。それどころか、経理業務全般を委託するケースも多いでしょう。

ビジネスとして見た場合、会計事務所は安定した売り上げが継続する仕組みに見えますね。

今でこそインターネットで会計事務所の価格比較が容易になりましたから価格破壊が起きていますが、一昔前までは今と比べると割高な顧問料を継続的にもらえる仕組みでした。実際街を歩いていると、会計事務所が所有するビルがよくあります。特に地方都市なんかにいくと、びっくりするくらい多いものです。それもそのはず、平成14年までは税理士報酬というのは税理士会が定める報酬規定に従って料金が一律に決まっていました。今考えると驚きの仕組みですが、弁護士の料金も同様、平成16年までは固定されていたんですね。当時の価格を見るとびっくりしますが、今の倍以上はしています。

一見美味しそうな会計事務所ビジネスですが、今後の時代の流れを踏まえてどうなっていくのでしょうか?自分自身も会計事務所で3年ほど勤務した経験を踏まえて考えてみたいと思います。

そもそも会計事務所の業務とは?

会計事務所の業務は実に多岐にわたっています。税金の申告がメインですが、税金といっても個人であれば所得税や相続税、贈与税がありますし、法人であれば法人税、消費税、固定資産税など実にたくさんの税目があります。こうした税金の申告を代行するのが会計事務所のメイン業務です。もちろん単に申告書を作るだけではなく、節税策があればそれを提案するのも仕事です。

それ以外にも、決算書作成やそれに至るまでの記帳代行があります。記帳代行というのは通帳や請求書、領収書などの資料を依頼者から預かり、会計ソフトに入力を行う業務です。

最近では中小企業でもM&Aが身近になってきましたから、それに伴うアドバイザリー業務やデュー・デリジェンスを行う会計事務所もあります。その他広く、経営全般に関するコンサルティングも行うところがありますね。

申告書の作成は難しい?

申告書の作成自体は実は大した作業ではありません。申告書というフォーマットが、どの税目でもA4縦で印刷することを前提としてレイアウトされているため、数字が別のページにリンクしたりしてわかりにくくなっていますが、申告書のフォーマットの問題に過ぎません。このフォーマットがPCで申告書を作業することを前提として作り替えられれば、AIどころか一般人でも容易に申告書を作成できるでしょう。

実際ほとんどの会計事務所には、税務申告用のソフトがあります。

私が会計事務所で働いていた時に使われていたのは、NTTデータの達人シリーズです。法人税に関しては、会計側の情報が固まれば、どこにどの数字を入れるのかだけわかれば誰でもすぐに申告書を作れるようになります。実際私も全くの未経験で会計事務所に入所しましたが、入所したその月には申告書を作成できました。

消費税や所得税、固定資産税も同様です。最初の登録作業が面倒なだけですね。

相続や贈与税は私は経験していないのでよくわかりませんが、申告書作成という作業自体は簡単だと思います。

作業が簡単とは言えミスは許されません。もちろん人間が絡むことですからミスは生じるので、修正申告などの手続きが用意はされています。税務調査の後にも指摘を受ければ修正申告になります。

重要なのは、顧客側に正確な税務申告書を作ってもらいたい、というニーズがないことです。多少のミスはあるにせよ、正確であることが前提となっているので、付加価値になり得ないのです。

ちなみに私の勝手な未来予測ですが、あらゆる取引が日銀公認のブロックチェーン上で取引されるようになり、消費税の納税は即時に、年次決算や法人税計算も一瞬でできるようになると思っています。そうすると会計業務自体がなくなってしまいますね。

AIに代替可能な会計事務所業務

会計事務所の業務のうち、「作業代行」的な部分はAIに代替可能です。人間がやっても必ず一定の確率でミスが起きますから、一刻も早くAIに代替されるべきでしょう。

具体的には、記帳代行業務や決算書、申告書作成業務は完全にAIに代替可能です。会計処理の選択によって、税金上の有利不利が出ることがありますが、こうしたことも基本的には担当者が「知っているか知らないか」の世界です。経験の差ということもできます。今ではどんな情報も調べればすぐに分かる時代ですし、この調べるという作業時代もAIがやってくれるのは時間の問題です。実際、アレクサに話しかければある程度のことはわかりますね。経験の差は今までは確かに差別化要素だったとは思いますが、今の時代誰もがその経験を疑似体験できるくらい情報が溢れています。

事業承継やM&Aといったマッチングビジネスは?

