ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第2章1話

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2章 猫はトモダチ

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1話

 あったかいおひさまの光に包まれて、私は大きなあくびを一つ。それから、
「あ〜あ、たいくつぅぅ……」と、ぽろりとつぶやいた。
 ひなたぼっこは大好き。まぶしい光が身体をピカピカに洗ってくれる。
 だけど、この時間帯はちょっと苦手。だって――私、ヒトリボッチだから。

 私はミャオン。白黒のハチワレ模様がチャームポイントの、おんにゃのこ♪
 大好きな人は大林陽太! あ、もちろんパパさんとママさんも好きよ、うん。
 ただね。昼間はみんなお出かけしているの。陽太はガッコウ、パパさんとママさんはショクバってところへ。週末の二日間は、朝から夜まで一緒にいてくれるけど、それ以外の日は、みんな何だかんだと忙しそう。そして、私はひとりきりで陽太のお部屋でお留守番している。
 「ふわぁぁ……」
 大きなあくびが出る。
 ひとりだとできることって少ない。ひなたぼっこでしょ、お昼寝、窓の外を眺めること、軽い運動、あと、身だしなみを整えること、それと………………意外とやることあるって思ったけど、とにかく、ひとりきりはイヤ。寂しくてしかたない。
 あ〜あ。陽太、早く帰ってくればいいのに。
 そうしたら、たくさん撫でてもらえるし、遊んでもらえるし、おやつももらえるし、ガッコウの話を聞かせてくれる!
 陽太から聞くガッコウってところは、とっても面白そう。たくさんのお友達がいて、色々なことをして遊んだり、センセイにあれこれ教えてもらえるんだって。毎日陽太はガッコウへ行って、お土産に「宿題」を持って帰ってくる(宿題の話をする時はいつもイヤそうな顔をしてるけど)。
その宿題はお勉強で、次の日にガッコウへ持っていく。やらないとセンセイが怒って怖いから、なるべくちゃんとやるようにするって陽太は言ってる。えらい!だから私もそんな陽太を応援するの! 陽太のおひざに乗ったり、机の上に座ってサボっていないか見守ってあげたり。終われば、また私と遊んでくれるから、ちょっとプレッシャーをかける意味でも。うふふ。
 ガッコウってどんなところかな。私も行ってみたい(宿題はいらないけど)。猫にはガッコウなんてないものね。あればいいのに。

