日本に生まれてよかったと思う瞬間

吐ききった息をすーっと吸い込んだら、くしゃみが出る。そんな季節がきた。

あぁ、また冬が終わったなぁと思う頃、寒さで目を覚ました桜のつぼみが一気に膨らむ。

今年も満開の桜を見ることができた。
あと何度見れるかなぁ。と、いつも考えてしまう。たまに、ふと口にするとそんなこという年齢じゃないでしょうって言われるけど、いつ死ぬかわからないし、いつ何が起こるかわからないから満開の桜は目に焼き付けたい。

この桜とともに新しい生活がはじまる。
別れも出会いもこの季節に訪れることが多い。新しい生活に期待を抱いている人も、不安を抱えている人も春の花たちに励まされて送り出されているような気がする。


5月になり、少し慣れてくると張っていた気が少し緩んで心が揺れる。身体の疲れもピークになる。ああ、行きたくない。と思う人も少なくないかもしれない。4月から新しいことを始めている人はたくさんいる。不安にならなくていい、みんな隠しているだけで心は揺れている。
無理だと思ったら桜とともに北上してもいいし、南下して夏を先取りしてもいい。
そして6月の雨に全て洗い流してもらおう。

すると夏至がくる。
冬至から6ヶ月かけて毎日少しずつ日が伸びて、夏至には5時間近く違う。毎日の変化が僅かだと本当にわからないけどふとした時に、あ、日が伸びたなぁ…って思う瞬間があるように、毎日の積み重ねはふとした時に結果として現れるのかもしれない。夢中になって気づけないかもしれない。でも来年の今頃には気付けるかもしれない。だから大丈夫。

7月、ふとした時に蝉の声が聞こえる。
突然の猛暑に身体がついていかない。7月も終わりに近づく頃、夕方の空気が夏祭りの雰囲気を醸し出す。小学生のときは、お祭りに行くまでの道程は心躍る気分だった。そんな感じの匂いがしてくる。あの頃は夏休みを前に気持ちも高ぶっていたのかもしれない。

8月。自然に溢れる色は濃くなる。新緑は深く、花は鮮やかに強く、空は青く雲は白く。絵で表現するとすれば油絵のような夏。暑さもピークを迎えようとしているのに、向日葵はそんな太陽に向かって咲く。強い花だ。送別会でひまわりみたいな印象があるからと花束をもらったのが嬉しかったなぁ。

9月もまだまだ暑い日が続く。コスモスが咲く。夏の終わりを感じさせるときがふと訪れる。9月か10月か…ふわっと強い金木犀の香りが。私はここで夏の終わりを感じる。なんとなく切ない。

すると夜は少し肌寒くなり、風の冷たさを感じる。少しずつ日が短くなっていることに気付いてくる。冬の匂いがする。この季節の変わり目の匂いは、何の匂いなんだろう。この香りを共感できると、なんだかすごく嬉しくなる。


12月。年末。忙しない。師走。バタバタ…年内に片付けられなかったことを慌てて片付ける。まるで8月31日に夏休みの宿題をやるような感じ。なのに、街はキラキラしてて。寒さは人との距離を近づける。新しい手帳が並び、お気に入りを探して買うと、新年を迎えることが楽しみになる。新しいものを手に入れると古い手帳への愛着が少し薄れてしまう。

新年を迎える。
今年はどんな年にしようか。目標をたてたり、ゆっくり過ぎる時間を家族と過ごしたり。この頃にはもう半年前の夏の暑さを思い出せない。暑いということは覚えているのに、じわっと出てくる汗とか茹だるような空気感がイメージしきれない。みんなは思い出せるのかな。

2月、去年の春は新しい出会いに翻弄されていたというのにいつからか仲間となり、いることが当たり前となっていた人との別れを実感しだす。最後の2か月間大切に過ごさなきゃ。と今さら思いだす。

3月。別れ。卒業の季節。たくさんの別れを繰り返してきた大人は別れに慣れている。いつだって会おうと思えばすぐにまた会える、そう言い聞かせて今まできた。すぐ先に待つ未来に希望を持つことで苦しまないようにしていた。もちろんいつだって当たり前にそばにいた人と会えなくなるのはさみしい。
でもそれでいい、出会うべき時に出会って離れるべき時に離れる。また会うべき時には会えるからそれでいい。
春は暖かく、桜は大きな木いっぱいに花をつける。寂しさを埋めるように。
また一年頑張ろう。そう思わせてくれる。

1年を4つに分けた季節がグラデーションのように移り変わる情緒ある日本が好きだ。そしてその移り変わりをふと感じる瞬間が好きだ。

どうしてもこの四季の美しさは言葉にしきれないし、表現できない。香り、色、天気、気温。自然は表現しきれない。体験した人と体験した人が言葉を使って、あぁ、そうだよね。と理解し合うことしかできない。

いつでもどこでも体験できるようになってしまったら綺麗なものを綺麗だと感じられなくなってしまうのかもしれない。儚いものというのは美しい。

だから日本人はとくにこういう儚いものに弱いのかもしれない。情緒的なものに心を寄せたり、誰かの心を感じ取ったり、空気を読んだりするのかもしれない。空気を読むというのは空気の変化を感じ取るセンサーが長けているのかもしれないですね。

というわけで、明日から4月。

ドキドキ、ワクワク。

不安と希望を胸に抱え、それぞれの道に進む皆様のご多幸を心からお祈り申し上げます。

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