ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第5章4話

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第5章 こころがモヤモヤ!

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4話

 『不可思議なんちゃら』――通称『お店』を目指して、ぼくはひとり歩いていた。
 宮尾くんを探すのが目的で、買い物をするつもりはないから、お財布は持ってきていない。
 そうそう! ここへ来る前に、中学生のお姉さんたち(ミャオン行方不明事件の時に声をかけてきてくれた人たち)とすれ違ったから「猫は見つかりました!」って報告することができたよ。(これでミャオン捜索隊の全員に報告が終わったことになる。よかった!)
「宮尾くん、いるといいなぁ……」
 ぼくはあちこちに目を配りながら、『お店』のある路地に入っていった。
 もし『お店』にいなかったら、店長さんに聞いてみよう。何か知っているかもしれないしね。
 あ、見えてきた、見えてきた。ひときわ古めかしい建物。
 引き戸はもう力いっぱい開けなくても大丈夫なんだったよね。うん。
「……い」
 そういえば、お店って普通、定休日があるよね? コンビニは別だけど。もし今日『お店』がお休みだったらどうしよう?
「……おい……」
 まあ、休みだったら、仕方ないから少しこの辺りを歩いてみようかな。大通りのほうとかまで足を伸ばしてみて。それでも見つからなかったら、公園にも行ってみよう。
「おい……」
 餌やりのおばさんが、野良猫たちにごはんをあげる時間に行けば、宮尾くんも猫を見に遊びに来てるかもしれな――
「おい! 無視するんじゃねーよ!!」
「わっ!?」
 突然後ろから怒鳴られて、飛び上がっちゃった。
 振りかえると、そこにいたのは――あの美少女!
「ご、ごめんなさい!」
 考え事に夢中で、全然気が付かなかったよ!
「お前、いい度胸してるよな」
「……!」
 ヒーッ! ギロリと睨みつけてくるその視線は、突き刺すように鋭くて、迫力満点。
 黙っていればキレイな女の子なのに!
「俺……じゃない、あ、あたしの、言ったこと、完全に無視しやがって」
「えっ、えっ? 無視なんてしてないよ!」
 あっ。自分のこと、『俺』から『あたし』に言い直してる。この前、ぼくが指摘したこと、ちゃんと気にしてくれているんだね。完全に女の子っぽい喋り方とまではいってないけど。
 それならきっと、ちゃんと話せばわかってくれるはず!
「ねえ、君、人違いしてるよね?」
 ぼくは美少女の迫力に負けそうになりながらも、がんばって訴えてみた。
「寂しい思いをさせているとか、ひとりじめしてるとか言われても、ぼくには何のことかさっぱりわからないんだけど」
「ハァ? 今度はしらばっくれるつもりか?」
 美少女は顔をくいっと傾けて、ぼくに歩み寄ってくる。その歩き方がまた、なんていうか、テレビドラマで出てくる不良っぽくて、思わずぼくは後ずさっちゃった。
「そ、そうじゃなくて! 心当たりがないって言ってるんだ」
「よくもまあ、ぬけぬけと!」
 美少女はぼくの肩をドンって小突いてきた。後ろに下がりかけてたぼくは、突き飛ばされた勢いもあってよろめいてしまった。だけど、尻餅をついたりとかはしなかったよ(耐えた!)
 こんなことされたら、さすがのぼくもやられっぱなしじゃいられない。
「本当だってば!君は誰のことを言っているの?寂しい思いをしてるのは誰?ひとりじめってどういうこと?」
 こうなったら気になること全部ぶつけてやる! ぼくは間髪いれずに質問攻めにしてやった。
 効果があったのか、美少女は少しひるんだみたい。
「……本当にわからないのか?」ってうかがうように聞いてきたから、ぼくは畳みかけてやった。
「わからないから聞いてるんだ! 君の言ってること、全然わからないんだよ!」
 そしたら、美少女は目をぱちくりさせて、うつむいた。
「……」
 わ……っ、この子、まつげ長〜い!
 やっぱり美人さんだ。思わず見とれちゃう。
 こんな喋り方や不良っぽい態度じゃない方が、もっと魅力的なんだけどなぁ。
「……わかった。冷静に話す」
 ぽつりと美少女が言った。
 わぁ……! よかった! ぼくはその言葉に心底ホッとした。
「うん、そうしてくれると助かるよ」
「こっち」
 美少女は、ぼくの腕を取って路地の端に引っ張った。
「えっ? な、なに?」
 よろめきながら美少女の視線の先を辿ると――大通りのほうから、自転車に乗った女の人が路地に曲がってくるところが見えた。幼稚園の可愛い制服を着た女の子が後ろに乗ってる。
 この路地は狭いから、こうして避けてあげないといけないんだ。
 でも、それにしても、まだぼくたちとあの自転車の人、だいぶ距離があるのに、よく気がついたなぁ。目がいいのかな。
 ぼくが密かに感心していると、美少女は落ち着いた様子で口を開いた。
「……お前のところに、めちゃくちゃ可愛い子がいるだろ?」
「え」
 可愛い子? ――って、だから、誰のこと?
「ええと?」
「お前んちにいるだろ」
「ぼくの家に?」
 自転車の人がぼくたちの横を通りすぎていく。すれ違いざま、幼稚園の女の子が、美少女を見て目をまあるくしてたのが印象的だった。
「ええと……ぼくに妹はいないよ。ぼく、ひとりっこだし」
「誰が人間だって言った?」
 ジロリと睨まれる。
 うう……冷静に、冷静にお願いします。
 ていうか、人間じゃないってこと? それで可愛いってことは――。
「ひょっとして、うちの猫のこと?」
「そう、それだ!」
 美少女に背中をバンってはたかれた。でも……そんなに痛くはなかった。なんていうのかな、お笑い芸人でいうところの、ツッコミみたいな感じ。(あれって痛くはないよね? そうじゃないと、ボケの人、傷だらけになっちゃうもんね?)
 ていうか、可愛い子ってミャオンのことだったの!?  つまり、人違いとか、そういうんじゃなかったんだ!?
「君、なんでミャオンのこと知ってるの?」
「……見かけたから」
 もしかして、この前、行方不明になった時かな?
「あの子、寂しい思いしてるんだぜ」
「え、えええ!?」
 そうなの? そんな感じしないけど!?
 いつだって元気だし、ぼくの話を聞いてくれるし、一緒に遊んでくれるし!
「お前が閉じこめているせいで」
「!」
 それって――家にってこと? でも、猫にとって、外の世界は危険がいっぱいだってお母さんが言ってた。だから、うちでは完全室内飼育にしてるんだ。
「閉じこめてるんじゃなくて――」
「閉じこめてるだろうが!」
 わぁ! 美少女は大声を出した。冷静にって言ってたくせに、イライラしはじめてしまったみたい。
「相手の許可も取らずに家に連れて帰って、閉じこめて、独り占めするとか、勝手すぎるだろうが!」
 ――え。
 えええ!?
 ぼくの心の中に、モヤモヤした真っ黒な煙が充満していく。
 なんだ? このイヤな気分は。
「あの子を自由にしてやれ。いいか、俺……あたしの言いたいことはそれだけ」
「――」
 ミャオンを自由に?
 ちょ、ちょっと待ってよ。どうしてそんなことを言われなきゃいけないの……。
 あ!
 ま、まさか――!

