見出し画像

史上初のレギュラー男子プリキュアはプリキュアに何をもたらしたか?

始めに

ひろがるスカイプリキュア!が1月28日に放送が終わりました。
全50話は魔法つかいプリキュア!以来となりましてここ3年程は諸般の事情により45話程度しか放送することが出来なかったことを考えると20周年記念作品として非常に恵まれた時期に放送出来たと思います。

ひろがるスカイプリキュア!(以下ひろプリ)はレギュラーメンバーに史上初が入ることが多いメンバーで構成されていました。

・史上初の青のセンター キュアスカイ 
・史上初の妖精役の声優がレギュラープリキュアになった キュアプリズム
・史上初のレギュラー男子プリキュア キュアウィング
・史上初の成人プリキュア キュアバタフライ
・史上初の赤ちゃんプリキュア キュアマジェスティ

と全員が史上初がつく構成となっています。
※色々と条件を含めると別のプリキュアを言及することになりますが長くなるので割愛

その中でもひと際目を引くのが史上初となるレギュラー男子プリキュアのキュアウィングです。

プリキュアシリーズとはメインの客層は4~9歳の女児とされていて今まで82人のプリキュアが登場しています。
この82人というのはテレビシリーズに登場するプリキュアオールスターズにカウントされるプリキュアのことを指します。(ファンはこのプリキュアオールスターズにカウントするというのを一つの目安にしている)
プリキュアに変身するのは普通の女の子というのがシリーズの特徴で様々なプリキュアが登場してきた中でこれだけは変わらないものとして続いてきました。

その82人いるプリキュアオールスターズの中で現状(2024.2.12現在)唯一男性が変身しているのがキュアウィングなのです。

当記事はそんな夕凪ツバサ/キュアウィングがプリキュアに何をもたらしたか?というのを分析と掘り下げをする記事になります。

結論から言えばキュアウィングは
プリキュアの世界の可能性を広げた存在
と言える存在だと私は思っています。

キュアウィングの登場までの道のり

キュアウィングをここまで周りくどくレギュラー初の男子プリキュアという言い方をしてるのは実はプリキュアには男子、男性がプリキュアに変身していくっていうのはかなり古くから取り入れられている要素なんです。

歴代に登場した男性プリキュア

・キュアファイヤー
ハートキャッチプリキュアに登場した番ケンジが変身…ではなく想像したプリキュア
本人が変身してるわけではないのだがちゃんとした衣装を身に纏ったというインパクトがあったのか語られることも多い。あと「熱風に揺れる一輪の花!」って名乗り口上もある。

・キュアゴリラ
スマイルプリキュアに登場した多分一番有名な男性プリキュア?
変身バンクまで用意され名乗り口上もある存在で全プリキュア大投票でキャラクター部門3位になるという愛されっぷりを披露した原西さん。
現在に至るまで何かとプリキュアに関わり続けていることから非正規で変身してないのにも関わらずプリキュアとして認められている不思議な存在になっている。

・キュアセバスチャン
ドキドキプリキュアに登場した人工的にプリキュアに変身しようとした結果生まれたプリキュア。
ガチで変身してちゃんとキュア○○と名乗った初のプリキュアでもある。
しかもちゃんと人工的に生み出されたのにも関わらず身体能力の向上が見られたというガチな変身である。
その後訳あって変身出来なくなってしまったのだが本当に変身出来る存在としては初な存在。

・キュアアンフィニ
HUGっとプリキュアに登場した本当に変身した男性プリキュア
放送当時は至る所で初の男性プリキュアと報じられており公的な史上初の男性プリキュアは彼になると思う。
放送中放送後に色々と紛糾することになったのがそれはまた別の話に置いておく。

・みんながプリキュア
同じくHUGっとプリキュアに登場したもので地球のみんながプリキュアになったっていうもの。当然男性も含まれており主人公野々はなの父である野乃森太郎が変身したものはそのガタイのよさから何かと話題になった。

プリキュアではないけどそれに準ずる戦士

・ジュリオ
キラキラプリキュアアラモードに登場した戦士で愛称は「キュアワッフル」
この状態はいにしえのプリキュアであるルミエルの力を借りて状態での変身なのでプリアラにおけるプリキュアの条件は揃っているはずなのになぜかキュアと付かなかった存在。

