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七月雑記

年に一度は沖縄に帰っている。今年は7月に。

じいちゃんが余命2ヶ月と宣告されて、早めに帰ろうと便を取ったが間に合わなかった。繰上げ法要には行けた。前に会ったときにはもう私のことを忘れていて、最近は娘である母さんのことも忘れていたらしい。会っていたらもっと苦しく悲しかったかもしれない、と少しでもいいほうに考える。
「ボケるのは死ぬのが怖くないようにという神様からの贈り物」と、昔、父方のばぁちゃんが言っていた。そのばぁちゃんも最近ボケはじめているそうだ。

去年よりもゆっくりと過ごしたので、懐かしの針にたくさんかかった。
庭の日に日に増えるセミの抜け殻、初期の裏側が紫の丸の遊戯王カード、畳と壁の間にジェンガ一本分の隙間が空いている仏壇の部屋、下校中にたまに選んだ細道、オキコのスティックパン、おかずにもおやつにもなった魚てんぷら、野良の目をした野良猫、数分ごとに起こしに来る母さんの声、まだ育ててくれているいちごの苗。
おうちごっこで車庫の壁にクレヨンで描いた机や棚はかろうじて色だけ残っていて、よく紅茶を淹れて飲んでいたガラスのティーカップは迎え火のろうそく立てになっていた。


スマホが壊れている。通話でこちらの声は相手に届くが相手の声が聴こえない。マイク付きイヤホンなら通話できるので、いつか直そうと思っては忘れ、通話することが少ないので壊れていることすら忘れる。

虹の黄昏かまぼこ体育館さんから電話がかかってきて「お疲れ様です」と言っても反応が無く、あぁいつものふざけた感じか、いや、いつも第一声をふざけるから違う、と思ったところで、スマホが壊れていることを思い出し「ちょっと待ってくださいね!」と慌てて切ってイヤホンを付けて掛け直した。
いつものように飲みの誘いで、今からライブだったので断って、なんで楽しい予定は重なってしまうのかと考えながら、そういやスマホが壊れていて聴こえなかったので掛け直しましたという説明をしなかったなと振り返り、第一声の何かしらを聴き逃してしまったもったいなさと、もしかしたらその第一声を私がすかした感じになっているかもしれないと思って、弁明のメールを送ろうとしたが、直近の

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というやりとりを見て、まぁ弁明しなくても大丈夫だなと思った。ゆでたまごと返したのは「飲みに行けますよ」という気持ちでだったが、やりとりはこれで終わったので届かなかったようだ。何故マヨネーズと送ってきたのかは聞けていない。会うときには忘れている。


事務室、個室楽屋、大楽屋、スタッフ室、ほとんど全てのモニターから流れていて、声が心地よくないズレ方で重なっていた。出番が無いのに劇場に来て観ている人もいた。空気は静かで重い、というより、冷めた感じだった。祈るように見て、それが届かず、の永い繰り返しだった。出番を終えて楽屋に戻ったらまだ続いていて驚いた。


昼過ぎに起きて、絹厚揚げと冷やしそうめんを食べて、おすすめの観葉植物を尋ねるゆにばーす川瀬さんに育てているアボカドの写真を送りつけ、男性ブランコ平井さんの写真をファッション誌風に加工して男性ブランコ浦井さんに送りつけ、新発売の炭酸飲料を飲んで、新宿駅を出て、自転車に乗ったやさしいズ タイさんにたまたま会って、会議に出て、会議室のフロアにあるマッサージチェアに座って、喫茶店でバニラボックス柏木のネタ作りを手伝って、仕事の進捗状況報告の電話が来て、ネタ作り中のドラゴンニンジャさんにたまたま会って飲食代をいただけて、いちごジャムサンドを食べて、雨のなか歩きながらハッシュドポテトを食べて、ファミレスで井下好井 好井さんのネタ作りを手伝って、終電に乗って、今に至って思うことは、新発売の炭酸飲料が香水の飲みごたえだったこと以外はとても充実した一日だった。機能できた一日だった。


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