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MODアーカイヴ手引 #0

偉大なアーカイヴは存在するが、それだけで探求する対象を包含できてしまうような、自己完結的な、完全無比のアーカイヴはおそらく存在しない。アーカイヴは必要な情報を入手する場所である以上に、知を自分なりに組み立て、育て、次の未知への手がかりを見つける一つの道具に過ぎない。それに対して、コレクションは自己完結的で鑑賞を主な目的として持つ、相対的に消費的な集合だと定義できるかもしれない。貴重なものを、つまりひょっとするとこの世から消失してしまうかもしれないものを保護するという使命を、コレクションとアーカイヴは共有しているが、奇妙なことに、それらは厳重に保管されればされるほどに消費物の性格を帯びる。私たちはアーカイヴを、このような消費に抗するために使おうとするだろう。

MODは息の長い存在である。息が長いゆえに、チップミュージックあるいはチップチューンという用語と同様、時とともにそれが意味するものと適用される範囲は広がり、あるいは散漫化し、内実を変化させ続けている。私たちが現在MODと呼ぶものは、1987年にリリースされた、Soundtrackerというヨーロッパのホームコンピュータで動作する音楽制作ツールのフォーマットに由来すると考えられている。ここでは、MODは、Amigaというプラットフォームと、このハードウェアが可能にしたサンプリングという手段と、サンプルの実際の配列を行うトラッカーという作曲ツールの特殊なインターフェース(GUI)ならびに機能と、MP3のように暗号化された楽曲データとは異なる譜面情報の透明性とに関連付けられている。ユーザーたちはそこにさらにフリー(つまり、無料で利用可能であること)という重要な要素を付け加えた――Soundtrackerは当初、商用ソフトウェアであった。これらの関連付けは、すぐさま現れたSoundtrackerのクローンでは当然維持されていた。またトラッカーの継続的な開発によって、MODは単なる一つの作曲ソフトウェア内の楽曲フォーマットを超えた共通規格としても改善されていった。この狭義のMODは、1990年代中期をピークとして、以降衰退していったが、しかしそれまでに育まれてきた互換性を、ユーザーたちが手放すことはなかった。

MODの新たな世代の本格的な開始を、私たちは大体1995年に位置づけることができる。1994年のScream Trackerの最終ヴァージョンの登場と、とりわけ同じ年の年末に一般公開されたFastTracker 2によって、MODの主なプラットフォームはAmigaからDOS(その後のWindowsマシンも含めて、単純にPCと呼ぶことも多い)へと移っていった。二つのアプリケーションは前述のその他の関連付けを以前として維持していたが、より重要なことに、前者はS3M、後者はXMという、MODフォーマットを新たなハードウェア性能に合わせて拡張したユニーク・フォーマットを持っていた。そのため、とりわけDOS以降のマシンに「帰属する」者にとって、MODという用語は総称化の方向をたどったが、それに対して、Amigaをルーツとして重視する者はその総称を拒み、「MODとは.MODである」という固有化に基づいた意識を現在も持っている(実のところ、Amigaは基本的に拡張子によってファイルの判別を行わないので、.MODという言い方は、逆説的にもプラットフォームを超えた互換性を示す対自的・外在的表示になっている)。

これらのフォーマットで制作された楽曲――これもまたMOD(s)と呼ぶことがある――に、私たちはオンラインで自由にアクセスし、現代のWindowsその他のマシンで聴くことができる。その理由と原因は、MODそれ自体が有用であり広く使用されたということだけでなく、あらゆる流通経路を介して絶えず交換され、受け継がれてきたことにある。そして交換の最大の成果を私たちは、次の三つのサイトに見ることができる。ただし、これらのサイトは永久に利用可能であるとは限らない(現存するアーカイヴもまた、失われてきた、あるいは更新を停止したアーカイヴの遺産に多くを負っている)。そして初めに述べたように、三者のどれが完全かといったことはなく、各々に長所と短所がある。特徴を挙げていこう。