・ブラックペッパー
デリシャスパーティプリキュアに登場した変身する戦士。
品田拓海が変身してキービュアルにも書かれていて商品展開にも恵まれたと明確に新要素として登場した存在。
感謝祭でちゃんと名乗り口上も披露しているのでれっきとしたデリシャスパーティプリキュアのメンバーとして扱われている。

その他にも男性で戦う力を持った人というのは何人か登場していますがあくまでもサポーターという役割で変身する存在ではありませんのここでは割愛。
更に言及するとひろプリと同時期に舞台版プリキュア「Dancing☆Starプリキュア」が企画されてこちらも全員男性という風になっていますがテレビシリーズではないので除外。

レギュラー=商品として展開する が意味する難しさ

こうして見るとプリキュアシリーズは何かと男性プリキュアを出そうとしてたのが分かります。
1話限りのギャグ染みたものから作品のテーマに沿った存在だからプリキュアと名乗ると次第に扱いもガチさが増してきています。
そもそも男性プリキュアに関してはプリキュアシリーズ産みの親の鷲尾天氏も以下のように言及しており

「女の子たちに熱狂してもらえるなら、変身しなくてもいいし、アクションをしなくてもいい。男の子が仲間に加わってもいいとまで思っています。女の子たちがちゃんと喜んでくれる作品になっているなら、『プリキュア』も変わっていってもいいと思うんです」(講談社「プリキュアコレクションふたりはプリキュアマックスハート(上北ふたご著)」(鷲尾天独占インタビュー)

つまり製作スタッフは時代が変わればプリキュアも変わっていっていいと思っておりそれが年数を経て男の子もプリキュアになっていいになっていったと言えるのです。

しかしながらこれはあくまでも東映側の意識であってプリキュアシリーズの玩具販売を担うバンダイ側としては
その要素は売れるのか?」というのを常に考えなければいけません。

これに関してよく言われるのはプリキュアのカラーです。
プリキュアのカラーでよく言われるのは紫は人気で緑は不人気というもの
実際問題緑を全面に押し出したプリキュアはスマイルプリキュアのキュアマーチ以降は控えられて緑だとしても青めの色を入れた緑にされることに多くなっています。
これに関してはキュアマーチの時点でスポンサー側が難色を示したがスマイルプリキュアのシリーズディレクターを務めた大塚隆史氏が全体的な見栄えを考えて緑にしたという話が残っています。
そのことから緑という要素はバンダイ側が難色を示しており取り入れるとしてもキュアフェリーチェやキュアミルキーのような緑すぎない緑として採用されることになっています。

対して紫というカラーは絶大な人気を持っているとされています。
その始祖とも言える存在はYesプリキュア5GoGoに登場したミルキィローズでしょう。
その強さと紫のお姉さんらしさが絶大な支持を受けたという話が今でも聞かれており後年続く紫カラーのプリキュアの流れを作った存在です。
その後紫というカラーは追加戦士の色に使われたり(キュアムーンライト・キュアフォーチュン・キュアアムール、キュアアース、キュアマジェスティ)、多人数プリキュアにピンク(白)・青・黄色の次に優先的に入れられたり(キュアソード、キュアマカロン、キュアセレーネ)、主人公の相棒や2番目に変身するプリキュアとして採用されたり(キュアマジカル、キュアコーラル、キュアフレンディ)と様々な形式で採用されていることからやはり受けが良いと認知されていると思われます。

男性プリキュアや男性戦士はそういう分析から受けないもの、相手にされないものとして扱われてきました。
客層が違いすぎて売り上げを期待できない要素
として緑カラーのプリキュア同様に商業的にプラスを見込めないのならやらないという発想になっていたと思われます。
なので男性プリキュアと男性戦士は1話限りの一発ネタにならざると負えなかったのでしょう。

それを打破したのがキービュアルに大々的に登場しているブラックペッパーです。
ブラペは史上初のキュアフレンズぬいぐるみの一般販売が行われた存在で他のプリキュアのキュアフレンズぬいぐるみと同じようにヨドバシカメラやトイザらスと言った場所でブラックペッパーのぬいぐるみを買えました。
つまりバンダイはブラペという存在はプリキュアと同様に売れる見込みがあると判断したと言えるのです。

