ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第5章1話

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第5章 こころがモヤモヤ!

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1話

 ナゾの美少女が嵐のように去っていって、それを追いかけて(?)猫のスノウが走っていって、芽雨さんはアイスが溶けちゃうって慌てて帰っていって――。
 残されたのは、ぼくともうひとり、この前、ミャオンを一緒に探してくれた男の子だけになった。
 男の子はこの状況にちょっと困ってるみたい。ぼくもだけど。
 そもそも、ぼくはなにをしようとしてたんだっけ?
「「ええと……」」
 男の子となぜかハモっちゃってびっくり。
「「あの」」
 ほら、また。
 なんでだろ、面白いの。ぼくたち、気が合うのかな?
 あっ、そうだ! 
「ねえ、君の名前、教えてよ」
「えっ!? な、名前!?」
「うん。ぼくは、大林陽太。大きな林に、太陽って漢字をひっくりかえして『ひなた』って読むんだ。六合小(りくごうしょう)の5年。君は?」
 自己紹介はきちんとしないとね。
 すると、男の子はものすごく、ものすごーく困った顔をして、考え込んじゃった。
 どうしたんだろう?
 ……あ、もしかして。コジンジョウホウなんちゃらで問題あるとか?
「ええと、名前は……『ミヤオ』」
「『宮尾』? 宮殿の『宮』にしっぽの『尾』?」
「う? うん、そう、それ」
「学校はどこ?」
「それは――」
 ああ、また困った顔して、うつむいちゃってる。
 やっぱりあれかな。お母さんとかに口止めされているのかも。
「ごめん、ムリに教えてくれなくていいよ。でも、この近所に住んでるんだよね?」
「う、うん」
「そっか!」
 よかった。それならまたこうやって会えるよね!
「ぼく、これから買い物に行くところなんだ。ほら、君と会った『不可思議なんとか』ってお店」
 すると、宮尾くんはやっと笑顔になった。
「あの『お店』?」
「うん。よかったら一緒に行かない? あの店長さん、ちょっと苦手で」
「ああ、わかるよ。ちょっと怖い感じだったよね」
「やっぱりそう思った!?」
 ぼくたちは店長さんの話題で盛り上がりながら、例の路地に入っていった。

 路地の両側には、三階建ての似たようなデザインの家がずらりと並んでいる。花屋さんが入っているビルもあるけど、路地のほうは裏で、通用口があるくらい。街灯とか小さな花壇があって、地面はレンガ敷き。なかなかおしゃれな路地なんだ。
 そして、その周りの町並みから、かなり浮いて見える古びた木造二階建てが、猫グッズの専門店『不可思議……』なんちゃら。
 前に来た時には気が付かなかったけど、小さなお札が引き戸のところに掛かっていた。『商い中』って書いてある。――これも何て読むんだろ?
 難しくて読めない(ぼく、漢字は苦手なんだよね)。
 そうだ、宮尾くんなら読めるかな?
「このお店の名前、なんていうか知ってる?」
「え?」
 ぼくの突然の質問に、宮尾くんはびっくりしたみたい。
「ほら、看板に『ふかしぎ』なんとかって書いてあるでしょ。後ろの二文字が読めないんだよね」
 宮尾くんも眉を寄せて看板を見上げていたけど「…………ごめん、わからない」って。
「そっか……」
 宮尾くんも漢字は苦手なのか。ぼくと一緒だ。
「気になるなら、聞いてみたら?」
 えっ! あの店長さんに!? そんなことしたら、また睨まれそう!
「……宮尾くんが聞いてくれる?」
「えー! それはちょっと……」
 やっぱり気が引けるよね。
「『お店』ってみんな呼んでるらしいけど……」
「そうなんだ」
 それで通じるなら、いいのかな。
 コンビニって言えば、あそこ! っていう風に、定着しているのなら。
「じゃあ、入ろうか」
 ぼくは引き戸の取っ手に指をかけて、思いだした。
 前に来た時、この戸、ものすご〜く重かったよね。両手で力いっぱい引かないと、なかなか開かなかったんだった。きっと今日も……。
「えいっ!」
 ぼくはあの時みたいに力を込めて両手で引き戸を開けた。

 バッシーン!!!!

