ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第4章5話

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第4章 とおりゃんせ

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5話

 はぁ……。どうしよう。
 部屋からは脱出できたけど、家の外には出られない。
 これじゃ、陽太を助けにいけないじゃない!
 私は困り果てて、ウロウロしたり、毛繕いしてみたりしたけど、そんなことしてたって何にもならない。
 あ――そうだ!
 グレースに陽太を守ってもらうっていうのは、どうかしら!?
 そうよ、外を自由に歩けるんだもの!
 グレースはまだうちの庭にいるかしら?
 私は転がるように階段を駆け下りて、陽太の部屋へ飛び込んだ。
「グレース、グレース!」
「わわっ? どうした!?」
 自分の家に帰りかけていたのか、グレースは庭の植え込みに向かっているところだった。
「お願い! 私の代わりに、陽太を助けて! ゴンを止め……」
「むりむりむりむりむりだから!」
 グレースは、私のアイデアを最後まで言わせてはくれなかった。
「いや、むり! いくらミャオンの頼みでも、かなえてやりたいのは山々だけど、そればっかりは本当、できない! ごめん!」
「グレース……」
「だ、だって、『カミカミ』食ったゴンだぜ? 普通のゴンってだけでも、すげー怖いのに、人間になっちまってるってことは……!」
 グレースったら、尻尾までボンって膨らんでる。
「お前、あいつの武勇伝、知らないから……! いいか、聞いて驚け! ゴンはな、人間の乗った車と、でっかい犬三匹と、オトナのカラスに勝ったことあるんだぜ!」
「……!」
「……おいらなんか、全然かないっこないよ」
 ゴンって、人間の乗った車と、でっかい犬三匹とオトナのカラスより強いの!?
 どれも最強じゃない! ていうか、ケンカしようとも思わない相手ばっかり!
 つ、つまり、ゴンのあの鋭い目つき、あれは歴戦のユウシャのものってことね。睨まれて身動きできなくなるのも当然だわ。
 ……でも、でも!
「じゃあ、陽太はどうなっちゃうの……?」
 私は泣き出しそうになりながら、ぺしゃんとその場に座り込んだ。
 グレースも、しょんぼりしながら私を見てる。
 ごめんね、グレース。あなたまで困らせるつもりはなかったの。
 「……ゴンは陽太になぜケンカをしかけようなんてするのかな」
 ――今朝、うちに来た時、ゴンは言ってた。『お前を助けてやる』って。
 私を助けるって、どういうこと?
 ゴンは変な勘違いをしてるに決まってる。
 そもそも助けて欲しいだなんて頼んでもいないじゃない。
 だけど、私はお外に出られない。出たくても出られないのよ。
「……ん。……おーん」
「「?」」
 私とグレースは顔を見合わせた。
「誰か呼んでる?」
 私たちは耳をピンと立てて、声の主、その方角を探す。
「……みゃおーん」
「あの声は……兄ちゃんだ!」
「どこ? どこから?」
「探してくる!」
 グレースがあっという間にいなくなる。私もじっとしていられなくて、声の聞こえる方に走っていった。ただし、家の中だけど、ね。

「……ミャオン!」
 あ、ここ! 一階の階段の脇! その壁の向こうから、スノウさんの声が聞こえてくる。
 でも、どうしてこんなところから?
「ミャオン! こっち、こっち!」
 グレースの声も聞こえるわ。
「開いてる窓があるじゃん!」
「え、ええ!?」
 どこに? さっき全部確認したけど、そんなところなかった!
 私は壁の周りをウロウロ。
 そして――見つけた。
 もう一つのドアを!
 そういえば、この部屋には入ったことなかったな。
 陽太やママさん、パパさんは毎日のように出たり入ったりしてるけど、私は入っちゃダメって言われているところなの。
 ちょっとだけ覗いてみたことがあるけど、とても小さな部屋だったわ。すぐ行き止まりになってて、椅子みたいなのが置いてあって……それで、誰かが入っていって、出てくる時には水が流れる音がする、ナゾの部屋。
 私も無性に『狭いところにギュッて入りた〜い!』って思うことがあるから、人間がこういう部屋を用意する気持ちがよくわかるって思ってたけど――まさか、そこに窓があったなんて!
 私は早速、ドアのレバーに飛びついた。

 が……っちょん!