史上初が故に保険をかけられた船出

前年のブラックペッパーという新たな試みにより男性戦士が市場に出ても歓迎されるということが分かったことで正式にレギュラーとして男性プリキュアを送り出す土壌は出来上がったと見ていいでしょう。

しかしながら夕凪ツバサとキュアウィングはある種の保険をかけられた状態で出されたと私は思っています。

夕凪ツバサ/キュアウィングにかけられた保険

・12歳の少年という年齢
アニメージュ2023年5月号のインタビューによると
「当初はもっと年上であったが様々な議論を経て男の子でもプリキュアになっていいというのと女の子に受け入れやすいキャラを両立するために少年になった(要約)」
と言及されています。つまりは本来のターゲットである子供に受けるか否かを考えた結果12歳という年齢に設定されたと見ていいしょう。

・プニバード形態という存在
プリコーデドールという商品ではプニバード形態とキュアウィングがセットになっており本来あるべき衣装替え要素が消されています。
またキュアフレンズぬいぐるみもプニバード形態でも出されていることから妖精枠マスコット枠としても扱うことでなるだけ手に取って貰いやすくしたと見れます。

・プリキュアスタイルの未発売
プリキュアスタイルという植毛ドールが例年発売されるのですがキュアウィングだけ未発売となっています。
追加戦士のキュアマジェスティは発売されているので明らかにハブられた形となっています。

・食玩系統のアソートの偏り
食玩やキューティフィギュアではウィングのものは他のプリキュアと比較して封入率が露骨に下げられているのが報告されています。
つまり在庫過多になると判断されたということになります。
ただこの手の商品で在庫過多になってしまうので差をつけるというのはプリキュアシリーズでもやられて来た歴史があるので男だから下げられたというのにはならないと思います。

・プリチュームのプレミアムバンダイ販売
恐らく一番話題になったと思われるもの。
東京・池袋のサンシャインシティで開催された「ひろがるスカイ!プリキュア おでかけ! ひろがるワールド!」のなりきり写真館でキュアウィングの衣装だけなく楽しみにしていた男の子が泣いて帰ってしまったというSNSの投稿が発端となり運営および衣装を発売しているバンダイに批難の声が出ました。
その後9月に入りプレミアムバンダイでの発売とプリティストア各店舗でのなりきり衣装での撮影が出来るという告知が入ります。
炎上から衣装販売の告知の速さから元々予定していたものを前倒しで発表したのでは?と言われることもありました。
これに関してはバンダイ側は売れるだろうけど少数の需要しかないと判断してプレミアムバンダイでの販売という決断し、9月告知というのも恐らくはキュアマジェスティの登場に合わせる形でなりきり衣装の撮影が出来るようになるというスケジュールを組んでいたから出来た措置と見ることが出来ます。
(※実はキュアウィング以前にもキュアショコラがプレミアムバンダイ限定でのプリチュームの販売がされています。)

バンダイの誤算は一体何だったのか

プラペという存在でどれだけ市場に迎え入れるかというのがおおよそ把握していました。
しかしながら今まで女の子がメイン客層であった市場に投入するのにリスクが生じるのも事実なので保険をかけるというのは商売というのを考えた際には当たり前のリスクマネジメントと言えます。

誤算と言えるのは夕凪ツバサ/キュアウィングという存在が想定を超えて子供たちに受け入れられたという点。
更に誤算だったのは大人の視聴者からの反発も非常に多かったことだと思っています。
ひろプリは20周年記念ということで様々な史上初を打ち出し様々イベントでプリキュアを盛り上げていった結果、プリキュア戻りやプリキュア新規が増えたと思っています。
こういう人たちは我々のような長年プリキュアを追っているような人が持っている既存のプリキュア観に囚われない人たちが多く、男のプリキュアでも問題ないのでは?となっていた可能性もあります。
また20年を経て当時の子供たちが親になった時にプリキュアを見せるという選択肢が取られるということも少々失念してたのでは?と思っています。
子供というのは親の影響を受けますから親がプリキュア(やニチアサ)を見ているならば同じように見てしまうというのも十分にありうるのです。

そんなこと分かりっこねえよと思う人もいるでしょう。しかし娯楽というのは一寸先は闇と昔から言われているぐらい先が読めない産業なので完璧な予測というのが出来ないというのを考慮するべきだと思います。