Amiga Music Preservation

http://amp.dascene.net/

フランスを主な拠点に2000年に開始。通称AMP。その名の通り、Amigaで生まれた.MODとMODが広まる契機となったデモシーンの制作者を重点的に扱う。MOD作者の過半数はデモシーンのグループに属していることから、プロフィールにはグループがタグ付けされており、そこから他の作者をたどることができる。この「関連付け」が有用で、アーカイヴの反復的使用を可能にしている。加えて、旧ハンドルと国籍の表示は、作者の識別にとって有用。デモシーンに深く根ざしている反面、デモシーンとの関連が薄くなる、インターネット普及以降の作者については、楽曲の収録漏れがやや目立つ。torrent等での一括ダウンロードに対応していない。4champというiOS用の検索アプリ兼専用プレイヤーが存在する。

細かな注意点
・作者のハンドル検索時は現在その名を使用している者が優先される。使用中の者が見つからなければ、検索エンジンは作者の旧ハンドル(Ex.Handles)から一致するものを探し出そうとする。例えば、Slayerという旧ハンドルが登録されている作者を探したい場合、同名のハンドルを現在使用中の者がいれば、Slayerと入力して後者のみがヒットする。後者がいなければ前者が確実にヒットする。作者の旧ハンドルに絞って検索するにはFull Searchを使用すること。
・検索は前方一致を原則とする。例えば「a hot summer」という名称の曲を「a hot」あるいは「hot summer」という文字列で探し出せるが、「a summer」では探し出せない。
・検索時のスペース混入に気をつけること。

The Mod Archive

https://modarchive.org/

通称TMA。ここに挙げたサイトのなかでは最も古く、1996年から運営者を交替しつつ続いている。TMAはMODのアーカイヴであるだけでなく、ファンサイトであり、投稿サイトである。昨今のSNSベースの音楽投稿サイトほど洗練されてはいないが、「お気に入り」や「レヴュー」といった機能がメンバーに利用可能であることや、サイト・トップに「アーティスト・スポットライト」「クイック・ピック」という項目が設けられていることからも分かるように、今もMODコミュニティに出入りする人たちに開かれたサイトであり、「制作者寄り」だと言えるだろう。そしてこれらの要素は、MODの捜索に間違いなく役立つ。ただし、ここでアーカイヴされているフォーマットの種類は、他の二者と比較するとかなり限られており、XMとIT(DOS用アプリケーション、Impulse Trackerのユニーク・フォーマット)が支配的である。アーカイヴされた.MODファイルの総量は決して少なくないが、このサイトのみから.MODミュージシャンを捜索するのは難しい。特筆すべきは、デモシーンと関連性の薄い、どちらかと言えばトラッカー・コミュニティ(のみ)に帰属する作者を多く扱っている点である。作者名検索は、登録者だけではなく、内部の作者リストに基づいて行うこともできる。この仕様は短所に見えるが、サイトの見た目の情報が少ないことは、アーカイヴの徘徊のしやすさにもつながっている。それなりの速度で検索結果からダウンロードできるのは大きな利点。torrentで一括ダウンロードも可能。

細かな注意点
・ファイル名は同名重複をできる限り回避している。したがって、楽曲の元々のファイル名と乖離していることもある。ファイル名とタイトルを別々に表示しているのは三者の内ここのみ。
・3文字以下の文字列で検索することはできない。
・検索時のスペース混入に気をつけること。

Modland

ftp://ftp.modland.com/

スウェーデンのDaniel Johanssonが2001年から運営するFTPアーカイヴ。楽曲データは制作ソフトウェア別に分類されている。ここでModと呼ばれるものの指し示す範囲は、かなり幅広く、雑多であり、ピストンコラージュ(Pxtone)やPlaySID含む、プラットフォームやデータの収蔵の仕方を超え、あらゆるユニーク・フォーマットを扱う。アーカイヴの検索は別サイトで可能ではあるが、求める作者の名前(ハンドル)を知っており、作者がどのようなフォーマットを使用してきたか知っているか、あるいは推定できる時ここを訪れるのが良いだろう。AMPが.MODフォーマットを中心とした作者のリリースに対して網羅的であろうとする対して、Modlandの蒐集の程度・精度はまばらである。ディレクトリの更新日時の表示は、膨大なMODファイルを抱えるようになった時、役立つだろう。torrentファイルは2014年から更新されておらず、FTPサーバーの応答速度も遅めである。このアーカイヴは補足的に使用するのが望ましいかもしれない。Android・iOS用modプレイヤーmodizerはModlandを参照データベースとしている。

細かな注意点
・登録されているハンドルは、AMPの作者の現在のハンドルと必ずしも一致しない。

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