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【要約】内山田康「芸術作品の仕事ージェルの反美学的アブダクションと、デュシャンの分配されたパーソン」『文化人類学』(2008)

(1) 要約

本稿は、文化人類学者アルフレッド・ジェルが芸術作品を西洋中心主義に基づいた美学に反し、ジェルの独自の概念であるインデックスの作用をもたらすものであるということを明らかにすることを目的としている。

まず、本稿ではエージェンシーの働きを解説している。著者によれば「ジェルは芸術作品の中とその周囲に生ずるエージェンシーの働きに光を当てながら、作品が仕事をする仕組みと、その効力を試みている」という。ジェルの著書、The Technology of Enchantment and the Enchantment of Technology(以後、魅惑する技術)では、クラ交換に使われる遠洋航海カヌーの装飾施された舳先板と防波板が、対面するクラ交換の相手の心の防御を魅惑する技術(エージェンシー)によってその心を解き放つ。

さらに著者は、芸術作品に対するジェルの反美学的な観点に着目する。ジェルは、発生したエージェンシーが作品を経由し、社会の関係の中で仕事をするという働きから、作品におけるカントやヘーゲルといった西洋主義的な思想を土台とした美学的な視点を否定している。本稿では、ジャック・マケとジェルの思想を比較し、W・ファッグの美学に対する目利きと俗ものを区別する問題意識(1973)を紹介ししている。ジェルは、このような美学的な視点にとどまる限り、人類学の芸術作品の考察は行き詰まると主張する。

このような反美学的な思想は、ジェルの作り出した概念、インデックス、アブダクション、ペーシェント、エージェンシーを用いてさらに具体的に解説が可能である。芸術作品は、作品が放つエージェンシーを受け取るペーシェントがアブダクション(仮説的推論)することを促すインデックスとして作用する。本稿においてはジェルが実際に分析した「傀儡人形」、「ウォーゲルの網(罠)」を取り上げ、この四つの要素の関係を詳細に解説している。

また、本稿の最後では《アルールのシラハのブランコ》、デュシャンの《停止原理の網目》(1914)を例に取り上げ、芸術作品が「過去の仕事を把持しながら、未来の仕事を予持している」とする過去から未来へ伝達されるエージェンシーであることを明らかにしている。


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