 あ。窓の外にチラッと動く影。私のお友達、お隣に住んでいるモノクロさんたちが遊びにきてくれたみたい。白色、灰色、黒色ってきれいに毛の色が分かれてる3匹のきょうだいねこさん。家の中しか居場所のない私のために、毎日、遊びにきてくれるの。
 私は掃き出しの窓辺に駆け寄った。
 窓ガラス越しのおしゃべりタイムのはじまりよ♪
「やっほー、ミャオン!」
「こんにちは、グレース!」
 グレースは灰色の毛並みのやんちゃな男の子。いつも私に面白い話を聞かせてくれる。
「今日も可愛いわね」
「クロエさんこそ、今日もキレイ!」
「ふふ、ありがとう」
 私の憧れの美人猫、クロエさん。つやつやな毛並みが素敵なスリムな黒猫なの。
 そして、ぽってり、どっしり、どどーんとした大きな身体が迫力満点だけど、おっとりしているスノウさん。
「スノウさんも、こんにちは」
「……おう。ミャオンは今日も留守番かい?」
「ハイ。もう退屈で、退屈で〜」
 いけない、またあくびがでちゃいそう。
「陽太のアレはどうなった?」
 グレースがワクワクしながら聞いてくる「陽太のアレ」っていうのは、最近、陽太を悩ませているお友達の話。
 内藤芽雨さんって人がね、陽太にキツーく当たるようになっちゃったんだって。前は一緒に遊んだりして仲良しだったのに。理由がわからなくて、陽太もどうしていいかわからないらしいの。
「んー、かわりないみたい」
「相変わらずか〜、つまんないなぁ」
「つまらないって……まるで『何かあった方がいい』みたいな言い方ね」
 クロエさんが苦笑してる。
「私は、陽太が困っているのを見るのはツライな。どうにかしてあげたいんだけど……」
 どうにもできないのよね〜。
 私は深々とため息をついた。
 すると、今までこのことについて興味を示してなかったスノウさんが、
「それは……本心かい?」って聞いてきた。
「も、もちろんよ!」
 思わずピシッと姿勢を正して。
「私は陽太にいつもニコニコしていてもらいたいの」
 そう答えたら、スノウさんたら、目を細めて、
「ミャオンがこの町の一員になって、そろそろ一ヶ月だ。まぁ、いい頃合いだろう。とっておきの情報を教えてやろう」って言った。
 クロエさんやグレースも、思わせぶりに目を見交わしている。
「え、なになに?」
「ただし! これには大きな危険と代償が伴う」
「……!」
 ええと、ダイショウってなに?
 私の「?」に気がついたグレースが「『オダイキン』のことだよ!」って教えてくれた。
「オダイキン?」
 初めての言葉。それってなあに?
 今度はクロエさんが教えてくれた。
「ん〜、人間が使っているお金とか……は持ってないわよね? 食べていないごはんとか、おやつ、新品のおもちゃとか……」
「それならあるわ」
 まだ遊んでいないおもちゃ。パパさんが買ってきてくれたボールなんだけど、ちょっと模様が派手なのと、変な匂いがするから、遊ばずにおもちゃ箱にいれっぱなしになっているの。
 スノウさんはよしよしと頷いて、もったいぶった口調で言った。
「この町には猫のための『店』がある。『オダイキン』と交換で猫の願いごとをかなえるものを売ってくれる店がね」
「!!!!!」
 私は驚きのあまり、全身の毛がババーって逆立っちゃった。
「……行きたい!」
 願いごとをかなえてくれるなんて、夢みたい!
 そんなステキなお店があるなら、行かなきゃ! 陽太のためにも!
「この町の猫なら、一度は顔を出すのがマナーだ。行くといい」
「はい!」
 元気よく返事して。
「…………あ」
 でも待って。お店って外にあるのよね?
「あの、私、外にでられないんです……」
 そうよ、陽太の家に来てから、私、一度も外に出たことがない。(ママさんに、ドウブツビョウインってところには連れていかれたけど、あれは忘れたい思い出だから、なかったことにしちゃう!)
 いつも窓にはバッチリ鍵がかかっているし、抜け出せそうな穴もない。
 ――がっかり。
 そうしたら、スノウさんが上を見上げて「出られるだろ?」って言った。
「え、どうやって?」
 思わず同じ方向を見る。
 そしたら――窓ガラスの鍵が、かかってなかったの!
 いつもなら、あのレバーが上に向いているのに、今日は下になってる。
 今朝、ガッコウへ行く前に、陽太が開け閉めしてたから、その時、鍵をかけ忘れたのね。陽太ったら、あわてん坊なんだから。
 だけど……窓はぴっちり閉まってる。簡単には開かなそう……って思っていたら、スノウさんがのっそりと動いて、窓ガラスに大きな手を当てた。ガラス越しの私の目の前に、大きくてふっくらしたピンク色の肉球がぺったり。スノウさんはそのままぐいって手を横に動かしたら、隙間が開いたの! ほんの少しだけ。
 ふわって外の風が部屋の中に入ってきた。草花の匂い。ひなたぼっこしていたモノクロさんたちの毛の香り。車の排気ガスの臭〜い匂い。色んな香りが。
 スノウさんは今度は開いた隙間に手を差しこんで、私が通れるだけの幅を作ってくれた。スノウさんたら力持ち!
「……さあ、開いた」
 どうしよう。心臓がドキドキしてきた。
 家の中にいなさいって、陽太たちには言われているけれど。
 お外の世界ってどんなだろうって、ずっと気になってた。窓から見下ろす世界は、家の中とはまた違っていて、色んな人、猫、犬、鳥が行き来していて。
 それに、陽太。
 スノウさんたちが教えてくれたお店に行けば、陽太の困った顔を、ニコニコ笑顔に変えることができるかもしれない。
 そうしたら、私も幸せ。
 ――うん。
 こんなチャンス、二度とないかもしれない。
 見れば、外でモノクロさんたちが私が出てくるのを待っている。
 ――決めた。行こう。
「じゃあ……いってきます」
 私は陽太の真似をして、誰もいない家に挨拶をする。
 そして、窓ガラスの隙間から、まだ知らない外の世界へ足をふみ出した。

                         <2話へ続く>

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