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家族とは 「与えられるもの 」ではなく、 「選ぶもの」

子ども頃から、「家族を大切にしよう」という言葉には違和感を覚えていた。
身近な人を思いやる気持ちは素晴らしいし、家族の仲がいいのは好ましいことだと思う。しかし、たまたま「良い家族」に恵まれなかった人とっては、これは呪いの言葉になるのではないだろうか。

家族愛、家族の絆。ポジティブな文脈で語られることの多い「家族」は、人によっては逃げられないしがらみや足枷として、生きづらさを生む枠組みになる。

最近手に取った「ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。」は、そんな家族、特に親との繋がりに縛られて苦しんでいる人に読んでほしい一冊だ。

筆者の幡野広志さんは写真家で、3歳の男の子の子育て中。2017年に血液のガンが見つかり、余命3年と宣告されている。

私は幡野さんとほぼ同世代で、さらに幡野さんのお子さんと同じぐらいの年齢の息子を育てている。そんな共通点もあって、幡野さんをTwitterでフォローするようになった。もし自分がいま治らないガンに罹っていると分かったらどうするだろう?幡野さんが発信する言葉を目にするたびに、そんな問いが頭をよぎる。

幡野さんの「ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。」は、人生における選択について書かれている。特に、通常「選べない」とされている「家族」がメインテーマだ。

ご自身の病の発覚をきっかけとして、幡野さんはがん患者やその他さまざまな生きづらさを抱える人たちに話を聞く機会を持つようになる。そうした中で、多くの人の悩みの根底にあるのは、人間関係、特に家族であるということに気がつく。

そういう悩みを持っている人たちに向かって、幡野さんはご自身の家族の話も交えながら、静かな熱量を持って「家族は選べる」という力強いメッセージを送っている。

家族とは、 「与えられるもの 」ではなく、 「選ぶもの」なのだ 。もしも改善の余地がない関係だったとしたら、たとえ親子であっても、その関係を断ち切ってかまわないのだ。
少なくとも 「そこに生まれてしまった以上 、永遠に逃げられない場所」だなんて、ありえないと思う 。ぼくは自分の人生を自分で選んでいきたいし、自分の居場所も、自分の家族も、自分の手で選んでいきたい。それはぜったいに、可能なことなのだ。

こういった幡野さんの言葉に、救われる人は多いのではないだろうか。


本書の中で、特に印象に残った1つのエピソードを紹介したい。

NASA(アメリカ航空宇宙局)では、独自の家族の定義を設けているという。世間からの注目も高く、任務が危険と隣り合わせの宇宙飛行士には、家族にも様々なサポートが提供される。サポートする家族は大きく2つに分類しているそうだ。ひとつは「直系家族」で、もうひとつは「拡大家族」。スペースシャトル打ち上げの見学やシャトルとの交信などの際には、「直系家族」が優先される。

「直系家族」と聞いて、私は、そこに含まれるのは配偶者と一親等(親、子)、二親等(兄弟、祖父母、孫)あたりかと予想した。しかし、全く違っていた。

NASAの定義は明確だ。 ①配偶者 ②子ども ③子どもの配偶者までが、「直系家族」なのだ 。

驚きの定義だった。
「親は入らないの?」「結婚してない人や、子どもがいない人はどうなるの?」なんて声が聞こえてきそうだ。
日本で発表されたら炎上間違いなし……!

そして「拡大家族」には、それ以外の家族や親族に加え、親友なども含まれるそうだ。

これについて、幡野さんは次のように述べている。

家族とは「親子」の単位ではじまるものではなく、「夫婦」の単位からはじまるものなのだ 。同性婚を含め、自分で選んだパートナーこそが、ファミリーの最小単位なのだ。親を選んで生まれることは、誰にもできない。でも、パートナーを選ぶことだったら、誰にでもできる。

この「直系家族」と「拡大家族」の定義は、個人的にはとてもしっくりきた。夫婦が基準、という考え方には強く共感する。夫婦は自分で選んだもっとも身近な人間関係であり、ほとんどの人が人生で一番長い時間を一緒に過ごす。夫婦のパートナーシップの重要性は今後も高まっていくと思っている。


私の両親はずっと昔に離婚している。私は父親には30年近く連絡もとったことがないし、会ったこともない。母や兄弟とも、会う頻度は数年に1度くらいと低い方だと思う。そんな自分の状況になんとなく引け目を感じていたけれど、この本を読んで、長年の心のモヤモヤがなんだか晴れた気がした。


NASAの基準に照らすと、私はいま2歳の息子の「直系家族」ではない。いつか、「拡大家族」に入れてもらえたらいいなと思っている。この子の親であるという幸運にあぐらをかくことなく、ひとりの人間として子どもといい関係を築けるよう、これからも息子、そして夫との日々を大切に過ごしていきたい。



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