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点「CHARAGRAMY」展

11月4日の夕方、池尻大橋MANUAL+PREFAB presents "Platform"にて開催される、点(ten_do_ten)さんの個展「CHARAGRAMY」へ。今秋9月のSHIBUYA PIXEL ART 2023「HAKKO」において、後述する「CHARAGRAPHY」シリーズから一作品《m.i.c.k.e.y》を展示していたが、間を置かず作品に多く触れられる機会ということもあり、足を運んだ。
点さんは2001年、公式サイトの年表と照らし合わせるとデラウェアから脱退前後から、立花ハジメさんが当初iモード用サイトとして開始した「The End」にも関わっていたと後から知ったが、私はまさに2001年から携帯電話(J-PHONE)を契約し、その端末で唯一毎月購読(サブスク)していたコンテンツが、「The End」だった。不思議な縁を感じた次第である。

閑話休題。ホワイトキューブの壁面に白いカンヴァスが額縁なく掛けられ、それぞれ、一時的には1-bitの色深度の低解像度のデジタルデータでエディット/デザインされた黒ドットの顔が浮かぶ。幾何学的図形のパターンから顔を覗いているようでも、それと一体化しているようでもある。
それら顔のモデルは、私たちの知る、主に20世紀に発案された有名キャラクターだ。キャラクターはカンヴァス中央から中央右に位置し、そのおおむね右上と左下に幾何学的なパターンが、作家の言葉では「図形の柄」、「ダイアグラム」が、余白をとりながら配されている。そしてどれも右下に小さく「ten」の落款が入る。
本展は昨年の個展とコンセプトが連続している。そこでは同様にキャラクター(全身)をカリグラフィックにピクセル・デザインすることが眼目になっており、その描画・点画スタイルは〈CHARACTER〉と〈CALLIGRAPHY〉を合わせて「CHARAGRAPHY」と命名されており(「「キャラグラフィー」は「カリグラフィー」な「キャラクター」/「キャラグラフィー」は「カリグラフィック」な「カリグラフィー」/「キャラグラフィー」は「カリグラフィック」な「キャラ・グラフィー」」)、ピクセル・グラフィックによる「書」に焦点となっていた。今回の展示名「CHARAGRAMY」は、〈CHARAGRAPHY〉と〈DIAGRAM〉を掛けた(足した)造語だ。

34の個別のキャラクターは、古くは18世紀前後の江戸時代日本(鍬形蕙斎の「寅」)から、新しくは2015年アメリカ(「ミニオンズ」)に由来するが、1930年代から60年代に登場したものが多く、ほぼ同時期の歌から美しい本”The Philiosophy of Moden Song”(『ソングの哲学』新潮社、2023、佐藤良明訳)を編んだボブ・ディランに因めば、"The Exhibition of Modern Character(s)"という様相を呈している。
モダンということで言えば、作家それらがンには、モダニズムやミニマリズムといった芸術思潮との文脈を認めることができるが、展示では加えて、世界中のカートゥーン、漫画、絵本、マスコットのキャラクターを選ぶことによる、「私を構成するモダン・デザイン」への真摯な愛情や幸福が溢れている。
会場で閲覧可能な「コメンタリー・ブック」は、優れたキャラクター・コンピレーションの編纂者ならではの、原作と各デザイナーへの見事な案内になっており、これも必見である。たとえば、チャールズ・M・シュルツの「画」と「サイン」に共通するプルプル震えるような線描に注目し、彼を「禅ペインター」と呼ぶユーモアある認識はどうだろう。このコメントのなかで点さんは「ラインタッチ」という表現を用いているのは興味深い。ピクセル・グラフィックのなかでもさらに画面解像度と色彩を極端に有限化した表現では、むしろ固有の「タッチ」は生まれにくいと思うからだ。その印刷方法(カンヴァス生地へのジークレープリント)の選択によっても、「タッチ」は消えたままだ。にもかかわらず、カリグラフィーに重きが置かれていることからもわかるように、際限なくやり直し可能なメディアのなかで、点を置くことの向こうに、名前を持ったデザイナーそれぞれの「タッチ」が意識されていることは明らかだし、それらがなくてはいけない。あたかも、メディア間の変換と解釈を通したパラドックスと対峙することによって到達し得るデザインこそ、発明すべきものだと作家は厳しく認識しているかのようなのだ。

カンヴァスに戻ると、前述の一定の構成の下に、キャラクターをいかにリデザインするかが厳密に取り組まれており、各作品の印象に混同や序列が発生することなかったのは、やはり驚くべきだ。既成の図像を1-bitカラーに変換することで得られる抽象とコントラストの効果、その想像を裏切るものがある。
「CHARAGRAMY」固有のデフォルメと、凝縮力の統一の達成。作家の美大での卒業制作は、うさこちゃんとキティを往還する(!)モーフィング・アニメーションだったという。線のあるキャラクターを崩し、流れを造形化するカリグラフィー・デザインとの一貫性を知ることができるエピソードだ。

――当日、点さんには、会場でこちらの素朴な質問にも応えていただけでなく、過去作品を一点、一点、口頭で解説してもらうなど、振り返れば贅沢な時間を過ごさせてもらったと思う。

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