後継者問題などから昨今は事業承継が経営課題となる企業が多数あります。事業承継税制も作られ、スムーズな事業承継が行われるための土台づくりも進んでいます。事業承継はほとんどの当事者にとっては人生初のことが多く、ネットで調べてもまだまだわからないことがたくさんあります。したがってここに会計事務所の入り込む余地があります。

普段の業務を通して財務に関する情報を細かく持っているわけですから、当然ながら事業承継につながるアドバイスが可能になります。また会計事務所では多数の顧客を持っているでしょうから、売り手と買い手をマッチングさせることも可能でしょう。

ただ、売り手にとってはあらゆる企業が潜在的な買い手です。それを会計事務所の顧客で絞り込む必要はありません。あらゆる可能性を検討したいものです。

会計事務所側は付加価値を出したい、マッチング成功したら手数料をもらいたい、付随するデュー・デリジェンスなどの業務報酬も欲しい、などのインセンティブがあるので良いですが、これは完全に顧客無視ですね。顧客目線ではあらゆる可能性を検討したいわけで、本当に最終的なベストソリューションが会計事務所の他の顧客であれば良いのですが、実際はそうとは限りません。

M&Aのマッチングに関しては、自社で普段顧問契約をしている会計事務所ではなくても、マッチングサービスを提供するコンサルティング会社などは多数存在します。基本的なビジネスモデルは全て、マッチングの手数料やデュー・デリジェンスなどの業務報酬です。

業務に関する報酬はいいのですが、マッチング手数料というのはいかがなものでしょう。正直これが成り立つのは情報を隠しているからであって、このインターネット時代(インターネット時代はすでに20年前に始まっていますが)には時代錯誤です。

情報を隠すことで成り立つこのマッチング手数料は、業界の悪しき慣習として残っており、事業承継の足かせとなっているケースもあると思います。

つまりマッチングは広く情報を集めておこなうべきであり、顧客の利益にフォーカスしなければならないのです。

企業価値が査定する人によって異なるという現状

M&Aなどに絡めてもう一つ問題を指摘すると、企業価値を査定(デュー・デリジェンス)する際に、査定する人や事務所によって企業価値に差が出てしまうということが挙げられます。

これは弁護士業務でも言えるのですが、同じ罪で担当する弁護士によって罰が異なることがあります。もちろんこれが弁護士の力量の差ではあるのですが、同じ事実が発生しているのに結果が異なるというのは、法の下の平等とという精神に反しているのではないでしょうか。

企業価値の査定に関しても同様です。同じ事実でも価値に差が出るのは不平等に思えます。もちろんそこは交渉力の差であり、交渉力自体がビジネス上の重要ファクターであることも事実ではありますが、殊更会計問題に関していうと、一定の手続きや規則で価格査定を行っても差が出てしまうというのは、問題があると思っています。

先に書いた私の勝手な未来予測のように、全ての取引がブロックチェーンで記録されるようなことになると、それをもとにAIが過去の取引の履歴や将来の予測を正確に行うことによって、企業価値の算定に差は出なくなるでしょう。そうするとデュー・デリジェンスという業務も不要です。

会計事務所にとってのカスタマーサクセス

会計事務所がフォーカスすべきは作業代行ではなく、顧客の成功(カスタマーサクセス)への貢献です。これはあらゆる業種で言えることです。会計事務所にとってのカスタマーサクセスとは何でしょうか?

売り上げを上げることでしょうか?同業他社の情報を持っていたりするので、そうした情報を提供することで売り上げ向上に貢献できるかもしれませんが、他のクライアントの企業秘密を漏らすことになりかねません。

経費を削減することでしょうか?これは会計事務所業務の中で無駄な経費はわかるでしょうから、アドバイスはできそうですね。

税金を安くすることでしょうか?現実的にはここに大きな比重を置いている会計事務所が多く、節税と称したキャッシュアウトをして企業価値を毀損している会社が多数ありあます。個人的には、節税は結局企業価値を損ねることにしかならないので全くお勧めしていません。まぁ好きな人は好きなので、どうしよもないですね。。

さて、会計事務所にとってのカスタマーサクセスは、やはり企業や事業が存続することではないでしょうか?

その目線で事業承継をとらえると提案する内容も異なるかもしれません。PL上の黒字を追い求めても会社が継続できるとは限りません。金融機関との良好な関係を保ちながらいい融資を受けられる状態を築くことも必要です。

現実問題として、会計事務所は斜陽ビジネスです。時代の変化を先取りし、新しい会計事務所に脱皮していくことが強く求められています。

参考



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