 ぼくの頭に、ひとつの可能性が浮かんだ。
 だけど、美少女は自分の言いたいことだけ言い終えたら、満足したようで、どこかへ行こうとしてる。
 ぼくは慌てて彼女を呼び止めた。
「待って!」
「なに」
 美少女は立ち止まってくれた。
「えっと……き、君の名前を教えてよ。この辺に住んでるんでしょ?」
 本当に聞きたいことは、そんなことじゃない。だけど、咄嗟に口から出てきたのは、こんな質問だった。
「名前? あたしの……名前か」
「う、うん。ぼくは大林陽太」
「知ってる」
「だったら、君の名前も教えてよ。なんて呼べばいい?」
「……あ、あたしは――あたしの名前は……」
 あれ? いきなり考え込んじゃったよ。
 もしかして宮尾くんと同じパターン? コジンジョウホウ絡みで、お母さんたちに口止めされてるっていう。
「そ、そうだな。うん。………ミケだ」
 ようやく絞り出すように美少女は名乗ってくれた。
「『三ケ田(みけだ)』?」
 こくっと頷く美少女。そして「じゃあな」って言って走ってっちゃった。
 三ケ田さん、かぁ。この辺にそんな名前のお家あったっけ? よくわからないけど、うちの学校の子じゃないのは確か。
 ていうか――。
 ぼくはさっき思い浮かんだ『可能性』のことで、すっかり気分が沈んでしまった。
 それは一体なにかって?

 ――あの三ケ田さんが、ミャオンの本当の飼い主なんじゃないかってこと。
 
                           <5話に続く>

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