 やったわ! また一発でドアが開いた!

 なぁんだ、うちにも猫用の窓があるんじゃない!
 私は椅子のやたらとぶ厚い背もたれ(それとも棚?)の上へ移る。いやだ、ここもツルツルしてる。これじゃ踏ん張りがきかないわ。私は足を滑らせながらも、必死に窓枠に飛びついた。
「んしょ!」
 やった! 登れた!
 私の窓にたどり着いたわ!
 隙間から見えるのは、植え込みの木、その葉っぱだけだけど。
「ミャオン! 来たか?」
「はい!」
「そこからなら、出られるんじゃないか?」
「やってみます!」
 私は早速、隙間に手を突っ込む。
 えいえいえいって、引っかいてみたけど、窓はびくともしなかった。
 よく見ると――丈夫そうな金具がレールにはまっていた。他の窓のとは違うカタチだけど、きっとこれもストッパーね。
 でも、このカタチなら掘れば外れるかもしれない。
 私は一生懸命、ストッパーを掘り出そうと挑んでみたけど――がっちり固定されていて全然動かなかった。
「……カギ、かかってました」
 鼻の先だけは外に出られるのに。手だって伸ばせるのに。
 やっぱり私は家の中から出られないの?
 陽太がピンチなのよ!
 こうしている間にも、人間の乗った車に勝ったツメで引っかかれたり、大型犬に勝った牙に噛みつかれたり、大人のカラスに勝ったキックでコテンパンにやられてるかもしれない――。
「なら、『オダイキン』をそこから渡しな」
 落ち着き払ったスノウさんの声。
「え」
「急いでるんだろう? 手伝ってやるから言う通りにするんだ」
「は、はい!」
 よくわからないけど、言う通りにしてみよう!
 私は大急ぎで陽太の部屋に戻ると、私の秘密基地(ベッドの一番奥!)から、とっておきの大きな煮干しを引っ張り出した。
 うう……おいしそう……。
 っと、いけない、いけない! 食べちゃダメ! これは『オダイキン』なの! 食べずに取っておいたんだから!
 私は煮干しをくわえて、さっきの小さなナゾ部屋へ引き返した。
 ツルツル滑る椅子にまた手こずっちゃったけど、なんとか窓の隙間から煮干しをぽとんと外に落とすことができた。
「そ、それが『オダイキン』です!」
「わお、うまそう〜!」
「ふむ、これは上物だな。こら、舐めるな、グレース。いいか、俺がこれで……」
「うんうん……」
 グレースとスノウさんが、何かごそごそ喋ってるけど、よく聞こえないわ。
「あのー?」
「ミャオン、もう少しの辛抱だ。そこで待ってろ」
「は、はい」
 そして――誰かが走り去っていった。
「さっすがおいらの兄ちゃんだ!」
 これはグレースの声。
「な、なになに?」
 私には話が見えてないんだけど。
「兄ちゃんが『カミカミ』持ってきてくれるってさ! 人間になれば、家を抜け出すことだって簡単だろ?」
「――――そ、そっか!」
 確かに! スノウさん、頭いい!
 そしたら、陽太を助けることだってできるわ!

 …………………………ん?

 でも、ちょっと待って。
 『カミカミ』は持ってきてもらえる。それはいいけど、どうやって受け取ればいいの?
 簡単にはいかないんじゃない?
 だって、この窓、そこそこ高い場所にあるし、私の手が入るくらいの隙間しかない。
 外から『カミカミ』をどうやって届けてくれるのかしら?
 …………。
 ――はっ。
 まさか、ジャンピング猫パンチで?
 私もこう見えて、結構遠くまでボールを弾き飛ばすことはできるけど、隙間を狙って、ボールを入れることなんてできないわ。やろうなんて思ったことすらないし。
 まさか……あのちょっぴりふくよかなスノウさんなら、できちゃうとか?
 意外な特技の持ち主なのかも!
 私がグレースに確かめようとしたら、ガサガサ……って、風もないのに葉っぱが大きく揺れる音がして――窓の向こうから、ニョキッとグレースの手が差しこまれてきた。
「へへっ、よかったな、ミャオン! おいらが木登り得意で!」
 それは、さっき『むりむりむりむり!』って尻込みしてたグレースとは思えないくらい、ものすご〜く得意げな声だった。

                          <5章へ続く>

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