ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第4章2話
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第4章 とおりゃんせ
2話
みんにゃ、一斉にボス猫ゴンに注目! スノウさんはひとり、朝からほどよく陽が当たる芝生に陣取って、大あくびしてるけど。
ていうか、なんで、ゴンがここに来るの!? なんで私の家を知ってるの!?
ゴンは周りの視線なんか、全然気にしていないみたい。それどころか、まっすぐに私を目指して歩いてくる。
――窓ガラスがあるから、噛まれたり引っかかれたりはしないと思うけど、でも、ガラスを透しても、迫力が伝わってくる。
こ、こわいよぉぉ!
ゴンは私の前までやってきて、ピタリと立ち止まった。そしてじーっと私をにらんでくる。
うう……。
誰? 家の中は安全だって言ったのは。家にいても、怖いことあるじゃない!
「…………」
「…………」
ゴンは無言。遊びに来てくれてるみんにゃも、誰も何も言わない。ただ息を呑んで私たちを見守ってる(スノウさんは居眠りしてるけど!)
いつの間にかどこかへ行っちゃった子もいるわね(逃げたのかも!)
「あ、あの……な、なにか……?」
沈黙に耐えきれず、私はそっと聞いてみた。
すると、ゴンは大きな声で言ったの。
「ミャオン、お前を助けてやる」って。
――え?
思いもかけない言葉に、私は目をぱちくり。
それって――どういうこと?
「あ、あの」
「全部、俺に任せておけ!」
「!」
ゴンはそう言うと、ひとり納得したみたいにうなずいて、それから風のようにビュンって走っていっちゃった。
そしたら、グレースが目をキラキラ輝かせながら、「おいら、様子を見てくる!」って言い出したの。
「ちょっと、グレース!」
クロエさんが呼び止めても、その時にはもうグレースの姿はなくて。
私と、庭にいたみんにゃはただただそれを見てただけ。
呆然と。
「……まぁ、なんだな」
沈黙を破ったのは、スノウさんだった。居眠りしてたんじゃなかったの?
「グレースが戻るのを待てばいいさ」
「……そうね。仕方がない子」
クロエさんもため息交じりにうなずいてる。
他のみんにゃも、それがいいって顏。
「――でも、でも」
ゴンは何をしようっていうの? 私のことを助けてやるって、どういう意味?
考えてもわからないけど、どうしても考えちゃう!
「それにしても、ゴンのやつがねぇ」「意外っていうか……」「面白いことになってきたなぁ」
集まってたみんにゃが、何かボソボソ話してる。
「え、なに? なんなの?」
「なんでもない」「なんでもないから」「気にすんなって」
「気になるよー!」
なんなの? もう、ゴンが来てから、私の頭の中は「?」マークでいっぱいになっちゃってるのに!
「それにしても、ミャオンはすごいわね」
キジトラさんがしみじみと私を見ていう。
「私が『すごい』?」
「そうよ、だって『店』の試作品を迷わず食べたでしょう?」
「――シサクヒン?」
……て、何?
でも、『お店』で買ったのは『カミカミ』だけよ。
すると、キジトラさんはうなずいて、
「あの『店』の試作品は、たいていどこかに欠陥があるのよね」
「ケッカン?」
難しいことばかり言われても〜!
思わず頭を抱えちゃう。
そしたら、苦笑いしながらクロエさんが言ったの。
「試作品っていうのはね、まだ試験段階の品物ってこと。だから、どこかしらに欠点があるのよね」
「ケッテン……」
「あなた、女の子なのに人間の男の子になっちゃったでしょう?」
「!」
うん、うん! そうだった!
私、男の子になっちゃってた!
「そういうことよ」
「え、じゃあ、あれが試作品じゃなかったら、私、ちゃんと人間の女の子になれてたってこと?」
そうそうって、みんにゃがうなずいてる。
「えええええ――!?」
ショック! 大ショック!
女の子がよかった!
