ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第2章4話
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第2章 猫はトモダチ
4話
ああ――私、本当に人間になっちゃったんだ。それも、なぜか男の子に。 お店の曇りガラスに写る自分を見て、再確認。
『不可思議本舗』で買った『カミカミ』を食べたから。
困っている陽太を助けたい。そう願ったら、この姿になった。
人間になるなんて思いもしなかったけど、この姿なら、私が思っていることを陽太に伝えられるし、陽太のお手伝いだってできるかもしれない。
『カミカミ』すごい! それを売ってる『店長』もすごい!
そんなことを考えていたら、陽太が「ミャオン!」って私のことを呼んだ。
はぁいって返事をしかけるけど、ごくんと飲みこむ。
……人間の私が返事をしたらおかしいものね。
「あの……」って声をかけると、陽太は振りかえってくれた。
うーん! 言葉が通じるってステキ!
私が感激していると、陽太はすがるように私に話しかけてきた。
「ねえ、君、ぼくの猫、見なかった? あのお店に入っていくところ、ぼく見たんだ」
「えっ! そうなの?」
「う、うん? 灰色の猫と一緒だった。見てない?」
うそ〜! 全然気が付かなかった! グレースと一緒に居たところ、見られてたなんて!
どうしよう、この場合……何て答えれば……。
私は一生懸命考えて、何とか返事をひねりだした。
「……ご、ごめん。その……見てないんだ。ほら、あのお店、猫がいっぱいいたから、それで」
「ああ……そっか……。行き違いになっちゃったのかなぁ……」
陽太はため息をついて、考え込んじゃった。
ごめん、ごめんね、陽太。
私がミャオンよって言っても、きっと信じないだろうし(私も今の自分が信じられないくらいだし)。それに、もし信じてくれたとしたも、それはそれで――なんだかややこしいことにならない? 私、本当はおんにゃのこなのに、今、男の子になっちゃってるのよ? どうしてって聞かれても答えられない。私こそ聞きたいくらいなんだから。
それに、それに……そうよ!
勝手に家を抜け出したことを、怒られちゃう!
陽太が怒ると本当に怖いの。
陽太に嫌われるのはもっともっと怖い。
「ミャオン……」
ああ……私、陽太にものすごく心配かけてるみたい。どうにかして安心させてあげなくちゃ。
「あの……猫のことなら、心配しなくて大丈夫だと思うよ」
私がそう言ったら、陽太の目つきがサッと変わった。
「ねえ……どうして、そう思うの? ミャオンは、外のこと、何にも知らない子猫なんだ。生まれて初めて外に出ちゃったんだよ。心配するの、当たり前じゃないか!」
陽太、怒ってる。やっぱりすごく怒ってる。ああ、何て言えばいいの?
「……」
「ミャオンにもしものことがあったらぼくのせいだぼくが窓のカギを締め忘れたから全部ぼくのせいなんだ!」
えっ、どうして陽太が自分を責めるの? 言いつけを破ったのは私のほうなのに。
どうしたらいいのかな。こういう時、どうしたら陽太は安心するかな。
――そうだ!
私はモノクロさんたちに教えてもらったことを、陽太にも話すことにした。
「……猫ってさ、そんなに遠くまで行ったりしないんだよ」
「え?」
「何かトラブルに巻きこまれたりしたら別だけど。普通はそんなに遠くまで行ったりしないよ」
「……」
うん。スノウさんはそう言ってた。
それに、私もそうする。だって私たち猫は小さいから。人間みたいに便利な乗り物に乗ることもないし、ちゃんと家がわかるくらいの距離しか動けない……って言ってた。そうじゃないと、帰れなくなっちゃうものね。
私も今日、お外に出るのは初めてだけど、今いる場所から家までの道順ならわかる。グレースの匂いが残っているしね。でも、これ以上遠くに行ったら――帰れるかちょっと自信ない。
「ミャオン……! 早く探さないと! ……ぼく、急いでるから、またね」
陽太はまだ私を探すつもりみたい。
私はここにいるのに。
もしかして、陽太は私が見つかるまで探し続けるんじゃないの?
もうすぐ日が暮れちゃうのに。
私、陽太に心配をかけるつもりはなかったの。むしろその逆で、いつもの陽太の困りごとを解決してあげたいって思って、それで――こうなっちゃった。
それなら……。
「その……猫を探すなら、手伝うよ!」
私は陽太にそう持ちかけた。
「一緒に探す。心配なんでしょう?」
「う、うん。でも……いいの?」
「うん」
もちろんよ! 私は陽太に笑いかけた。
「ミャオ〜ン! ミャオン!」
陽太と一緒に『私』を探す。
……へんなの。
でも、こうやって陽太と町を歩くのって楽しいな。陽太と一緒なら、知らないところだってへっちゃら。迷子になることもないよね。
でも、自分で自分を探すのはやっぱり変な感じ。
私は陽太の後ろを、『私』を探す振りをしながらついていった。
「公園に行ってみよう」
「公園? そんなのがあるの?」
「あれ? 知らないの?」
「うん……」
『公園』っていうものがどういうところかは知ってるよ。この前、テレビでやってたもの! きれいな並木道があったり、池とか噴水があったり、楽しそうな遊び場や、大きなトイレがあって、人間や猫の集会所になっているところでしょ? 一度行ってみたいって思っていたのよね。
きっと一生無理だろうって諦めていたのに、陽太と一緒に行けるなんて、夢みたい!
そしたら陽太が意外な質問をしてきたの。「いいの?」って。
「なにが?」
「ミャオンを探すの、手伝ってくれてるけど、いいのかなって」
なぁんだ、そんなこと。
「いいに決まってるよ」
どうしてそんな当たり前のことを聞くの?
「ミャオンはぼくの猫で、君の猫じゃないよね?」
「……うん」
でも、ミャオンは私だよ。
「君、この辺のこと、詳しくないんでしょ? なのに、一緒にこんなところまで探してもらっちゃっていいの?」
「いいよ」
だって、私のせいだもの。
「でも、家に帰れるの?」
「ミャオン?」
「ううん、君が」
「……?」
帰れるよ。陽太と一緒にいれば。だって、陽太はこの辺りのこと、詳しいんだよね?
……まあ、私も大体の家の場所はわかるつもりだし。確か、家は……うん、あっちのほう。
近くから、ざわわって遠くから風に揺れる木々の音が聞こえてきた。
緑の匂い。花の匂い。
ちょっと背伸びして先を見ると――やっぱり! 私は公園を見つけた。
「あ、公園ってあそこ?」
「うん」
「行ってみよ!」
私は陽太と一緒に、公園に向かって走り出した。
<5話に続く>
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