ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第6章1話

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第6章 こころがクサクサ!

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1話

「カミカミ」を食べて人間になった私が、スノウさんと一緒に陽太のもとへ駆けつけると――。
 そこには陽太と可愛い女の子、それと美少女の姿になったゴンが睨みあっているから、本当にびっくりしちゃった!
 でもね、ゴンは私たちに気が付いた途端、ものすごく慌てた様子で逃げてしまったの。スノウさんは「あとは任せた」って言って、そのままゴンを追いかけていっちゃうし、陽太と一緒にいた可愛い女の子(ウワサの芽雨さんだった!)は「アイスが溶けちゃう」って言って、これまた走って帰っていって……。
 その場に取り残されたのは、私と陽太の二人だけになった。
 陽太は何が何だかわけがわからないっていう顔をしている。
 うん。その気持ちはわかるわ。私もゴンが逃げちゃうとは思わなかったし……というか、あんな美少女に変身してるなんて、一体どういうこと!?
 まぁ……猫の時のゴンは……うん、見た目がゴージャスだってことは認めるわ。外国の猫の血を継いでいるのかつやつやのロングヘアだし、男の子なのに毛色は三色だし(すごく珍しいってテレビでやってたから知ってるわ)。……私はどうなんだろう? 男の子になっちゃったけど、どんな見た目なんだろう? 美少年かな? あとで確認してみないとね。
 ……あっと、いけない。陽太! 陽太が困ってるみたい。とりあえず、声をかけてみようかな。
「「ええと」」
 わっ? 陽太とハモっちゃった。
「「あの」」
 あ、また!
 あははっ、おもしろーい!
 毎日一緒に同じ時間を過ごしていたりすると、こういうことがあるらしいわね。ママさんとパパさんもよくやってるもの。
 それだけ私と陽太も仲良しってことよね。うれしいな。
 私が密かに喜んでいたら、陽太が突然「ねえ、君の名前、教えてよ」って言い出すから、びっくりしちゃった。
「えっ!? な、名前!?」
「うん。ぼくは、大林陽太。大きな林に、太陽って漢字をひっくりかえして『ひなた』って読むんだ。六合小(りくごうしょう)の5年。君は?」
 ちょ、ちょっと待って、陽太!
 私の名前はミャオンに決まってるじゃない。
 あっ! でも今の私は猫じゃないわ、人間よ。しかも、男の子! だから 人間の男の子っぽい名前がいいわよね?
 でも、急に聞かれたって、思いつくわけがないわ!
 かといって答えないのも変よね?
 ああ、陽太が私の答えを待ってる。早くしないと。ええと、ええと、ええと――とにかく、適当に答えちゃえ!
「ええと、名前は……『ミヤオ』……」
 だから、だめだってば! それだと猫のミャオンだって言ってるのと同じ――。
「『宮尾』? 宮殿の『宮』にしっぽの『尾』?」
 えっ。宮殿? しっぽ? それが何か関係あるの?
 よく分からないけど、頷いておこうかな?
「う? うん、そう、それ」
