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日記0393あるいはデバフキャラ

人に弱さを見せることを躊躇わない人は無礼だ、というようなことをある作家が言っていた。その言葉こそ無礼じゃないか。

人間、大体は弱く、それ故なんとか群れをなして生きている。弱さに自覚的なことの方が、自分を強い生き物だと誤認しているよりはマシだ。

「違う違う、弱さを“見せる”ことについて、私は無礼だと逝ったのだよ」
「何が違うんです?」
「弱さを自覚すること。それはたいそう立派なことだ。しかし、それを見せる、見せびらかすともなれば話は変わってくる。人間は弱い生き物だが、弱さだけではできていない。まるで弱さだけしかないかのように立ち振る舞う人に、どうして他人が寄ってこよう?」
「その弱さに寄り添える人が、寄ってきますよ」
「違うね。その弱さにつけ込める人が寄ってくるんだ」

私は胃液が込み上げてくる、あの酸っぱさを味わった。

「……つけこむ?」
「そうさ。君の周りの優しい人間たちは、寄り添っているわけじゃない。君の弱みにつけこんでいる。ただそれだけだ」
「……だとしても、近くにいてくれるなら。傍にいてくれるならそれでいい」
「相手はどう思ってるかな?」
「相手?」
「君が優しさで傍に居るのではなく、弱みにつけ込んでいるだけだと気づいたら。さて、それでも君の傍にいたいと思うかな?」

私は目を閉じてから、溜め息とともに言い返す。

「話をそらすなよ。弱みを見せることが、無礼かどうかって話だろ。一緒にいる、いない、傍に居続けるかは関係ない」
「弱みを見せることは無礼で、普通ならば人が去っていく。それでも残るのは弱みにつけ込む薄汚い人間だけ。だからこそ、弱みを見せることを無礼だと私は言っているだ。それから先、相手がどんな行動を取ろうとも、善なる行動をすることを封じてしまうからね」
「被害妄想だ、お前は卑屈な奴だな」
「私は何もできない、何も喜べない、楽しくない。さて、君は私を受け入れてくれるかね?」

無礼者だと思った。受け付けたくない人間だった。それでも。

「お前が居たいと望むなら、居ればいい」


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