ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第4章3話

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第4章 とおりゃんせ

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3話

「で、芽雨さんが『好き子いるの?』って聞いてくるからさ、ぼく、言ってやったんだ。『いるよ。うちのミャオン!』って! そしたらさ、芽雨さん、黙ったんだよ! それまでうるさいくらいにからかってきた子たちも!」 どう? ぼくってすごいでしょ!? すっきりした!
 そんな顔で、陽太は話してくれたけど。
 私はびっくりしちゃって、ナデナデの気持ちよさも吹き飛んじゃった。

 陽太がガッコウにいる間、私は何度も何度も、ドアのレバーに飛びつく練習をしてた。
 でも、なかなかうまくいかなくて。
 あとちょっとなんだけど。手が届きそうなんだけれど。もう一息ってところまでいってるんだけれど。
 応援してくれてたみんにゃも、それぞれに用事があるとかでいなくなっちゃって。
 私は私で、さすがに何度もジャンプしたから疲れてしまって、さっきまでお昼寝していたの。

 そうしたら陽太が帰ってきて、私に話してくれた。今朝の出来事を。

 グレースに聞いていた通り、陽太はゴンにケンカ売られたみたいで。(ケガがなくて本当によかった!)通せんぼされたから別の通学路からガッコウへ行くことになって、芽雨さんにバッタリ会って、一緒に登校したら他の子たちにからかわれて、それで、それで――。
 好きな子は私って言ってくれたのは、嬉しい。すごく、ものすごーく嬉しい。
 私も陽太が大好きだもの!
 だけど、だけどね、陽太。
 陽太ってば、乙女心がわかってない! ドンカン! ニブイ!
 私、陽太からしか聞いてないから、いまいちピンと来てなかったけど、今日の話でわかっちゃった。芽雨さんが最近、不機嫌だって聞かされてたけど、その理由も。
 ああ、どうしたら伝わるかな?
 私は一生懸命、気持ちを伝えようと陽太に訴える。
 けれど――。
「そっか、ミャオンも見たかったんだね。あの、芽雨さんの何ともいえない表情」
 違う、違うってば。そうじゃなくて……。
「え、真似してって? いいよ、見てて。『!』……こんな表情。どう?  ね、面白いでしょ?」
 面白いもなににも、私、芽雨さんの顏も見たことないからわからないよ。
「え、なに? もう一回? むりむり」
 そんなこと言ってないってば!
 ああ、芽雨さんもきっとこんな気持ちなんだろうな。
 伝わらなくて、ムズムズして。
 ん〜、どうしたらいいのかしらね?
 私は困り果てて陽太の膝に、手を乗せた。
 とにかく、芽雨さんのモノマネはあっちへ置いておこうよ。ね?
 今は、それどころじゃないの。問題は山積みなのよ。
 まずは――。
 芽雨さんの本当の気持ち。→ちゃんと確かめないと。
 ゴンの本当の目的。→陽太にひどいことしないでって止めなきゃ。
 陽太にわかってもらいたいこと。→陽太はドンカンだからきちんと伝えないとね。
 ドアのレバーを下げるためのコツもつかまないといけないし。→もう少しだと思うんだけど。
 ほらね? たくさんたくさん考えないといけないから。
 そしたら陽太は「どうしたの、ミャオン?」って私の手を取って、何を思ったか肉球をプニッと押してきた。
 あっ、ツメ!
 伸びてるの気が付かれちゃった!?
 どうしてそんなところばっかり目ざといの?
 私、ツメを切られるのは嫌い。尖っていないと、何だか落ち着かないの。引っ掛かりがなくなって、ツルツル滑っちゃうから。
 それに、私にとっては数少ないお守りのひとつなの。毎日研いでいるのは、身を守るため。
 ……まあ、家の中で過ごしている限りは、なくてもいいかもってクロエさんは言ってたけど。
 私はまた外に出たい。外に出るからには、ツメは必需品!
 でも、この陽太の表情。これはまた切られちゃうのかも……。
 ねえ、見逃してよ、陽太。
 私がそう訴えると――
「……そうか。わかった。おやつだね!」
 また違う方向に受け取っちゃったみたい。
 でも、おやつは大歓迎よ!
「ちょっと待ってて」
 はーい♪ 待ってる、待ってる!
 今日はどんなおやつかな? 楽しみ!
 陽太がおやつの入っているボックスをガサゴソあさってる。あの中におやつがいっぱい詰まってるのよね……じゅるり。
「ミャオン、はい、おやつ。新しいやつだぞ〜」
