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「絶対いいことありますよ!」かけてくれた言葉、そっくり返せなかった自分が憎い

9月最後の金曜日、クタクタに疲れて帰路についた。華金、なんて言葉が流行ったりもしたけど、心配事が多いこのご時世、大したリフレッシュもなく、過ぎていく金曜日。「仕事やだなあと思う日曜日を想像してさらに落ち込む金曜日」なんて、一句。トホホ。
そんなことを思いながら長い階段を息を切らしながら登って、駅を出ると、人から声をかけられた。

「すみません、お姉さん」

お姉さんなんて言ってくる人は、だいたいよからぬ勧誘だ。しかも私は人見知りで疲労困憊モード、よし、無視を決め込もう。そう思ったが、ちら、と横目でその人を見ると、自分と歳もさほど変わらないであろう女性だった。しかも、手にメッセージカードのようなものを持っている。ム、と思ったら、いつの間にか立ち止まっていた。

「どうしたの、こんなところで」
「すみません、ありがとう、これ、読んでもらえませんか」

私はカンボジアから来た留学生です。日本語学校で学んでいます。ですが、コロナで仕事がなくなってしまい、大変です。少しでいいので、お菓子を買ってもらえませんか?

「仕事、ないの?」
「はい、ええと、2週間前に、なくなって。今は、その時間(バイトがあった時間)暇なので、友達と手分けして、お菓子を配っています。」
「学校は?」
「学校、行っています。今2年生で、来年卒業です。だけど、(コロナで)この先どうなるかわかりません…。」

目の前のその子を見て、何も考えられなくなって、頭をガーンと打たれたような気持ちになった。何でだか、わからない。こんなセンターオブトーキョーのような場所でこういう人って本当にいるの?というショック、そして、自分と同年代の子がお金がなくて、こんな夜に一つたった何百円のお菓子を売り歩いているのが悲しい、というか虚無感…。自分では見えなかった、否、見ないようにしていた社会の格差をまざまざと見ているようで、もうそこに立っているのがやっとだった。
私が黙っていると、その子は焦って、話を続けた。

「だけど、今、仕事頑張って探しています。次の仕事が見つかるまで、暇なので、お菓子を配ります。色は5種類あります!好きな色、あげますよ」
「い、色ね。何色がある?」
「ええっと、赤、青、黄色、緑、白。だけど味は全部同じ…。」

味、全部同じなんか〜い、と思って、少し笑えた。彼女の目も少しだけ和らいだ気がした。

「よおし、じゃあ、2個ください。家にもう1人甘いもの好きな人がいるので。」
「本当に!?ありがとう、本当にありがとう!お姉さんいいことありますよ!何色がいい?」
「どれでもいいよ、おすすめで。」

丁寧にラッピングされた袋に、市販のお菓子が詰められていた。彼女の手提げ袋の中にまだまだ袋があった。一体、最初はいくつくらいだったのだろうな、と考えてしまった。

「ほんと、ありがとう!お姉さん、学生?」

見透かされた。

「うん、そう。」
「頑張ろうね!絶対いいことあるよ!頑張ってね!」
「あなたもね、頑張ってね」

お互い、肩を叩き合って、別れた。

帰り道、予想外の手土産を持って、心の中ではもやもやが止まらなかった。

「彼女、本当に学生だったのだろうか?本当に仕事を辞めさせられたのだろうか?彼女の言葉が嘘であったら、私は騙されたのだろうか?」
「彼女の言葉が何%か嘘であったとしても、困っていたことには変わりないのだから、さっきのお金で夜ご飯くらいは食べれたよ、自分の善意を誇りに思えばいいよ」
「でも、私ができることは他にもあったんじゃ…。家に彼女を連れていて、晩御飯くらい食べさせればよかったじゃない」
「食べさせる?そういってる時点で、私は支援者で、彼女は支援を受ける人、ってそういうヒエラルキーを作っちゃってるんじゃないの?それは問題の根本的な解決にはならないよ」

あれから2日たった今でも、「絶対いいことあるよ!」と別れ際に叫ぶように伝えてくれた彼女が頭から離れない。絶対いいことあるよ、と彼女は何度彼女自身に言い聞かせただろう?どんな気持ちでいいことあるよ、と言ってくれただろう?どうして私は言えなかったのだろう。私は何が言えただろう?
きっと正解はないのだろう。でも、今のままじゃ、虚しい。今のままじゃ、悔しい。
エゴかもしれないけど、こういう思いがあるから、仕事してるのだよな、自分。

ちょっとだけ「月曜日、早く来い。」と思えた。とても悔しいけど。

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