 気持ちがいいくらい大きな音が響いて、引き戸が開いた。
 勢いがつきすぎて、引き戸はちょっと戻ってきちゃうし、天井からパラパラってホコリが舞い落ちてきて――。
「「わっ!?」」
 ぼくも宮尾くんも、そしてカウンターにいた店長さんも、みんなみんなびっくり仰天。
 店の中にいた猫たちが一斉に逃げ惑って、隅っこに隠れていくのが見えた。
 い、いけない! 早く謝らなくちゃ! ぼくは慌てて頭を下げた。
「……ご、ごめんなさい! あの、この前、すごく扉が固かったから、今日もそうなんじゃないかって思って……」
 すると店長さんは大きく息をついて、「なに、今度から気を付けてくれればいい」って言った。
 怒られるかと思ったのに、意外な反応。
「こ、こんにちは」
 宮尾くんが挨拶してる。ぼくも慌てて挨拶した。
「こんにちは」
「はい、いらっしゃい」
 おおっ、店長さん、今、ちょっと笑った!(ような気がする!)
 今日は機嫌いいのかな?
 相変わらず目は細めたままだけど、前に来た時と違って、ピリピリした感じがしない。
 店のあちこちに隠れていった猫たちも、落ち着いたのか1匹、2匹と顔を出してきた。
 ぼくと宮尾くんは店に入った。(今度はちゃんとそっと戸を閉めたよ)
「で、今日はどうしたんだい?」
 ぼくはポケットから、折りたたんだ紙袋を取り出して、
「あの、この前、買ったおやつを、また買いにきました。商品名、忘れちゃって……。これくらいの大きさのクッキーです。ありますか?」
 すると、店長さんは大きく頷いた。
「ああ、『十人十色』のことかい」
「じゅうにんといろ……」
 『としょく』じゃなくて『といろ』か。覚えておこうっと。
 店長さんは椅子からゆっくり立ち上がりながら「味はどうだった? おいしかったかい?」って聞いてきた。
「はい! とっても!」
 即答したのは、ぼくじゃなくて宮尾くん。すごくうれしそうに。
 へぇ、宮尾くんもあのクッキーを買ってたんだ。
「それはよかったね。うちの人気商品だから、まあ当然だけれど」
 わぁ、店長さんも、うれしそう! それなら、ぼくも!
「うちのミャオンも、喜んで食べてました!」
「そうかい、そうかい」
 店長さんはニコニコ笑ってる。笑ってるよ! ぼくまですごくうれしくなってきた。
 ……あっと、そうだ、もう一つ、大事なことを報告しておかないとね。
「それと、店長さん。うちのミャオン、あのあと、ちゃんと帰ってきてました。あの時はありがとうございました」
 店長さんは新しい紙袋に『十人十色』を一枚一枚丁寧に詰めながら、うんうんとうなずいてくれた。
「今日も5枚でいいのかい?」
「あ……はい!」
 お財布から百円玉を5枚取り出す。これで、ぼくの今月分のおこづかい(と、先月分の残り)はおしまいだ。
 まあ、最近はあんまり使わないからいいけど……次から、ミャオンに『十人十色』をあげる時は、少しずつにしないといけないな。
 ぼくは店長さんにお金を払って、紙袋を受け取った。
「それから、これを渡しておくよ」
 店長さんはカードを差し出してきた。
「これは?」
「うちの『ぽいんとかーど』だよ」
 ポイントカード!?
 よく見ると、カードには肉球型のハンコが2コ押してあった。
「お買い上げ1回につき1ぽいんと。5ぽいんと貯まるごとにくじ引きできて、商品と交換できるんだ。面白いだろう?」
 店長さんはカウンターの下から、おみくじの木箱を取り出して、うれしそうに説明してくれた。
まるで神社とかにあるような角柱の箱だった。
「前回の分と、今回の分。2ぽいんと、つけてあるからね。また来ておくれ」
「はい! ありがとうございます!」
 5回に1回、おやつ代が節約できるのか、これは助かるな。
 ぼくはカードをお財布に大事にしまうと、商品を受け取って店をあとにした。宮尾くんと一緒に。

 店の引き戸をそっと閉めて、ふぅと息をつく。
「よかったね!」
 宮尾くんは笑顔満面でぼくを振りかえった。
「店長さん、怒ってなかったじゃない?」
「うんうん! 思いきり戸を開けちゃったから、絶対怒られると思った!」
「あはは!」
 そうだ、忘れてた!
「君にも報告してなかったね。ミャオン、見つかったよ。あの時は一緒に探してくれてありがとう!」
 すると、宮尾くんは一瞬、きょとんとしたけど「見つかってよかったね」って笑ってくれた。
 あの日、宮尾くんが一緒に探してくれて、うれしかったな。猫がいっぱい近寄ってきて驚いたけど、ひとりで探しているよりもずっと心強かった。
 ……ぼく、宮尾くんのこと、もっと知りたいな。そしてできることなら、友達になりたい。
 なんでそう思うのかな? わからないけど。
「……ねえ、今度ぼくの家に遊びにこない?」
「えっ?」
 突然すぎたかな? 宮尾くんはものすごくびっくりしたみたい。
 口をあんぐり開けて、目もぱちくりさせてぼくを見つめてくるから、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「ほ、ほら! ミャオンを一緒に探してくれたお礼をしたいし、うちのミャオンにも会ってもらいたいし! 今日すぐにとかじゃなくて、今度でいいから! その……だめ、かな?」
 一生懸命、気持ちを伝える。
 すると宮尾くんは「ううん! ありがとう!」って言ってくれた。
「やった!」
 ぼくは思わずガッツポーズ!
「約束だよ!」
 ぼくたちは店の前で、笑顔で手を振って別れた。

                         <2話へ続く>

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