見出し画像

映画祭のマネジメントの研究1:映画祭とは何か

映画祭とは何か

フランスの映画批評家、アンドレ・バザンは映画祭について、次のように書いています。

このカンヌ映画祭に、1946年(カンヌ映画祭の始まった年)以来、ほとんど毎回《関係》してきたわたしは、そのために、この映画祭という現象が徐々に完成してゆくのを、その典礼定式書が経験に基づいて編成されてゆくのを、それが参加者の間に必然的に階級制度を設けていくのを、目撃してきた。わたしは、このような映画祭の歴史を一教団の設立に、映画祭への全面的な参加を修道院生活の一時的な承諾に、あえてなぞらえようと思うのだ。

実際、クロワゼット通り(カンヌ市内の海岸沿いの遊歩路。約3キロにわたる)に臨んで聳え立つ「宮殿」(パレ)(パレ・デュ・シネマ-映画殿堂-のこと。出品された作品の上映される試写会場)は、現代の映画修道院なのである。人々は多分わたしが逆説を弄しているのだと思うことだろう。だがそうではない。この比喩は、17日間にわたる、敬虔な、厳重に《規則正しい》隠遁の生活が終わった時に、ごく自然にわたしに実感されたものなのだ。実際、もしも、沈思と瞑想との生活や、同一の超越的実在への愛による精神的一体感などとともに、戒律の存在が「教団」を定義づけるものであるとするならば、映画祭はまさに一つの「教団」に他ならない。(アンドレ・バザン「教団としての映画祭((フェスティヴァル)」『映画とは何か』)

そもそも映画祭とは何でしょうか。観客にとっては数多くの映画を鑑賞することができ、映画俳優や映画監督たちに触れあうことのできる祭典であり、映画製作者にとってはコンペティションでの入賞を目指してしのぎを削り、自作映画をプロモーションするための場です。アンドレ・バザンが書くように、映画批評家にとっては、いわば半強制的に大量の映画を集中的に鑑賞して評価をするための試写会場であり、バイヤーにとっては自分のめがねにかなう作品を買い付けるための場です。映画祭はそれに参加する人々のそれぞれの立場によってさまざまな側面を持つ場だということがいえます。

カンヌ映画祭、ベネチア映画祭(あるいはトロント映画祭)、ベルリン映画祭は世界三大映画祭と呼ばれています。映画に詳しくない者であっても、これらのいずれかの映画祭の名前は聞いたことがあるはずです。例えば、カンヌはフランスのリゾート地ですが、カンヌの知名度は映画祭によって形成されているといっても過言ではありません。カンヌ映画祭は1946年の創設と歴史が古く、フランスにおける映画産業の保護育成政策は他国に比べて著しく高いです。また、他の映画祭に比べても予算が大きいといった要因はあるにせよ、世界中で開催される映画祭のなかで、カンヌ映画祭の地位は確立されたものといえます。

我が国に視点を転じてみますと、日本における最大規模の映画祭は東京国際映画祭ですが、小規模のものまでを含めると日本各地で少なくとも100以上の映画祭が毎年開催されています。このように、数字だけを見ると日本の映画祭の状況は非常に豊かです。

ただ、映画祭の多くは事業収入だけでは収支の維持ができないため、その運営はもっぱら営利を目的としない非営利組織によって行われてます。また、多くの映画祭の運営基盤は脆弱であり、その多くは自らのミッションを達成するに至っていません

バブル期には町おこし、村おこしの名目で多くの映画祭が開催され、小さなものまでを含めると年間200から300もの映画祭があるといわれていましたが、その多くは短期間のうちに消滅していきました。それでは消滅していった多くの映画祭と幾多の苦難の道を乗り越えて継続してきた映画祭の違いは何なのでしょうか。

映画祭の効果とは

映画祭には、映像産業の振興と発展のほか、映像産業に関連する人材の発掘と育成、開催地の観光振興や街づくり、地域活性化、そして文化振興などのさまざまな効果が期待されています。

映画祭は特に、低予算の独立系映画の監督や製作者が配給会社やメディアにアピールする機会でもあり、また、映像等コンテンツの制作支援のためには、映画祭の開催による作品発表の場を制作の出口として整備することも重要です。こうした映画祭の効果を発現させるためには映画祭を有効に機能させることが必要です。

それでは、現状において各映画祭には目的に対する明確な戦略は存在するのでしょうか。そして各映画祭が目的としている効果は十分にあげられているのでしょうか。効果をあげられていないとすれば、それはなぜなのでしょうか。効果をあげるためにはどうすればよいのでしょうか。

今後、芸術、文化、遊びは社会の牽引役となることが予想され、メタレベルのカルチャーの重要性がますます増加していくと考えられます。また、日本経済の発展と国際競争力の強化のためにはコンテンツ産業の担い手を育成することが必要であり、映画祭にはその機能が期待されます。さらに、地域映画祭は地域の活性化という我が国における喫緊の課題に対する有効な手段となりうる要素があります。

映画祭運営にはマネジメント能力が必要

映画祭が継続して開催され、それによる各種の効果を有効に発揮させるためは、まず映画祭のマネジメントを有効に機能させることが必要です。

映画祭のマネジメントについては、対内的なマネジメントと対外的なマネジメントという2つの目的があります。映画祭の運営組織やリーダーシップのあり方、構成員の動機付けや効率的な作業方法などを対象とする対内的マネジメントは映画祭の開催と運営を効率的に遂行するための必要条件です。また、利害関係者に対してどのような価値をどのように提供するのかという対外的マネジメントが有効に機能しなければ、その映画祭はミッションを達成することはできないでしょう。

そこで、映画祭のマネジメントを考えるためには、進捗管理やプロジェクトマネジメントの側面だけではなく、戦略論的な領域のマネジメントを同時に考えなければならないのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?