 そうしたら、陽太は納得しちゃったみたい。え、それでいいの?
 私がオロオロしていると、今度は「学校はどこ?」なんて聞かれちゃった!
「それは――」
 ガッコウなんて行ってない! だって私、猫よ!? あったら行きたいくらいなのに!
 でも、思っていることをそのまま言ったら、きっと私、変な子って思われるよね。
 私が困っていたら「ごめん、ムリに教えてくれなくていいよ」って、陽太は言ってくれた。
 よかったぁ。陽太、優しいな。
「でも、この近所に住んでるんだよね?」
「う、うん」
 ここは素直に頷いておいていいわよね。
「そっか!」
 陽太はものすごくうれしそうに笑ってくれた。
「ぼく、これから買い物に行くところなんだ」
 ようやく陽太の質問タイムは終わったみたい。私もホッとして笑い返す。
「ほら、君と会った『不可思議なんとか』ってお店」
「あの『お店』?」
 へぇ〜。そういう名前のお店だったの?
「うん。よかったら一緒に行かない? あの店長さん、ちょっと苦手で」
「ああ、わかるよ。ちょっと怖い感じだったよね」
「やっぱりそう思った!?」
「思った!」
 私たちは二人並んで、『お店』に向かって歩き出した。
 そもそも私は陽太をゴンの魔の手から助け出すために駆けつけたわけで――でも、ゴンが逃げちゃったから、その必要はなくなったのよね。とはいっても、いつゴンが戻ってくるかわからないし、もう少し、一緒にいたほうがいいと思うの。
 それに、今日みたいに慌てないよう、あらかじめ「カミカミ」を買っておきたいし!
 ちゃんとそのための『オダイキン』も持ってきているのよ。
 食べずに我慢して取っておいたおやつを!
 ポケットにそっと手を入れて、マタタビ入りのスナックがあるか、確かめる。
 うん、ちゃんとあるわ。つぶれたりしてない。大丈夫。
「このお店の名前、なんていうか知ってる?」
「え?」
 お店にたどり着くなり、陽太はまた私に質問してきた。
「ほら、看板に『ふかしぎ』なんとかって書いてあるでしょ。後ろの二文字が読めないんだよね」
 ええ〜。さっき自分で『不可思議なんとか』って言ってたじゃない。それがお店の名前じゃないの?
 後ろの二文字って……私は看板を見上げる。
 『本舗』って書いてあるけど、私に読めるわけがないじゃない。
「…………ごめん、わからない。気になるなら、聞いてみたら?」
 私は別に気にならないけどね。
「……宮尾くんが聞いてくれる?」
 え! なんで私が!? 陽太が自分で聞けばいいのに!
「えー! それはちょっと……『お店』ってみんな呼んでるらしいけど……」
「そうなんだ」
 陽太は何だか納得いかない様子で、また看板を見上げてる。
 ねぇ、『お店』で通じるんだから、それでいいじゃない? ダメなの?
 必死にそう心の中で唱えていたら、陽太もとりあえずは納得してくれたみたい。
「じゃあ、入ろうか」って、お店の引き戸に手をかけた。
 ……ああ、そうか、今、私は人間の姿だから、下の出入口は通れないんだったわ。
 いつもの癖で、猫用の戸から潜り込んじゃうところだった。危ない、危ない。ひとり冷や汗をかいていたら、「えいっ!」って陽太が思いっきり引き戸を開け放った。