史上初のレギュラー男子プリキュアとしての重圧や失敗のことを考えると慎重にならざる負えない部分も多いにあったと思います。
しかしそれを跳ね除けたのが夕凪ツバサ/キュアウィングでした。
ツバサくんの魅力的に描き切ったスタッフとツバサくんの魅力を最大限引き出した担当声優の村瀬歩さんの演技が当初のバンダイの予測を遥かに上回った結果を生み出したと言っていいでしょう。

可能性を広げたウィングの成功

キュアウィングについて鷲尾天氏は
「祝!プリキュア20周年!! 周年の軌跡 魅力♥祭典♥熱狂スペシャル!!!」(2024.1.28.TOKYOMX系で放送)

「男子プリキュアはこの時代いろんな形があるのでチャレンジしてみよう」
「男の子が入ったことによってものすごくファン層が広がった」
「男の子が入って「プリキュアは女の子のものじゃないのか」という反響もあった」
「お子さん方はすんなり受け入れていた」
と言及しており、製作サイドもウィングが好意的に受け入れられたと判断しているようです。

同番組では鷲尾氏は
「"多様性"というのは既成概念を持った大人の発想」
「子供にとって多様かどうかはない。全てが初めてですから」
「選択肢が広いんだよということを我々(大人)が提示してあげなきゃいけない」
「それがもしエンタテイメントの作品の中でできて子供たちがそれを受け入れてくれるのではあれば、それが大事なんかじゃないかな」
と発言しております。

昨今多様性を騒がれていますがプリキュアシリーズの多様性はそこにあるのが当たり前というのを描こうとしています。
あくまでもそれを選んでいいんだよであり選ばないとダメなんだよ?にしないようにしているということです。
よくキュアウィングのことで言われるのは「男子である必要がない」という意見です。
しかし可能性を広げる存在でありなおかつ特別扱いしないそこにいる存在であるのなら「男子である必要がない」はむしろ区別も差別もしなかったという褒め言葉に近いのです。
(※そこらへんの多様性の話についてはスタートゥインクルプリキュアの柳川あかりPが深く触れていますので記事のリンクを貼っておきます→[スター☆トゥインクルプリキュア:自然に多様性描く 新作の狙い])
可能性を広げて選択肢を広げることで新しいものを作り出していく、それを続けていくというのがプリキュアシリーズの魅力だと思っています。
そういう意味でもキュアウィングはまさしくプリキュアだったと言えます。

最後に

キュアウィングの成功は更に新しい可能性を生み出してくれるかもしれません。
何故そう言えるのか?
実は2024年から放送しているわんだふるぷりきゅあ!の追加戦士の予想がされているのですが兎山悟のペットの大福がその最有力候補と言われています。
これは東映アニメストアでこむぎとユキと同じようにアクリルキーチェーンで登場しておりそのまま追加戦士になるのでは?と思われているのです。
しかしながら大福はオスというのがアニメージュ2024年3月号で判明しました。
この情報が正しければすなわち史上初の追加戦士が男子プリキュアということになります。
つまり追加戦士という商機的にも当てないといけない要素に男子プリキュアを使うという判断がされたということです。
現段階ではそうとは限らないですがもしそうなった場合キュアウィングが与えた影響というのは想像以上に大きいものだったんだなと思います。

しかしながらいきなり追加戦士で出すか?という声も出ているのは事実でキュアウィング同様に何かしらの保険を打っていくのでは?という声も出ています。
事実大福は兎(ロップイヤー)でありそこから変身するとなればこむぎと同じように人間に変身してからプリキュアに変身することになりキュアウィングと同じ形式になります。
また飼い主とペットのペアでプリキュアになるならば大福の飼い主である兎山悟もプリキュアになるのでは?と予想されたりしています。
そうなればまさかの2人追加で両方男子が変身という凄まじい状態になります。
プリキュアシリーズの追加戦士予想は放送開始後盛んに行われていることですが今までだったら突拍子もない予想でもすんなりと受け入れられるようになりました。

キュアウィングの登場によって今後の展開予想というのにも幅広い選択肢が生まれることになったということです。

キュアウィングが広げた可能性が今後どうプリキュアシリーズを彩っていくかファンとして楽しみな限りです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?