「マンチキン」 蝸牛くも原作アニメ『ゴブリンスレイヤー』:創作のためのボキャブラ講義17

本日のテーマ

題材

「なんであんな鎧なんです? 音を出したくないならミスリルの鎖帷子とか……」
「分かんねえのか?」
「はい。だってそうでしょう? スクロールよりも魔剣の一本の方がよっぽど……」
「ゴブリン相手に伝説の魔剣を喜々として振り回すやつはただのマンチキンよ! やつは、自分が何をしているのか重々分かってんのさ」

(アニメ10話「まどろみの中で」)

意味

マンチキン
 特定のTRPGプレイヤーに対する蔑称。ゲームにおいて自身が有利になるようロールプレイやゲーム性を無視して自己中心的に動こうとするプレイヤーのこと。


解説

作品概要

 ファンタジーと言えばなろう系が主流の現在。異世界転生した、あるいは追放された主人公がゴミスキル(自称)で好き勝手敵を葬りまくるのが当たり前。そうした作品群からすれば、本作はかなり異質な作品には違いない。主人公は魔法を使わず、チートにも頼らない。そして彼が冒険者として殺すのはただ、矮小なゴブリンだけ。

 TRPGをベースとするような世界で、ドラゴンや魔王とは戦わず、ゴブリンを葬ることだけを生業とする無口で無愛想な青年、ゴブリンスレイヤー。彼のゴブリン討伐の依頼と、そこで関わる冒険者たちとのドラマを描くのが『ゴブリンスレイヤー』という作品である。矮小なゴブリンとはいえ、小学校低学年くらいのガキが大量に武器を持って襲ってくるようなものなので、新米冒険者どころかベテランでも下手をすると命を失う。そんな世界で、ゴブリンスレイヤーは運の要素を極力排し、様々な戦法でゴブリンを屠っていく。

 本作の魅力はまさにマンチキンと称されかねない主人公の対ゴブリン戦法。洞窟を根城とするゴブリン相手に短い剣を持ち、武器もこだわらずゴブリンの持つ棍棒すら使う。ある種の専門家らしい淡白な戦い方を見せたと思ったら、防御用の壁を出す魔法を仲間に使わせ出口を塞いだ上でゴブリンの住む廃城を焼き討ちしたりもする。そんな彼が冒険者という在り方を考え直すのがアニメの大まかなストーリーであり、ファンタジー世界を舞台にした一種のハードボイルド作品とすら言える。

語義

 前述のとおりTRPGの世界観をベースとしている本作では、それに準じた用語が度々登場する。敵のことをノンプレイヤーキャラクターとゲームでは呼称するが、そこから転じてplayをprayと読み替えて「祈らぬ者」と呼称する。またはゴブリンがどこから来たのかという話に、ゲームマスターが作り出したというメタ的な話を略称のGMから緑の月(Green Moon)から来たと言ってみたり。

 マンチキンという呼称もこうした世界観構築の一種であろう。マンチキンというプレイヤーへの評価は海外と日本で微妙に異なるようで、海外では上記のように自己中心的なプレイヤーを指す。日本ではルールの細かい点を突いて有利に運ぼうとするプレイヤーを主としてそう呼ぶようだ。このあたりは同じTRPG界隈でもゲームが違うと感覚が異なるだろうから確認は必要だろうが。

 ゴブリンスレイヤーの対ゴブリン戦法は基本的に日本でのマンチキン、和マンチと呼ばれうるものだ。ルールの裏を突く常識にとらわれない柔軟な戦法と見るか、ゲームの雰囲気をぶち壊す無粋と見られるかは同卓したプレイヤーとゲームマスターの価値観にも大きく左右されるだろう。アニメでは中盤で同行する妖精弓手がたびたびゴブリンスレイヤーの戦い方に苦言を呈するが、あれがまさにプレイヤー同士の釘の差し合いという感じだ。

補足

 一見するとどこまでも「ゴブリンを倒すこと」に特化している無粋もいいところの主人公だが、実のところ彼は「自分がゴブリンに殺され装備を奪われる」ことを加味して行動している。このバランス感覚が主人公をただの無粋なマンチキンで終わらせないところだろう。

 本作におけるゴブリンとは略奪種族であり、基本的に自分で何かを生み出すよりは奪うことを選択するものだ。ゆえに主人公が強力な武器を持っていって、奪われることが危険なのだ。一部に存在する知能の高いゴブリンに気づきを与えることにもなりかねない。その点、使い捨てのスクロールはその手のリスクが低いので調達の優先度が高いという事情もありそうだ。

 実に面白い作品なのだが、暴力描写がかなり甚だしいので苦手な人は見ない方がいい。個人的にはゴブリンが女性を強姦するような描写を入れなくたって十分売れるだけの力量のある作品だと思うのだが……。どうしてもセンシティブでセンセーショナルな表現で釣らないとコンテンツ氾濫時代の今は厳しいのだろうか。世知辛い話である。

情報

作品情報

原作:蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』(2016年2月 SBクリエイティブ)
アニメ:『ゴブリンスレイヤー』(2018年10月~12月)

リンク先


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