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テイラー・スウィフトと英米文学 ③『ナルニア国物語』

テイラー・スウィフトと関係の深い文学作品を勝手に紹介していきます。
第三弾です。

前回のLove Storyと『緋文字』についての記事はたくさんの方に見ていただきとても嬉しかったです!

さて今回は、曲ではなく2014年のInstagramの投稿から。

「遥かに素晴らしいものが待っている」

「後ろに置いていくものより、遥かに、遥かに素晴らしいものが、我々の先には待っている。 − C.S. ルイス」

当時のテイラーの状況を説明すると、14ヶ月をかけて世界中を回ったREDツアーが無事終わったばかりでした。
ツアーロスに陥ったファンの間で#LongLiveREDTourというハッシュタグがトレンド入りしていたのを覚えています。

そんなとき、テイラーがこの画像をInstagramに投稿しました。
キャプションは"Just so you know..."(「みんなに知っておいてほしくて...」)。

テイラーは一つ一つのアルバムツアーに毎回しっかりとしたコンセプトを定め、2年ほどかけて世界を回るので、それぞれのアルバムツアーをファンが「era(時代)」という区切りで呼び分けるのがとてもしっくりきます。
RED eraが終わってしまったことを嘆くのではなく、次のeraがさらに素晴らしいものなることを約束するような投稿でした。

この投稿の数ヶ月後に始まった1989 eraでは、アルバム発表前に手書きの歌詞をInstagramに連続投稿したり、特典のポラロイドにも手書きの歌詞が書いてあったりと、この時期は「手書きの文章」にハマっていたのかな、と今振り返ると思います。笑

背景を知ると意味は変わる

この投稿にある文言は何かというと、イギリスの文豪C.S.ルイスが1963年に友人に宛てて書いた手紙からの引用です。
この一文だけを見ると、過去よりも未来を向いて前向きに生きていこうというポジティブなメッセージに受け取れます。テイラーもそういう意味で引用したのでしょう。


しかし、実際にルイスの手紙を読むと、微妙に異なったニュアンスが生まれます。
というのも、これは深刻な病に臥せっている友人に宛てた手紙であり、キリスト教徒のルイスは「現世よりも死後の世界(つまり天国)の方が素晴らしいのだから死を怖がることはない」という意味で書いているからです。

もちろん、テイラーはあくまで最新アルバムに向けての前向きなメッセージとしてこの引用を選んでいます。テイラーがルイスの手紙の背景を知っていたかどうかもかなり怪しいと思います。
しかし、このように表面上の文面から読み取れる意味と、原文にある文脈から汲み取れる意味が違うことがあるのは面白いなーと思ったので取り上げてみました。

せっかくなので、C.S.ルイスの代表作である『ナルニア国物語』シリーズにおけるルイスのキリスト教観についても少し書いてみたいと思います。

『ナルニア国物語』について

『ナルニア国物語』は全7作からなる、イギリスの児童向けファンタジーです。
1作目の『ライオンと魔女』が一番有名でしょうか。クローゼットの奥がナルニアという不思議な国につながっている、という設定がとても印象に残ります。

それぞれ少しずつ主人公や時系列が異なるのですが、基本的にはイギリスに住む子供がナルニアに迷い込み、そこで不思議な人物や魔法の生き物たちと出会い、優しさと正義を学びながらナルニアの歴史を作っていく、という風に進んでいきます。
7作全てに登場する唯一のキャラクターは、アスランという名の大きなライオン。
ナルニア国の守護者として、迷い込んだ子供たちを厳しくも暖かく見守ります。

7作もあるのに、そしてどれも同じナルニア国に関する話なのに、一つ一つが微妙に違ったテイストの王道ファンタジーで大好きです。

クローゼットの奥、駅舎の中、絵画に描かれた船、屋根裏と、毎回ナルニアへの入り口が違うところも、読んでいてワクワクします。

『ナルニア国物語』とキリスト教

C.S.ルイスは、ナルニアの世界のことを「キリストが別の姿で存在する並行世界」と言い表したことがあります。この「キリスト」とは、ライオンのアスランのこと。

もちろんシンプルにファンタジーとして楽しむだけでも充分すぎるほどの名作ですが、キリスト教的な価値観が根底にあることを念頭にシリーズを読み返すと、今まで気がつかなかった側面が見えてきます。

『ライオンと魔女』で、一度魔女に殺されたアスランが生き返ること。
たまに子羊の姿で現れること。
悪い人間は罰として「喋れない」獣に変えてしまうこと。
魔法の林檎という存在。
最終作である『最後の戦い』におけるアスランの決断。

子供のころに読んでいたときはわからなかったのですが、あくまでも「知らなきゃ気づけない」程度にキリスト教の影響が含まれていることが見えてきます。

私個人はキリスト教徒ではないですが、人道教育としても、純粋にエンタメとしても『ナルニア国物語』は素晴らしい作品だと思います。
ただ、もし読んでいて「なんで突然こうなるの?」と少し引っかかったりしたら、背景にキリスト教があることを知っておいて損はないと思っています。

正義の話、優しさの話、勇気の話。
キリスト教の中でも(というか、どの宗教でも)特に生きる上で大切なメッセージが『ナルニア国物語』というファンタジーに包まれているのだと思います。





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