ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第3章2話

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第3章 とおせんぼ

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2話

「お、おはよう」
 朝の挨拶は大事だよね。ぼくは自分に言い聞かせながら、笑いかけた。
「……おはよう……」
 芽雨さんは不思議そうにぼくを見て「なんで今日はこっちの道なの?」って聞いてきた。
「ちょっと色々あって」
 そう誤魔化しながら、ぼくはせかせかと学校へ歩き出す。
 芽雨さんも同じ歩調でついてきた。
 ……一緒に登校することになっちゃったな。
 芽雨さん、今日も機嫌が悪いのかなぁ。また何かチクチクとイヤミっぽいことを言われたりするのかも。朝から、そういうのはいやだなぁ。
 そんなことを考えていたら、芽雨さんが追及してきた。
「『ちょっと色々』ってなによ?」って。
「別に、たいしたことじゃないから」
「たいしたことないなら言えるでしょ?」
 どうしても理由が知りたいって顏してる。
 彼女はいつもこうなんだよね。どんなことでもハッキリさせないと気が済まないタイプ。
 例えば、鬼ごっこをするか、ドッジボールをするかで意見が分かれた時、誰かが「どっちでもいい」って答えると、「どっちかはっきりしなさいよ」って怒るんだ。
 芽雨さんにとって世界は『花丸』と『バッテン』の、ふたつにひとつにきっぱり分かれてるんじゃないかって思えてしまうくらい。
 だってそれが原因で、よく他の子たちともケンカになるんだ。そうなると、だいたいぼくが間に立って「まあまあ」って仲裁する。あれ、結構、大変なんだよね……。
 心の中でため息をついていたら、なおも芽雨さんは尋ねてきた。
「ねぇ、別の通学路で登校しちゃいけないんだよ」
「……わかってるよ、そんなこと」
「じゃあ、どうして? 先生に言いつけられたくなかったら、理由を教えなさいよ」
 ……それはいやだな。ぼくは渋々と口を開いた。
「……いつもの道が、通れなかったから」
「え、工事か何かで?」
「う、うん」
 とっさにウソをついちゃった。
 でも「ウソだ」って芽雨さんはすぐに見抜く。いつもこう。ぼくのつくウソはなんでか、みんなにすぐウソだってわかってしまうみたい。
 なんでだろ?
「ねぇ、本当のこと言いなさいよ」
 もういいや。言えばいいんでしょ、言えば。
「通せんぼされたんだ」
「ええ!? なにそれ、誰に? 不審者!? だったら、先生に言わないと!」
「えっ!」
 あんまり芽雨さんが驚くから、ぼくもつられてびっくりしちゃった。
「そ、そんなんじゃないよ! 変な人じゃなくて……その……」
「なによ?」
「…………猫だから。不審者とかじゃないから」
「…………は? え、どういうこと?」
「だから……大きな猫に通せんぼされたんだ」
「…………」
 芽雨さんは、目をぱちくりさせてから、「……ばっかみたい」ってクスクス笑い出した。
 ううぅ。
 でも、ぼくだって負けないからな。
「芽雨さんだってあの猫を見たら絶対に怖いって思うよ。カーッ!……て牙むきだして、飛びかかられそうになったんだから!」
「えー、でも、猫でしょ?」
「ただの猫じゃないよ、すっっっごく大きな猫! これっくらい大きいやつ!」
 あのチョビとかマンマルとかいう猫の大きさを両手で描いてみせた。
 それでも芽雨さんにはちっとも迫力が伝わらないみたいで、「変なの。猫、飼ってるのに、他の猫は怖いの?」って笑われちゃった。
 あの野良猫は、ぼくの可愛いミャオンとは大違いなんだってば。
「うちのミャオンの何倍も大きい野良猫だったんだってば。あれはもう猛獣だね、うん。トラとかライオンレベルだった」
「あっはははは! そんな野良猫がいるわけないじゃない!」
「それがいるんだってば! 実物見ればわかるよ」
「へぇ〜、じゃあ、今度紹介してよ」
 ぼくたちがやいのやいのと言い合いしていたら、「あれ〜?」って聞き慣れた声が割りこんできた。声の主は、同じクラスの子。通学路が合流する交差点。そこに旗振り当番のおばさんと――噂好きの女子と、お調子者の男子たちが信号待ちしてた。
「今日は二人で登校?」
「仲いいね〜!」
 おはようの挨拶もしないで、みんなは早速ぼくたちをからかってきた。
「やっぱりねー、前から怪しいと思ってたんだ〜」
「いつも一緒に遊んでるもんね」
「い、いつもじゃないわよ」
 芽雨さんが真っ赤になって反論してる。
 そうだよ。いつもじゃない。最近はあんまり遊んでいないし。一緒に遊ぶことが多かったのは、ぼくのママと芽雨さんのママが仲良しだからってだけだし。
 だけどみんなすっかりからかいモードに入っちゃってる。こうなると手がつけられなくなるんだよね。さっきの芽雨さんと同じ。何を言ってもムダで、それどころか話をどんどん大きくしていくんだ。
「でも、一緒に登校してきてるじゃない」
「ねー」
「ただの偶然だってば!」
「テレるなって、わかってるから」
 ほらね、相変わらず話を聞いてくれないでしょ。
 ああ、今日は朝からついてないな。ママには夕方怒られることになってるし、夕ご飯はぼくの嫌いなサラダの完食命令が出る。その上、通学路では巨大猫に襲われそうになるし、芽雨さんはそのことを信じてくれずに、笑われて。
「本当に、なんでもないの!」
「またまた〜」
 あれれ。さっきまでぼくをからかっていた芽雨さんが、今度はからかわれる側になっちゃってる。
「なぁ、大林ぃ、内藤とつきあってるんだろ〜?」
 お調子者男子が、ぼくの肩にドンって腕を回してきた。重いよ。
 こんなことされると、さすがのぼくもイラッとしてきちゃう。
「つきあってない!」
 ぼくがきっぱり言ったら、一瞬、シンとした。
 それと同じタイミングで信号が赤から青に変わって、『とおりゃんせ』のメロディが流れ出した。
旗振りのおばさんが「はい、いってらっしゃ〜い」って、ぼくたちをうながしてくる。
 ぼくはホッとしながら横断歩道を渡りはじめた。
 これで話題が変わればいいな……って思ったけど、そう簡単にはいかなくて。
 芽雨さんがぼくと並んで歩きながら聞いてきたんだ。
「なによ、じゃあ、誰か好きな子でもいるの?」って。
 好きな子?
「いるよ!」
 頭に真っ先に浮かぶのは、もちろん決まってるじゃない。
「えー! 誰だよ?」「だれだれ?」「知りたーい!」
 ぼくたちの会話に他の子たちがまた割りこんできて、はやし立ててくる。
 だから、ぼくはハッキリ言ってやったんだ。
「うちのミャオンだよ!」って。

                        <3話に続く>

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