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テイラー・スウィフトと英米文学⑤ 『グレート・ギャツビー』とreputation


テイラー・スウィフトと関連の深い文学作品を勝手に紹介します。第5弾です。

今回は、1920年代アメリカを代表する作家の一人、F.スコット・フィッツジェラルドについて書いていきます。

テイラーはフィッツジェラルドが大好き

テイラーはこれまで数々のインタビューで「フィッツジェラルドの作品が好き」と公言してきました。
Instagramにも、何度も彼の引用を投稿しています。
飼い猫のベンジャミン・バトンも、フィッツジェラルドが書いた『ベンジャミン・バトンの数奇な人生』という小説から名付けていますね。

私もフィッツジェラルドが大好きなので、一つ一つについてじっくり考えたいくらいですが、今回は彼の代表作『グレート・ギャツビー』とテイラーのアルバムreputationに出てくる曲の関係性に絞って書こうと思います。

『グレート・ギャツビー』

2013年にレオナルド・ディカプリオ主演で映画化されたことでご存知の方も多いと思います。フィッツジェラルドの代表作です。


7年前に別れた恋人デイジーを取り戻すために大富豪まで成り上がった謎多き男、ジェイ・ギャツビーの物語を、友人のニックが語っていく小説です。

過去に囚われたままのギャツビーと、天真爛漫なデイジーと、お金や名声が中心の社交界に居心地の悪さを感じるニックの三者の心の移り変わりがとても切なくて美しくて、何度も読み返している大好きな作品です。

reputationよりThis is Why We Can’t Have Nice Things

2016年にかなりの騒動となった、カニエ・ウエストとキム・カーダシアンとの関係性について書いたと思われるこの曲。
冒頭にこんな歌詞が出てきます。

It was so nice throwing big parties
Jump into the pool from the balcony
Everyone swimming in the champagne sea
(中略)
Feeling so Gatsby for that whole year

派手なパーティーを開くのはとても楽しかったわ
バルコニーからプールまで飛び降りるの
みんなシャンパンの海で泳いだりして
(中略)
あの一年間はギャツビーのような気分だった


ここでギャツビーの名前が出てくる意味を少し考えてみました。
※以下小説のネタバレ含みます


派手なパーティー、儚い友情 

もっともわかりやすい理由として、派手なパーティーがギャツビーの代名詞であることが挙げられます。
小説の中で、ギャツビーは毎週のように何百人も屋敷に招いて朝まで大騒ぎをします。
あまりに大規模なパーティーのため、招待客のほとんどがギャツビーと会ったことがありません。彼の噂ばかりが屋敷を駆け巡りますが、実際にギャツビーがどういう人物なのか、誰も知らないのです。

そしてギャツビーの死後、あれだけ大勢いた招待客のうち、誰一人としてギャツビーの葬式に来る人はいませんでした。
彼らは皆、ギャツビーの富や名声に惹かれて参加していただけで、彼の本当の姿には一切興味がなかったのです。

テイラーの話に戻りましょう。

2016年当時、彼女はたくさんの友人を繰り返しステージや自宅に招いていました。
特に仲の良い友人たちとの写真を何枚もInstagramに投稿し、日本のメディアでも「テイラー軍団」などと呼ばれ取り上げられていました。


そんな折にカニエ・ウエストとキム・カーダシアンとの騒動が起きます。
「テイラー軍団」と呼ばれた人たちの中でも、SNSでテイラーを攻撃するような投稿をしたり、あるいはパタリとテイラーとの縁を切ったように見える人が出てきました。
テイラーはこの騒動を境に友達との写真を投稿する回数が激減しました。


もちろん、真相は知る由もないですが、私にはこの様子がどうしてもギャツビーと重なって思えます。
フィッツジェラルド好きを公言するテイラーがこの小説を読んでいないはずはないので、かなり意図的に自分をギャツビーに例えたのではないかと感じます。


ギャツビーがパーティーを開いた理由

そもそも、ギャツビーはなんのために派手なパーティーを開いていたのか。
ここにもテイラーとの共通点があります。

彼の過去は、家柄も人脈もない、貧乏な青年でした。
何年も努力し、闇ビジネスで登りつめた彼は、そんな過去を払拭するかのように、またデイジーを繋ぎとめられなかった過去の自分に当てつけるように、湯水のようにお金を使ってパーティーを開催していたのです。

一方、テイラーは「軍団」などと揶揄されていた当時について、こんな詩を書いています。

No amount of friends at 25
Will fill the lunch tables of your past
The teams that picked you last…
But Darling, you keep trying.

25歳でどれだけ友人を作っても
昔の孤独な昼休みが満たされるわけじゃない
いつも最後に選ばれた体育の時間も…
それでも虚しくもがくのね
(If You’re Anything Like Me より)

学校で虐められていたテイラーは、過去の自分を塗りつぶすように豪遊していたギャツビーと同じく、当時の孤独な学生時代を取り戻すためにたくさんの友人で周りを固めていたんだ、と告白しているように聞こえます。
This Is Why You Can’t Have Nice ThingsのCメロでは「本当の友情」についても触れているので、やはりその幾分かはテイラー自身も空虚な関係性だと感じていたのかもしれません。

おまけ reputationよりDon’t Blame Me

ギャツビー関連でもう少しだけ。
同じくreputationに収録されているDon’t Blame Meでこんな歌詞があります。

I once was poison ivy
But now I’m your daisy

昔は毒のウルシだった私も
今はあなたのヒナギク(daisy)なの


Posion ivyとdaisyという二つの植物が対比されていますが、個人的にはこのDaisyもギャツビーの想いびとの名前デイジーにかかっていると思っています。

小説の中のデイジーは可憐で素直で天真爛漫で、ギャツビーに恋している時の彼女はまさに理想の恋人。
ギャツビーが人生を捧げて愛したデイジーに自分を例えた歌詞なのかもしれません。
(どうやら「ポイズン・アイビー」という女性ヴィランがバットマンのコミックスに登場するらしく、それにもかけているのかもしれません!ファンの間の一説です。)

まだまだフィッツジェラルドとテイラーの共通点はたくさんあるのですが、それはまたいつか。笑

おまけのおまけ 『グレート・ギャツビー』の翻訳について

海外文学を読む醍醐味の一つは和訳の選び方だと思っているのですが、『ギャツビー』は何度か翻訳者を変えて出版されています。

有名なものは、例えば1994年の野崎孝訳、2006年の村上春樹訳、2009年の小川高義訳。
やはり翻訳はその人の解釈や作品への思いも込められるので、それぞれ読み手との相性も違います。
特にこの作品の場合はかなり翻訳者によって選ぶ語句や文体が異なります。
それだけ器の広い作品ということもありますが...。

ひとつの訳を読んで、「なんか違うなー」と思ったら、別の訳に変えてみるのも手かもしれません。



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