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神田伯山新春連続読みレポート 5日目(畔倉4日目)

新春連続読み『畔倉重四郎』2024に6日間通って感想を書く。残るはあと2日となり、疲れも出てくるが非日常が続く楽しみは日中元気に過ごす糧となる。前日予告されていた通り今日は「ダレ場」ということになるが、3席しかない日である分、イレギュラーな面が面白くもあった。

越の海勇蔵

伯山の三番弟子である若之丞が前座で上がってくれた。1年前、今度新しく弟子をとると伯山が話していたのが懐かしく、すごくやる気のある様子だと聞いて気になっていたので楽しみにしていた。一番弟子の梅之丞は発声がとてもよく優等生感がある。二番弟子の青之丞は今回の東京公演では舞台には上がらないようなので1年前の記憶しかないが、もともとの声が佳くクールな印象がある。若之丞はまた違った雰囲気で、時々舌足らずに聞こえる感じが愛らしい。今日のネタは横幅があって背は低い勇蔵という者が力士になる前の話で、すっとぼけたところのある勇蔵を演じるのによく似合った声だなと思った。やる気があるというのが伝わってくるような、瑞々しさのある舞台だった。

若之丞が伯山に入門したきっかけはYouTubeに上がっている4年前の畔倉重四郎だという。私もあの頃、コロナで急に先が見えなくなった学生時代、家で一人オンライン授業を聞くだけの単調な日々が、黒の着物で語られる腹の底まで真っ黒な男の話に、不思議と彩られたものだった。月日の流れに驚くとともに、あの頃想像もできなかった未来に自分がいて、連続物を聴きに毎日通う幸せを味わっているという事実を噛みしめる。

おふみ重四郎白洲の対決

白洲で大岡越前守の尋問を受ける重四郎は、自らの罪を暴かれるも素知らぬ顔で、全てはおふみの嘘であるとして無実を主張した。そこへおふみが呼ばれるとこちらも一切屈さぬ様子で事実を語り、重四郎を責めた。しかし、どう考えてもおふみの主張が正しいと思われる一方で証拠品がなく、そのことを衝かれた越前守は困ってしまう。

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重四郎と城富、2人の主人公がついに肩を並べる様子に一つ感動がある。そして白洲での重四郎の平然とした様子はなかなか癪で、よくもまあそんなにもすらすらと嘘を並べ立てられるものだと思う。ここで毅然と立ち向かうおふみの様子は美しく、気丈な女性像に憧れを感じる。

白石の働き

大岡越前守の手下である白石は乞食に化け、乞食のズブ六から重四郎と三五郎の斬り合いの様子を聞いていたという証言を得る。さらに、ズブ六を連れて三五郎を弔った寺に行くと三五郎が身に着けていた煙草入れを入手する。越前守のもとに舞い戻った白石はこれらのことを報告し、見事証拠品を提示することができた。こうなると重四郎も反論できなくなる。

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先輩乞食として得意気にコツなどを後輩に教えていたはずが、急に佳い声で堂々と名乗りだしたその男は越前守の手下だったと知って飛び退くズブ六の様子が滑稽だ。突然何の話かと思えばちゃんと九話の三五郎殺しの伏線が効いてくるという、渋い回である。

奇妙院登場

牢に入れられた重四郎は囚人たちの間で隅の隠居と呼ばれ慕われることになる。そこへ新しく収監されたのが奇妙院という老人である。この男に嗅ぎ取るものがあった重四郎は、他の囚人がいじめようとするのを止め、親切に接する。奇妙院が拷問に呼ばれるとき、どんなに痛くとも罪を吐くなと念押しした。詐欺を働いたという奇妙院に、罪はそれだけではないだろうと迫り、悪事の全貌を語らせようとする。

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この回は江戸時代の囚人環境の蘊蓄は興味深いものの、ストーリー自体は派手な面白さはなく、明日のために聞いているという感じである。終わってみると、奇妙院の不気味さに後味悪く感じる気持ちよりも、明日でついに終わってしまうのだという寂しさが勝つ。

今日は3席しかない分マクラを少し話してから畔倉に入りますと言って始まったマクラがあまりに盛り上がり、話しすぎてしまっていた。畔倉に入る気力がなくなったと言って一旦袖に下がって仕切り直したのが面白かった。このマクラで爆笑しながら湧いてきたのは、あえて失礼なことを一言多めに言って笑わせる才と、本筋の芸が両方備わっているというのは改めてすごいなという感慨だった。あと、いわゆる毒舌な発言を聞いてもさほど嫌な気持ちにならないのは、彼の中で一本筋が通っていて、そこを外れることは言わないからだろうなとも思う。長いスパンで俯瞰して物を見て、本質を捉えようとするようなところがあるのだろうなと思ったりする。


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