ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第4章4話

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第4章 とおりゃんせ

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4話

 陽太が慌ただしく出かけていくのを見送ったら、今度は入れ違いにグレースが庭に駆け込んできた。
「ミャオン、大変だ、ミャオーン!」って。
「な、なになに?」
 びっくりして窓辺へ行くと、グレースが息を切らせながら言ったの。
「あれからまたずっとゴンのあとをつけてみたんだけどさ!」
「え、えええ!? ずっと!?」
「ああ! 大変だったんだぜ、見つからないようにするの! スリル満点でさ! すんげー楽しかった!」
 グレースったら、目をキラッキラに輝かせちゃって、ものすごく得意げに胸を張ってる。
「あいつ、行動範囲、めっちゃ広いのなー! おいら、途中で迷子になるかと思ったぞ!」
「それで、それで?」
 ゴンがどうして陽太にケンカを売ろうなんて考えたのか、わかったの!?
 グレースはおヒゲをピクピクさせながら、窓の外でお座りする。
「それでさ、何度か見つかりそうになったんだけど、そこはホラ、おいらの素早さでササッとかわしてやったんだぜ。ある時は電柱の一部に、ある時は木の一部、またある時は車の下に……」
「車の下!? あぶない!」
 あの大きな大きな車の下に入ったら、それこそ無事じゃいられないじゃない!
 だけどグレースはケロッとした顔で「大丈夫だよ。人間が乗ってない車は動かないから」って言った。
「え……そうなの?」
「ああ! 覚えておくといいぞ! 動かない車は怖くないんだ。屋根とか、ひなたぼっこには最高なんだぜ〜」
「へぇ〜」
「ただし、夏の間はダメだ。熱すぎてヤケドしちまう。夏は車の下がベストだな!」
「……ふぅん」
 知らなかったわ。
 私、まだまだお外のこと、よくわかってないみたいね。もっとベンキョウしなくっちゃ。
「まあ、そんなおいらの活躍はまた今度聞かせてやるとして……聞いて驚け!」
「?」
「ゴンのやつ、またお前ん家の飼い主にケンカを売る気らしいぜ!」
「!!!!!!」
「しかも、今度は人間に変身して、だぜ!」
「え、え、え!? ということは……」
 グレースは大きく頷いて「あいつも『カミカミ』を食ったんだ!」って言った。
 !!!!!!!!!!!!!
 大変! 陽太が危ない!
「どうしてそれを早く教えてくれないの!?」
 陽太は何も知らないで、買い物に行っちゃったじゃない!
 ゴンはこの辺りのボス猫。つまり、コウゲキリョク(この使い方であってるかしら? 陽太がやってるゲームとかでよく聞く言葉だけども)はトップクラスよ!
 猫から人間に変わったって、きっとコウゲキリョクは同じ……ううん、身体が大きくなったぶん、余計に強くなってるかもしれない!
 そんなゴンにケンカを売られたら、私の優しい陽太は――どうなっちゃうの!?
 想像しかけて、モタモタしている場合じゃないってことに気が付いた。
「と……止めなきゃ!」
「ああ、そうだな!…………って、どうやって!?」
 どうやって? そんなの――そんなの……。

 どうやって?

 私、フリーズしちゃった。……ええと、グレースにゴンを止めてもらう?
 私の視線の意味に気が付いたらしいグレースは、みるみる耳を伏せて「お、おいらにゴンは止められないぞ! 絶対ムリ。無理ムリむり!」って後ずさってく。
 う、うん、そうよね。私もすぐに考えを改めた。
 だけど、じっとしてもいられない。
「……とにかく、外に出ないと! ケンカはダメ。絶対にダメ!」
 私の大事な陽太をかじったりしたら、相手がたとえゴンだろうと許さない!
 でも、部屋の窓は閉まってる。陽太が念を入れて確認していったから。
 だから、やっぱりあそこしかない。
 ドア! あのドアさえ開けば!!
 私は陽太が締めていったドアに駆け寄る。
 レバーの真下から3歩下がったところ。ここを踏み切りの位置にすると、レバーに届くってことが、さっきまでの挑戦でわかったこと。
 ジャンプする時の力加減もつかめてきてる。
 きっと、あともう少しなの。レバーに届けば、あとは簡単。
 しがみつくだけ。
 そうすれば、きっとドアは開く。
 よし、いくわよ。
 深呼吸して――ジャンプ!
 ほら、届いた!
 だけど、つるんって手が滑っちゃって、落下。
 あのレバー、ツルツル滑るのよね。
 でも、諦めない! もう一度!
 ジャンプ!
 ……ジャンプ!
 こ、今度こそ――ジャンプ!!
 ――ダメ、両手は届いたけど、どうしても滑っちゃう。
 モタモタしている間に、陽太はゴンに噛まれたり、引っかかれたりしてるかもしれないのに!
 ……陽太が痛い目にあってるかもしれないのに。
 そう考えたら、じわっとイヤな汗がにじんできた。
 ダメダメ、考えている場合じゃない。
「せーの……せーで……」
 ジャーンプ!!
 届いた!
 ツルツル滑りそうになったけど、汗をかいたせいでしっかりレバーに捕まることができた。
 つかんだレバーを放すまいと、必死にしがみつく。
 そして、そして――。

 がっちゃん!

 やったわ! ようやく……ようやくレバーが下がって、ドアが開いてくれた!
「おおお、ミャオン、やるー!」
 窓の外、庭からグレースが歓声をあげてる。
 だけど喜んでばかりもいられない。問題はここから。
 開いている窓を探さないと!
「待ってて、陽太!」
 私は祈りながら、ドアの隙間から部屋の外へ躍り出た。

 家の中を走り回る。普段は陽太の部屋で過ごしているけど、陽太や、ママさん、パパさんがいる時に、家中を探検済みだから、どこに窓があるかはだいたいわかってる。
 まずは一階の部屋をチェック。
 掃き出しの大きな窓は――どこも閉まってた。
 じゃあ、出窓は? 私が飛び乗った拍子に、飾ってあった小さな植木鉢が倒れちゃった。
 ごめんね! 今はキンキュウジタイなの。許して!
 閉まっているドアがあれば、そのたびにレバーに飛びついて、中を確認。
 さっきまであんなに手こずっていたドアが、今では簡単に開けられるようになっちゃった。
 私ってば、コツをつかんだみたい。うふふ。
 あー、でも、一階の出窓もカギは全部きっちりかかってる。ストッパーもね。
 それなら……今度は二階よ! 二階の窓から、屋根伝いに降りていけば何とかなるよね? うん、きっと大丈夫!
 私は階段を駆け登って、キッチンとかリビングとか、思いつくかぎりを走り回って、抜け出せそうな場所を探す。
 かちゃん! どさっ! ごとん!
 私が通りすぎると、何か落ちたり倒れたりする音が聞こえてくるけど、そんなことに構ってる場合じゃない。陽太がピンチなんだから!
 引き戸になっているところは、ちょっと手こずっちゃうけど、この前のスノウさんの真似をして、手でカシカシカシカシって引っかいて、なんとかこじ開ける。
 でも……。
 でも!!
 どうしよう――どこもかしこも防犯対策ばっちりだった!
 これならドロボウさんだって入ってこられないわ。お留守でも安心ね。
 ――なんて、感心してる場合じゃな〜〜いっ!
 こうしてる間にも、陽太に危険が迫っているっていうのに!
 私、私……どうすればいいの!?
 途方に暮れて、私は大きく鳴いた。
「みゃおーーん」って。

                         <5話に続く>

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