「『カミカミ』は試作品だったから、お店に並んではいたけれど、買おうって客はいなかったの」
キジトラさんは言う。
「人間になれるなんてすごいけど、必ず欠陥があるものだし、何が起こるかわからないし……」
「え、え、え」
「それを迷わず買って食べちゃうんだもんなー。たいしたもんだ」って言うのは茶トラさん。
「あの『カミカミ』を試した子がいるっていうから、来てみたら――こんな可愛い子で、びっくりしたさ」って、サバトラさん。
「勇気あるよねー」「すごい、すごい」って、ほかのみんにゃも、心の底から「感心した!」って顔でうなずいてる。
でも、待って、私、私――。
「し、知らなかったんだもの!」
初めてあの『お店』に行ったんだし、試作品のこととかも知らなかったし、グレースだって教えてくれなかった!
まあ、すぐに陽太まで『お店』に来たから、ゆっくりしている余裕なんてなかったんだけど。
「知ってたら、食べなかった?」
クロエさんに聞かれて、私は考え込んだ。
「……どうだろう?」
陽太の役に立ちたいって気持ちには、今も変わりがない。
全然、思うようにできなかったけど。
逆に陽太を心配させちゃったけど。
でも、陽太とおしゃべりできた。私の言葉を伝えることができた。
だから、だから――やっぱり。
「――食べちゃうかも」
私の答えに、みんにゃ「おおー!」ってどよめいてる。
クロエさんはにっこり。
そこへ「見てきたぞー!」ってグレースが戻ってきた!
「どうだった?」
のっそりとスノウさんが尋ねる。
「すごかった! やっぱゴンは強いな!」
「そうか」
……ひとり納得顔で、スノウさんはまた昼寝の態勢に入っちゃう。
「いや、そうじゃなくて! ゴンはなにをしでかしたんだって聞いてるんだ!」
しびれを切らしたように、茶トラさんがグレースに詰め寄る。
「それがさー! ゴンのやつ、ミャオンの飼い主にケンカ売ってたんだぜ!」
「え、……えええええ!?」
「カー!って威嚇しまくってさ!」
大変! 陽太! 陽太がゴンに食べられちゃう!
「そうしたら、どうなった!?」
「ミャオンの飼い主もさすがにビビっちゃって、別の道に逃げてった!」
「おおー!」「ゴン、すげえ」ってみんにゃ感心してるけど、そんな場合じゃないよ!
ゴンはなんで私の陽太にケンカなんて売るの!?
陽太にケガなんかさせたら、私……私、許さないんだから!
「私、お外に出たい!」
でも、窓はカギがしっかりかかってる。
他に出口は――。
出口!
私は陽太がいつも出入りする、家の中の扉に注目した。
ドアのレバー。あれを下にくいっと下げると、扉が開くようになってるのよね。
家の中の扉にはカギはないから――あのレバーを下げることができれば!
「私、外に出る!」
みんにゃにそう宣言すると、私はドアの前へ!
「ミャオン?」
みんにゃが呼んでるけど、もうおしゃべりしてる暇はないの!
私はレバーに向かって背伸びする。
うーん、届かない。
じゃあ……。
数歩下がって……今度はジャンプ!
――失敗。
後ろ足がドアにぶつかっちゃった。
よし、もう一度!
――失敗。
全然届かない。
「もっと思いきり踏みきってみろ!」
窓の外から声をかけてきたのは、茶トラさん。
「う、うん!」
言われた通り、思いきり踏ん張ってからジャンプ!
「あっ」
もう少しでレバーに届きそう!
「その調子!」「いける!」「がんばれ!」
みんにゃが私を励ましてくれる。
私、がんばるよ! 何度だって挑戦して、絶対に外に出る!
そしてゴンから陽太を守るんだ!
だから……私が駆けつけるまで、陽太、どうか無事でいて!
ゴンも陽太になにかしたら、承知しないんだから!
<3話に続く>
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