 陽太が取り出したのは、よりによって『お店』で買ってたクッキーだった。
 ええー! これ、食べて大丈夫? シサクヒンじゃない? ちゃんとしてる商品?
 何が起こるかわからないじゃない!
 あの時、店長さん、何て言ってたっけ? 覚えてないけど!
 でも、ここで食べないと、陽太が心配するよね?
 私はとりあえず匂いを嗅いでみることにした。
 くんくんくん……。
 ……なんだろう、この香り。懐しいような、くすぐったいような、不思議な香り。
「1枚百円だぞ〜。高いんだから、できれば食べてほしいな〜」
 わ、わかったわ。変な匂いはしないし、ちょっとだけ味見してみるわね。
 私はぺろっとクッキーをなめてみる。
「!!!!!!」
 なにこれ!?
 私はクッキーにかぶりついた。
 おいしい!!!!
 おいしい、おいしい、おいしい!!!!
 こんなの、はじめて!
 ああ、このおいしさを、どうやって表現すればいいのかしら。
 今まで食べたものの中でもダントツでぶっちぎりの一位! 最優秀賞! グランプリ! チャンピオン!
 世界中のごちそうを集めたって、きっとこのクッキーにはかなわないと思うの!
 何で出来ているのかしら? お魚? お肉? 詳しくはわからないけど!
「お、おいしい?」
 うん! 最高!!
 私はひなたにおかわりをおねだりした。
「え、もっと? 仕方ないなぁ……」
 やった、通じた! ごはんや遊んで欲しい時は、こうやって気持ちが通じるのよね。複雑なことになってくると、なかなかうまくいかないけど。
 私は陽太がくれるクッキーを平らげると、またおねだり。すると、陽太はまた私にクッキーをくれる。
 優しい陽太。やっぱり大好き!
 結局、私ってば陽太が『お店』で買ってくれたおやつを全部食べちゃったみたい。
 陽太は紙袋を逆さにして、「もうないよ」って教えてくれてる。
 でも、でも……もっと食べたい。紙袋からパラパラと降ってくるクッキーの粉。それすらもったいなくて、私は粉を一粒残らず舐めちゃった(少しお行儀、悪かったかも)。
 はぁ〜……。満足。うっとり。
 夢のようなおやつタイムだったわ。
 ……なんであんなに美味しかったのかな。久々に食べたおやつだったから? 
 実は私ね、あの『お店』に行った次の日から、もらったおやつは大事に取っておいてるの。もちろん『オダイキン』のためよ。
 『カミカミ』がシサクヒンだっていうのはショックだったけど、陽太が『お店』で買ったおやつは、こんなに美味しいかったんだし――シサクヒンじゃないやつは、きっとどれもこれも素晴らしい商品なんだわ。うん、きっとそう。
 だいたい、シサクヒンの『カミカミ』だって、すごい効果だったわよね。
 猫なのに人間に変身できて、陽太とおしゃべりできたんだもの! それだって夢みたい!
 人間の姿になるとなぜか男の子になっちゃうってところが、欠点なんだろうけど、魅力的な商品よね、うん(べ、別に自分に言い聞かせてるワケじゃないわよ!)
 私、やっぱりあの『お店』にまた行きたいな。
 そして『カミカミ』で人間になって、陽太と会いたい。
 私がじっと陽太を見つめると、陽太は「わかったよ。また買ってきてあげるから」って言ってくれた。
 えっ、またクッキーを買ってきてくれるの!?
 やったー! ありがとう、陽太! 大好き!
 ……あれ? どうかしたのかな。
 陽太、急に考え込んで、それから大慌てでお財布を持ち出して――。
「……ちょっと、お留守番してて。買ってくるから」
 え、ええ? まさか今すぐ買ってきてくれちゃうの!?
 そんなぁ……嬉しいけど、本当にいいのかしら?
 あのおやつ、高いって言ってなかったっけ? 陽太のおこづかい、なくなっちゃわない?
 私が心配している間に、陽太は部屋を飛び出していった。
 部屋のドアを開けたまま。
 やったわ、これはチャンスね! 他の部屋の窓が開いていたら、私も『お店』に行けるかも――!
 って思っていたら――またすぐに陽太が舞い戻ってきた。
 どうしたの?
 ……ああ、窓のカギがかかっているかチェックしにきたのね。
 すっかり習慣になっちゃって。
 ううん! 戸締まりに気を付けるのは……いいことだと思う。うん、いいことよね。
 だけど、私はちょっぴりフクザツな気分。
 「よし。じゃ、行ってきます!」
 陽太は今度こそ出かけていった。
 部屋のドアも、きちんと閉めて、ね。

                         <4話に続く>

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