 バッシーン!!!!

「「わっ!?」」
 そんな乱暴な開け方してどうするの!? みんなびっくり仰天してるじゃない!
 店の中にいた近所の猫さんたちが一斉に逃げ惑ってる。
 ほら、さすがの店長さんも驚いた顏してる。私も尻尾があったら、ボンッてなっているところだわ。
「……ご、ごめんなさい! あの、この前、すごく扉が硬かったから、今日もそうなんじゃないかって思って……」
 え、人間用の戸は硬かったの? 猫用の戸はとっても軽かったのに。もしかして人間のお客さんは、あまり店には来ないってことかしら?
「なに、今度から気を付けてくれればいい」
 店長さんは意外にも怒っていないみたい。よかった。
「こ、こんにちは」
 私たちが挨拶すると、店長さんは「はい、いらっしゃい」って笑ってくれた。
 ……そう、笑ってくれてるのよ! 今日はご機嫌がいいのかもしれない!
 店のあちこちに隠れていった猫さんたちも、少しずつまた顔を出してきた。
 私を見て「あれ? ミャオンだ」「さっきスノウがお使いにきてなかった?」って噂話してるのが聞こえてくる。
 返事したいところだけど、猫と話せるなんてことを陽太に知られたら、きっと驚くよね?
 だから、ここは人間のフリ。聞こえないフリ!
 店長さんを見ると、私を見て小さく頷いてくれた。
 ……これって「わかってる」ってことよね? 私を人間として扱ってくれるんだわ。
 話が早くて助かる!
 陽太は店長さんに、あの美味しいおやつが入っていた紙袋を見せて、「また買いにきました」って言ってる。
 うれしい! またあの美味しいクッキーが食べられるのね!
「ああ、『十人十色』のことかい。味はどうだった? おいしかったかい?」
「はい! とっても!」
 私は元気にお返事!
「それはよかったね。うちの人気商品だから、まあ当然だけれど」
 人気商品! そうだったのね。でも、わかるわ。とっても、とーっても美味しかったもの!
「うちのミャオンも、喜んで食べてました!」
「そうかい、そうかい」
 店長さんもうれしそう。
 陽太は店長さんからクッキーを買うと、カードをもらってた。『ぽいんとかーど』だって。
「お買い上げ1回につき1ぽいんと。5ぽいんと貯まるごとにくじ引きできて、商品と交換できるんだ。面白いだろう? 前回の分と、今回の分。2ぽいんと、つけてあるからね。また来ておくれ」
「はい! ありがとうございます!」
 あっ、そうだ。私もお買い物しないと!
 私は陽太がお財布にカードをしまっている間に、店長さんに「『カミカミ』ください」って小声で言って、『オダイキン』を差し出した。
 すると店長さん、目にも留まらぬ早さで『オダイキン』と『カミカミ』、そして私にも『ぽいんとかーど』をくれた。
 私もサッと受け取って、涼しい顔でポケットにしまいこむ。
 ……チラッと陽太を見ると、私と店長さんのやりとりには全然気が付いていないみたいだった。
 私はこっそり息をついて、陽太と一緒に店を出た。
 陽太もなんだかホッとしているみたい。引き戸をそっと閉めたあと、私を振りかえって、「よかったね! 店長さん、怒ってなかったじゃない?」って笑いかけてきた。
「うんうん! 思いきり戸を開けちゃったから、絶対怒られると思った!」
「あはは!」
 陽太ったら、そっちのほう心配してたの?
 まぁ、確かに、あの乱暴な開け方は怒られてもおかしくなかったものね。
 そしたら、陽太かいきなり話題を変えてきてびっくりしちゃった。
「君にも報告してなかったね。ミャオン、見つかったよ。あの時は一緒に探してくれてありがとう!」
 そ、そうか。今の私は、人間。『宮尾』よ、『宮尾』。
「見つかってよかったね」
 慌てて笑い返す。
 いけない、いけない。今の自分が人間の姿をしてるってこと、忘れそうになるわ。
 陽太と一緒にいるせいかしら。いつもと同じ調子になっちゃう。
 『カミカミ』を食べている間は、『宮尾』になりきらないと。
 私が自分に言い聞かせていると、陽太がまた突然、意外なことを言ってきた。
「……ねえ、今度ぼくの家に遊びにこない?」
「えっ?」
 今、なんて?
「ほ、ほら! ミャオンを一緒に探してくれたお礼をしたいし、うちのミャオンにも会ってもらいたいし! 今日すぐにとかじゃなくて、今度でいいから! その……だめ、かな?」
 陽太はなんだかモジモジしながら、一生懸命、私を誘ってくれてる。
 それを見て、私まで胸がドキドキしてきた。
 だって……だって!
 「家に遊びに来て」ってことは――私を、『宮尾』のことを、トモダチって思ってくれてるってことよね?
 ううん、待って! 落ち着いて、ミャオン!
 まだ『宮尾(私)』と陽太は、二回しか会ったことがないのよ。
 だから、まだトモダチにはなってないかもしれない。だけど、少なくとも陽太は『宮尾(私)』とトモダチになりたいって思ってくれてるってことなんじゃないの?
 そうじゃなくちゃ、誘ったりしないもんね!?
 私は飛び上がって喜びそうになりながら「ありがとう!」って答えた。
 陽太もうれしそうにガッツポーズしてる。
 ……どうしよう。すごく、うれしい! 
「約束だよ!」
 私たちは店の前で、笑顔を交わして別れた。

                           <2話へ続く>


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