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神田伯山新春連続読みレポート 前夜祭

新春連続読み『畔倉重四郎』2024に6日間通って感想を書く。1日目は畔倉をやらず演目は当日まで明かされない。楽しみに会場に向かった。

笹野名槍伝より海賊退治

一番弟子の梅之丞による開口一番。若々しくテンポよく海賊の撃退が語られ、華々しいスタートとなった。あえて話が本筋からそれるところもとてもうまく観客を惹きつけていて面白かった。

出世浄瑠璃

丹波守が通りかかったもみじの美しい碓氷峠で、伊賀守の家臣である尾上久蔵と中村大助に浄瑠璃をやらせる。このとき丹波守は2人に、このことは他言しないと約束した。3年後、丹波守が伊賀守とともに再び碓氷峠を通った際、そのときの素晴らしかった浄瑠璃を思い出した丹波守はつい伊賀守に話してしまいそうになる。ごまかすために丹波守は2人の家臣が獅子から自分を守ってくれたのだと嘘をついた。これに感心した伊賀守は尾上久蔵と中村大助を呼びつけ、そのときのことを聞かせろと迫る。自分たちが獅子退治をしたと聞かされた尾上久蔵と中村大助は驚きながらも、架空の獅子退治の様子を伊賀守に語る。喜んだ伊賀守は2人を出世させた。さらに3年後、丹波守は伊賀守に嘘をついてしまったことを明かした。伊賀守は2人の家臣が立派に仕えてくれていることから、むしろ丹波守に礼を言う。

新年早々縁起の良い話である。特に尾上久蔵と中村大助が伊賀守に呼び出されるシーンは、伊賀守の好奇心と楽しそうな様子が滑稽で、尾上久蔵が語る嘘の獅子退治もダイナミックで面白かった。

名人小団次

中村仲蔵と同じく稲荷町から這い上がった歌舞伎役者の話。市川米十郎は実力ある役者だったが、ある日腹痛で舞台を穴を開けてしまう。舞台で米十郎が出てくるのを待っていた嵐璃かくは激怒し、米十郎を蹴飛ばす。米十郎は璃かくに殴りかかろうとしたがなだめられ、確かに自分が悪いと納得して、蹴られた草履を拾って去った。18年後、璃かくが江戸で大規模な舞台を催したところ、思ったほどの客入りではなく不思議に思っていたところ、別の舞台に客を取られているということだった。その舞台の役者に会うことになった璃かくはその人に、かつて履いていた草履を差し出され、米十郎だと気づく。

悔しさを努力にぶつけ、実力で見返したという立派な役者の話だ。その場の感情に流されそうになる若い頃の米十郎が、璃かくと再会するときには落ち着きを備えた胆力ある大人に成長している様子からも、その裏にある泥臭い努力の跡を感じた。

赤穂義士伝外伝 鍔屋宗伴

かつて武士だったが骨董屋となった鍔屋宗伴は、ある日蕎麦屋に入ったところ店員が皆かつて世話になった武士たちで驚く。もしや討ち入りの日も近いかと、話を聞こうとするが誰も取り合わない。確かにもう武士は辞めてしまったが、討ち入りを敢行するのであれば力になりたいと、宗伴は自分にできることを考える。吉良上野介の屋敷の絵図を手に入れれば手助けになると踏んだ宗伴は、同業者に吉良邸の出入り業者を代わってもらい、絵図を献上することに成功する。果たして討ち入りは成功し、宗伴も一役買ったと言えるかもしれない。

一旦は武士を離れても忠義を全うするという、赤穂義士伝らしい忠誠の話であるが、一方で交渉シーンは滑稽さもあって楽しんで聴くことができた。

荒川十太夫

赤穂義士伝が続く。討ち入りから7年後、荒川十太夫なる下級武士が泉岳寺を尋ねる。このとき、付人を2人連れ、物頭役の格好で現れた荒川十太夫は、上役にその姿を見られ、身分不相応の身なりを責められる。実は荒川十太夫は堀部安兵衛の介錯人だった。切腹前の安兵衛に尋ねられ、下級武士に介錯されるというのを聞かされては安兵衛の気も休まらないだろうと思った十太夫は咄嗟に、自分は物頭役であると嘘をついてしまった。その嘘をつき通すために、毎年物頭役の身なりで泉岳寺を訪れているということだった。それを聞いた上役は本当に彼を物頭役に任命した。

堀部安兵衛の切腹のシーンはこちらも息が詰まるような緊張感があり引き込まれた。嘘から始まった出世物語というところは出世浄瑠璃とも似ているが、こちらは一転してシリアスだった。気遣いからくる嘘、覚悟のある嘘が評価されるというのは日本人ぽいストーリーだなと思う。


まとめ

お客さんの中には前夜祭は要らないじゃないかという方もいるかもしれないが、この日があることで明日から畔倉重四郎にスッと入れる、と伯山は言っていた。確かに、私は講談が久々だったのでこの日があることで「講談聴くモード」に自分を持っていけた感がある。

また、連続物のことだけ考えられる時間が幸せだとも言っていた。色々な仕事を次々とこなしているからこそ、一つの演目に集中できるのが楽しいのだろうけど、真っ直ぐそう言えるのはこれが天職だということなんだろうなと思ったし、そこで家族がそれを赦してくれているという言葉が出てくるところに人間としての気遣いがあって良いと思った。

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