ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第1章4話
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1章 トモダチは猫
4話
ミャオンがこのお店に来たってことは、まだ近くにいるかもしれないよね。
ぼくはあたりをきょろきょろと見回した。
店長は自信たっぷりに「帰る」って言ってたけど、外は危険でいっぱいだから、絶対に安全だっていう保証はないと思うんだ。
ミャオンが歩いていた道を戻りながら、「ミャオン?」って声をかけた。
……返事はない。
「あの……」
あの男の子、ぼくのあとをついてきてたみたい。
そうだ!
店長がミャオンを見たなら、この子だってミャオンを見てるんじゃないの?
「ねえ、君、ぼくの猫、見なかった? あのお店に入っていくところ、ぼく見たんだ」
すると、その男の子はものすごくびっくりしたみたい。
「えっ! そうなの?」
「う、うん? 灰色の猫と一緒だった。見てない?」
なんでこんなに驚くんだろう?
「……ご、ごめん。その……見てないんだ。ほら、あのお店、猫がいっぱいいたから、それで」
「ああ……そっか……」
確かにあのお店、「何匹いるの!?」ってくらい、たくさん猫がいたっけ。
あれだけいたら紛れちゃって分からなくなるかもしれない。
「行き違いになっちゃったのかなぁ……」
もしそうだとするなら、ミャオンはやっぱり外をうろついてるってことになるよね。
ミャオンは赤ちゃんの頃にぼくの家にやってきたんだから、外の世界のことなんか、ほとんど何にも知らないはずだ。
横断歩道の信号は青の時は渡っていいけど、赤の時は渡っちゃいけないこととか。道路に落ちているガムは踏んづけちゃダメってこととか。
ご近所がどんな風なのかってことも、なにも、なーんにも知らない。
ああ……考えれば考えるほど、どんどん心配になってきちゃうよ!
「あの……」
男の子はまだぼくのあとをついてきている。家、同じ方向なのかな?
「猫のことなら、心配しなくて大丈夫だと思うよ」
! 店長と同じことを言ってる!
「ねえ……どうして、そう思うの?」
迫力のある店長には聞けなかったこと。
でも、この子なら、怖くないから。
「ミャオンは、外のこと、何にも知らない子猫なんだ。生まれて初めて外に出ちゃったんだよ。心配するの、当たり前じゃないか!」
ぼくは言いながらだんだんイライラしてきてしまった。
「ミャオンにもしものことがあったらぼくのせいだぼくが窓のカギを締め忘れたから全部ぼくのせいなんだ!」
ぼくは一息に言って……じんわりと目が熱くなるのを感じた。
泣いちゃいそう。
もう五年生なのに。
これって八つ当たりっていうんだよね。
この子には関係のないことなのに、ぼくったらついカッとなっちゃって。
「……猫ってさ、そんなに遠くまで行ったりしないんだよ」
「え?」
「何かトラブルに巻きこまれたりしたら別だけど。普通はそんなに遠くまで行ったりしないよ」
「……」
遠くまで行かない。本当にそうなのかな?
ていうか、今『トラブルに巻きこまれたりしたら別』って言ったよね?
ミャオンの身に何も起こらない可能性はゼロじゃないってことだ。
ぼくはぶるっと身震いした。
もうすぐ日が暮れる時間だ。
そうしたら余計に大変なことにならない? 夜はますます危険になるよね。暗くなったら見通し悪くなっちゃうし、車や自転車にぶつかっちゃうかも!
「ミャオン……! 早く探さないと!」
それに、ぼくにだって、残された時間は少ない。
夕焼けチャイムが鳴ったら家に帰ること。
これがぼくとお母さんたちとの約束、その2なんだ(その1は「出かける時には必ずカギをかけること」)。
それまでにミャオンを見つけ出さないと……!
「……ぼく、急いでるから、またね」
「その、猫を探すなら、手伝うよ!」
「えっ?」
走り出そうとしてたから、つんのめるみたいになっちゃった。
「一緒に探す。心配なんでしょう?」
「う、うん。でも……いいの?」
「うん」
男の子はにっこり笑った。
こんなふうに思うのはおかしいかもしれないけど、その子の笑顔はとても可愛くて、ぼくのイライラハラハラトゲトゲしていた心を、ちょっぴり柔らかくしてくれた。
「ミャオ〜ン! ミャオン!」
ぼくたちは、さっき探しそびれたほうへ来ていた。
こっちは学校とは反対方向だけど、小さな公園がある。ぼくもよく遊びにいくけど、実はそこ、野良猫たちの遊び場でもあるんだ。餌やりおばさんだって来るんだよ。そのおばさんは、通学路の餌やりおじさんと違って、カリカリフードをばーって豪快にばらまくから、猫だけじゃなくて、ハトとかカラスとかまで食べにくる。
その光景は迫力満点。
餌の時間になるとぼくたちも遊ぶのをやめて、少し遠くから見守ることにしているくらい、近づけない雰囲気なんだ。
でも、今日はそんなこと言っていられない。
ミャオンがいるかもしれないし。
「公園に行ってみよう」
ぼくが声をかけると、男の子は驚いたように、「公園? そんなのがあるの?」って聞き返してきた。
「あれ? 知らないの?」
「うん……」
そっか。この辺じゃ見ない子だもんね。詳しくないのも無理はないかも。
……なのに、手伝ってくれるなんて、本当にいいのかな?
今さらだけど気になってきちゃって、聞いてみることにした。
「いいの?」
「なにが?」
「ミャオンを探すの、手伝ってくれてるけど、いいのかなって」
男の子は不思議そうにぼくを見る。
「いいに決まってるよ」
「どうして?」
「心配なんでしょう?」
「そうだけど、ミャオンはぼくの猫で、君の猫じゃないよね?」
「……うん」
……ええと、どう言えば伝わるかなぁ。
「君、この辺のこと、詳しくないんでしょ? なのに、一緒にこんなところまで探してもらっちゃっていいの?」
「いいよ」
男の子の答えはとってもシンプルだ。
「でも、家に帰れるの?」
「ミャオン?」
「ううん、君が」
「……?」
「ここ、どこだかわかってる?」
「うん。家の近く……だと思う」
「あ、そうなんだ?」
それなら、大丈夫かな。
もしかしたら最近引っ越してきた子なのかもしれない。
明日とかになったら、転校生ですって紹介されたりして?
「あ、公園ってあそこ?」
男の子が目を輝かせながら指を差す。
そこでは今まさに、餌やリおばさんがカリカリフードを豪快にばらまこうとしているところだった。
<5話に続く>
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