隣の家のお稲荷さんを食べる方法【前編】

隣の家には、独居老人が住んでいる。

私が引っ越してきたばかりの頃は、老夫婦だった。そのうち、おじいさんのほうが亡くなって、一人住まいになった。とは言っても、私が引っ越してきた時から、おじいさんは半分寝たきりで痴呆症で、ほとんど見かけることはなかった。天気のいい日に縁側に腰掛けている(おそらく、おばあさんに、ほう助されての縁側に移動)のを見かけるぐらいだった。

一方、おばあさんのほうは、いたって元気で、朝早くからいろいろな家事やら庭仕事をこなし、友人も多く、しょっちゅうお茶飲み仲間を家に呼んでは、談笑しているようだった。

聞けば、おじいさんが倒れて10年になるらしい。以降ずっと介護をしてきたという。一度、「いつもいろいろ動き回って、お友たちも絶えず、お元気でいいですね。」などと会話を交わしたことがある。おばあさんは、うれしそうに返してくれたが、冗談交じりに「そんなことないわよ。いつも、(介護のせいで)陰では泣いてるのよー。」なんて言っていた。

おじいさんが亡くなってからも、変わらず忙しく働き、お友だちも絶えない様子だったので、私はなんとなく勝手に安心していた。一人でも寂しくないだろうと。

ある時、睡眠が趣味の私は、休みの日、今日は睡眠日だと自ら決めて、ずーっと夕方まで寝ていようと思って寝ていると、何やらお隣から楽しげなお茶会の談笑する声が聞こえてきて、「もう、10時ぐらいかな」と思い時計を見ると、朝の6時。

余談だが、ご老人たちの朝は早い。
マンションやアパートなどで、若者が夜遅くまで酒などを飲んで、音楽などをかけ、騒いでいる場合、もれなく近隣住人からクレームだろう。
逆もしかりだと思う。
お年寄りが、朝早くにお茶会をして、近隣住民の睡眠を邪魔するのも、同じく評価されるべきである。若者の夜のどんちゃん騒ぎとご老人の早朝の高らかな談笑は、等価だと思う。

けれども、午前10時のテンションで朝の6時に起こされても、そんなおばあさんの事情を汲んで、怒る気持ちは起きなかった。

・・・・・・・後編へつづく

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