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THE 戦闘員 第5話

【息子の熱 家の側で戦闘 仮面バスターにキレる 土下座】

体温計がピピピッと鳴った。38℃を表示していた。

小野剛は悪の秘密結社サタンの戦闘員である。その小野剛には一人息子がいる。正利、8歳、小学2年生、38℃だ。

いつもは元気いっぱいだが、今日は顔を真っ赤にして横になっている。

「今日は学校休みなさい。お父さん連絡しとくから」

小野剛は携帯を取り出すとメールが鳴った。

「なんだこんな時に」

メールを見ると戦闘の依頼だ。

「行くかよ」

小野剛は全部見ず、すぐにメールを閉じた。そして学校に連絡をした。その間も正利は、「うーうー」と苦しそうな表情を浮かべていた。医者に連れていった方がいいか?でもいつものように、明日にはころっと元気になりそうだし。小野剛は悩んでいる。

「それにしても、さっきからうるさいな」

少し前から外が騒がしい。

小野剛の表情は曇る。まさかと思いつつ、メールを恐る恐る開き、ゆっくり下へスクロールした。

「場所、ここかよ」

仮面バスターVS怪人蜂男。そして戦闘員が数名。なかなかの住宅街だ。狭いし、人通りもあるし、正直なところ、全員こんなところであまり戦いたくはない。しかしお互い啖呵を切ってしまった手前、何も無しで引き下がるわけにはいかない。睨み合いが続く中、勢いよく家の玄関が開いた。

「静かにしろ!今息子、熱出してんだよ」

小野剛は戦闘員の中にいた斎藤に言い放った。小野剛の家はこんなボロアパートなんだと斎藤は戸惑った。そんな気持ちで、斎藤は返した。

「いや、仮面バスターに言って下さいよ」

剛「おい!てめえ!」

仮面バスター「なんだ」

小野剛は勢いで言ってしまったことに後悔した。あんな強い仮面バスターに向かって、エクスクラメーションマークが二つも入る、上からの言葉を言ってしまった。

「いや、あのー、ちょっと、静かにしてもらえないでしょうか?」

「は?」

低い太い声だった。小野剛は恐怖に震えた。しかし、息子のためにも。

「あのー、今、息子が寝込んでまして」

「知るかボケ」

仮面バスターは振りかぶり、

「バスターパンチ」

小野剛は吹っ飛んだ。近所の塀が崩れ落ちた。しかし、息子のためにも。

「そこを何とかお願いします」

小野剛は土下座した。そして仮面バスターに迫ってきた。

「なんだ、お前は」

仮面バスターは戸惑いながらも蹴り続けた。しかし、何度も迫ってくる。

「お願いします。お願いします」

小野剛は仮面バスターの足にまとわりつきながら、懇願した。仮面バスターは気持ち悪さを感じて、さらに蹴りまくった。その光景の異様さに、怪人蜂男と斎藤達は全く動けなかった。意識が朦朧としながら土下座をし続ける小野剛。もう何なのかよくわからなくなってきたが蹴り続ける仮面バスター。

「何あれ?ちょっと奥さん、あれ、仮面バスターじゃない?」

そう、普段は、この場所は主婦たちの井戸端会議の会場。

「あら、ほんと。何してるのかしら」

数人の主婦たちが集まってきた。

「ひょっとして土下座させてるんじゃないの?」

「え?ヒーローもゲスいことするのねー」

「やーねー。世も末ねー」

仮面バスターはふと我に返った。自分でも少しやりすぎた感が否めなかった。正義のヒーローはばつが悪くなった。

「今日はおとなしく帰ってやる」

仮面バスターはバイクを置いて慌てて帰っていった。

「おい、大丈夫か?」

怪人蜂男はぐったりの小野剛の肩を持って揺らした。

「しっかりしろ」

小野剛は返事はなく、ぐわんぐわん揺れるだけだった。

目を覚ましたのは次の日の息子の言葉だった。

「パパ、大丈夫?」

小野剛は家のベッドの上。

剛「あれ?あ、正利。あ、熱は?」

正利「もう下がったよ。パパ、一日中寝てたよ。でも蜂男さんから聞いたよ。パパ、仮面バスターを追っ払ったんだって」

剛「え?」

正利「さすがパパ」

剛「あーまあな」

正利「僕も見たかったな。でも今回は結構やられたね」

剛「え?あ、いや、これはな仮面バスターのやつが、後ろから攻撃してきたんだ」

正利「ずるいね、それ」

剛「そうだろ?正利はこんな卑怯なことやっちゃダメだぞ」

正利「うん」

今回もまたウソを付いた。ウソはいつかバレる。







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