偽母乳:「完母」の呪いをかけるのはやめよう

 赤ちゃんが生まれて自らの母乳で育てたいというのは、母親の根源的欲求なのかもしれません。

 たしかに、母乳は素晴らしいものですが、(母乳を崇めるためか)ミルク栄養を貶める内容のネットや本が一部にはあります。結果として母親が追い詰められるとしたら、残念なことです。

 日本から以前から「もらい乳」という習慣もありましたし、母乳バンクというものがあります。公的機関が感染症などをチェックした上で、必要な方に供給するのもあります。しかし、中には個人がネットで母乳を売っているのもあります。いや「母乳」と言っていいかわかりません。ネットで売られれている「母乳」のなかには、感染症管理ができていなかったり、母乳に希釈した粉ミルクを混ぜたものを売っているところもあります。いわゆる「偽母乳」です。

 小児科医として母乳が絶対必要といえるのは、妊娠週数32週以下の早産児や体重が1000g(1500g)以下の低出生体重児です。このような小さく生まれた赤ちゃんには、壊死性腸炎のリスクが有ります。この病気は生命に関わります。母乳で壊死性腸炎を予防できる可能性があるのです。

 あとは絶対母乳じゃなくては行けないということはありません。母乳バンクで有名な水野先生もこのようにコメントしています。

昭和大江東豊洲病院の水野克己・小児内科教授は「完全母乳ではなく、粉ミルクとの混合授乳で良い。母乳を数滴飲んでくれたら、母乳育児を行ったことになる」と語る。

 以前、「母乳育児」の定義を調べたことがあるのですが、どこにも完全母乳でなければいけない、とは書いていません。 「完全母乳育児でないと母親失格」という呪いをかけられた母親が追い詰められて、怪しげな母乳ネット販売業者に走ったとすれば、あまりにも悲しすぎます。

 母乳で育てても母乳で思うように育てられなくても、お母さんはお母さんであることに変わりはありませんよ。

追加(2017/01/08)

 このコンテンツ(だけ?)は随分と有名になりました。母乳に関しては一言居士でもなんでもないのですが、少し追加します。

 いい母乳指導の見分け方として、母乳が出ない原因を母親のせいにするか、しないか、というのもチェックしましょう(一部分かりやすいように表現変えました)。

 母乳が出ないことに一緒に悩みエモーショナルサポートをしてくれる指導者もいれば、出ない理由を母親のせいにする指導者も残念ながらいます(とある助産師が言い放った言葉は、とてもじゃないけどここでは書けません)。「母乳ハラスメント」と命名する人もいますね。

 指導者の自己実現のために母親を犠牲にする母乳指導であれば、そんなの無い方がいいです。

追加(2017/01/30)

 チャイルドヘルス2016年11月号に水野克己先生が、こんなコメントをしています。

つまり、母乳育児の成功は、”母乳がたくさん出ること”を意味するのではなく、”母乳を与えながら育児そのものが楽しくなること”を意味します。

 偽母乳の業者は、一体どのような思いでお母さんたちの不安に寄り添う素振りをみせたのでしょうか?




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コメント1件

こうでなくてはならない育児などあってはならないのに、母乳の出ない母親から始まる、育児の数多の呪縛を解き放つために、もっと個である育児が尊重されるべきだと思う。子どもが成人を迎えた今、振り返れば世間の声にずいぶん振り回されたわたしとは裏腹に、子どもは意外にスクスクと強く育っていくものだと感じています。愛ある眼差しで、そっと見守るだけで十分。
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