ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第3章4話
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第3章 とおせんぼ
4話
友達の家へ遊びに行く時に使う細い路地。そこは車が通るほどの幅はないけど、まっすぐ行くと広い道に出られる安全で便利な道だから、近所の人も結構使うんだよね。で、『不可思議……』なんちゃらってお店はその真ん中あたりにあったはず。
ぼくはその路地を目指して通学路を歩いていた。お財布をしっかり握りしめて。
だけど――道の真ん中で手を広げて立つ女の子がいて、思わず立ち止まってしまった。
大人っぽい雰囲気だけど、ぼくと歳はあまり違わないように見える。……ううん、ちょっと年上かもしれない。腰辺りまである長い髪がサラサラと風にゆれてる。
「……」
でも、あの子、何やってるんだろ? この辺では見かけない顏だ。
最近、引っ越してきたとか?(前にも似たようなこと思ったっけ。ミャオンを一緒に探してくれた、あのやたら猫に好かれる男の子!)
だって、こんな子がいたら、絶対に目立ってるはずだもの。整った顔立ちに、すらっと長い手足。クラスの女子とは大違いだ(他の男子が見たってそう思うはず!)
まるでファッションモデルっていうか、女優さんみたいな感じ。『美少女』って、こんな子のことをいうんじゃないかな。
それにしても。美少女だけど、格好がおかしい。
何で道のど真ん中で、大の字で立ちはだかってるんだろう?
すると……。
「おい、お前!」
「!?」
その子が突然、こっちを見て声を張り上げた。
『お前』って、誰のこと? きょろきょろ辺りを見回す。
……ぼくしかいない。
え?
「ぼ、ぼく?」
「そうだ! お前、どういうつもりだ!?」
「……ええと?」
な、なんだろ?
「どういうつもりだって聞いてるんだ!」
なんだかよくわからないけど、話しかけられているみたいだから、返事はしておいたほうがいいよね?
「ぼくは買い物にいくところだけど?」
「……そんなこと聞いてんじゃねぇよ!!」
そう言いながら、美少女は大の字に広げていた腕を振り下ろすと地面をガンって踏みつけた。
こ、こわっ!
そもそもなんでこの子、こんなしゃべりかたなの? まるで男子じゃないか。それも、不良っぽい。こんなに美人さんで、声も可愛いのに、もったいないなぁ。
「いいか! 俺はお前に言いたいことがある!」
「は、はい?」
ビシッと指を差されて、思わず姿勢を正しちゃった。
ていうか、自分のこと『俺』っていうなんて、ますます男っぽい。
「やっていいことと悪いことがあるだろう!」
「……は、はぁ」
話が全然見えてこない。
もしかしてこの子、別の人とぼくを勘違いしてるんじゃない?
「お前はやっちゃいけないことをやってるんだ! そのことをまず自覚しろ!」
「……」
そんなこと言われても、意味が分からないし。身に覚えもないし。
やっぱり何か誤解してる。うん、そうに違いない。
ぼくは意を決して、彼女に言ってやった。
「あのさ、人違いなんじゃない?」
「あぁ?」
くいっと首を傾げるその子のしぐさは、本当に……その、テレビドラマとかで見る不良みたいで。
ぼくは少し圧倒されながらも、がんばって続けた。
「だから、君が用事があるのは、ぼくじゃなくて他の人なんじゃないのって言ってるんだよ」
「……なんだと?」
ギラリ!
彼女はそんな感じの音が聞こえてくるような視線でぼくを睨みつけてきた。
そして、肩を大きくゆらしながらぼくに近付いてくる。
サラサラの長い髪も、一緒になびいてる。
「しらばっくれるのか!」
「し、しらばっくれてない!」
負けじと声を張り上げてみたけど、少し裏返っちゃった。
だって、この子の迫力といったら!
美少女で、男口調で、不良っぽいしぐさで……こんな風に凄まれたら、誰だってびっくりしちゃうと思うんだ。
「それより君、どうしてそんなしゃべりかたなの? まるで男の子みたいじゃないか」
「あ?………………あ、ああ…………そ、そうか。そうだな。そうだった……うん」
ぼくの精いっぱいのツッコミに、その子は意外な反応をした。
なんだかぶつぶつ独り言をいってる。
可愛いのに、なんか変な感じの子だなぁ。
「俺……、あ、あたしは!」
真っ赤な顔をして、自分のことを『あたし』って言い直してる。面白いの。
「お前……あんたに、言いたいことがある……の!」
たどたどしいしゃべり方。ぼくのツッコミを気にして、がんばって直してるって感じ。
「あれ? 大林くん」
不意に背後から声をかけられて、ぼくは飛び上がって驚いた。
振りかえれば、膨らんだ買い物袋を持って、芽雨さんがぼくたちに歩み寄ってくるところだった。お使いの帰りかな?
「なにやってんの?」
そう言ってから、芽雨さんはぼくの目の前の美少女に初めて気が付いたみたい。
「――!」
目を大きく見開いてその子をマジマジと見て、それからパチパチとまばたきしてから、「……知ってる子?」ってぼくに小声で聞いてきた。「ううん」ぼくも合わせて小さな声で答える。
すると、美少女は芽雨さんにもビシッと指を差して、「邪魔すんじゃね……じゃない、邪魔しないで!」って怒鳴ったんだ。
「……え、え?」
芽雨さんはぼくと美少女を二度三度と交互に見て――ただごとじゃない雰囲気だってわかってくれたみたい。
「なによ……そういうこと?」
一気にムスッと不機嫌な表情になった。
「え、そういうことって、どういうこと?」
芽雨さんにはこの状況がどういうことなのか分かるの?
「こら、よそみすんな! 今は俺……じゃない、あたしと話してん……話してるんでしょ!?」
ぐいっと肩をつかまれて、ぼくは美少女と向きあう形になった。
「!?」
「いいか……あ、あたしがいいたいのは、寂しい思いをさせてるんじゃないわよってこと!」
「……え、ええと?」
寂しい思いって、誰が?
救いを求めて芽雨さんを見たら「やっぱりね」って、ジローリと縫い針みたいにチクチクした目でぼくを睨んできていた。
「え、どういうこと?」
また! 芽雨さんには美少女の言ってることがやっぱり分かるんだ!?
「ウソつき」
芽雨さんはぽつりと言った。
「え?」
「何が『好きな子はミャオン』よ、誤魔化しちゃって。ちゃんといるんじゃない、彼女が」
……はい?
ええと――どういうこと?
こんなところにクーラーなんてありましたっけ……というくらい、ヒンヤリとした声で芽雨さんは言った。
「この子なんでしょ? 大林くんの本命って」
「?????!!!!!」
やっと、意味が分かったぞ!
芽雨さん、勘違いしてる! 思いっきり、力いっぱい、120%誤解してる!!!
ああ、どうしてこうなっちゃったの!? 誰か助けて!
<5話に続く>
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