自叙伝風小説33ポーカー基本編

「じぇいそるさんって何か聞いたことがあるような」
「ああ、きっと彼はいまYouTubeでポーカーと旅をテーマに動画を出しているからね。きっとそれかも」
「へぇ、しかもそんなすごい人のお兄さんですか・・・運命って面白いですね」
やはりあるところにはあるものだと数奇な出会いに倉田感心してメモを取っているとアカヤギも同じように頷いていた。
「今は兄そるは経営者になってるんだけど、じぇいさんは今も海外でポーカーで稼いでるね。妹さんもそこに行ってポーカー修行とかしてたみたい」
「うわ、ギャンブラー兄弟格好いいですね」
倉田は笑いながらも追加の情報でメモを走らせた。帰ったらじぇいそるさんの動画を見てみよう、なんて考えながら。
「アカヤギさんは、結局そのあとポーカーに進むんですよね」
それは倉田と彼が出会ったきっかけでもある。ようやく彼の人生の知っている部分に触れた、と倉田は嬉しそうに話す。
「うん、もう韓国でブラックジャックどうだったかなんて覚えてないよ。もうすぐにポーカーの勉強をして、テーブルを見学して。帰国したらすぐにネットとか本とかで色々調べてね」
流石の行動力に感心しつつ、倉田は先を楽しみに耳を傾ける。
「これは楽しいし稼げるかもって思ってひたすら調べて、オンラインで実践を繰り返して。ずっと毎日その繰り返しだよ。もちろん生きていくためのお金はトレードで稼いで、あとは全部ポーカー漬け」
「だからそこまでの実力になるんですね・・・!何も知らない僕に教えてくれた時もわかりやすかったですし、何か教える仕事もすればいいのに」
「ふふ、まあ最近ではアミューズメントポーカーとか増えてきているしそんな需要ももちろんあるかもね?・・・ところで倉田くんはどこまでポーカーわかるんだっけ?」
「ええ、と前も言ったように役は全部わかるんですけど・・・」
そういうとアカヤギはスッとどこからともなくトランプを取り出した。
「じゃあ、カジノについて教える前に、まずこのテキサスホールデムについて軽く教えようか。前やったように自分に配られるカード2枚と、場にあるカードで役を作るんだ。配られる2枚はその人しか使えないけど、場に表になっているカードは誰でも使える。共通カード、コミュニティカードとも言うね。これは3枚から始まって、最終的に5枚まで増えるよ」
そう言ってカードを並べたアカヤギはいくつか選んで並べていく。
「まぁ、知っているって言ってたけど確認のためにまずは役についてだ。一番弱いのは何もペアになっていないバラバラの状態だ。これをハイカードと言って持っている一番大きな数字で勝負するだけだ。でも、これは実はとても大事な概念だから覚えておいてね?二が最弱でAが最強。あとは数字が大きい方が強い、ね?・・・次の役はワンペア。数字が同じものが2枚だね。その次に強いのがツーペア、同じ数字のものが二組だ。・・・例えば、これとこれだったらどっちが強い?」
アカヤギはカードを5枚ずつ並べた。
上は、2、2、4、5、8。下は4、4、7、7、J。
どちらもスートはバラバラだ。
「ええ、とツーペアなので下が強いですね」
「うんうん、このまま役の強さごとに並べるよ?まず、スリーオブアカインド、日本語だとスリーカードって言うんだけど。同じカードが3枚だ実はこのスリーカードっていう呼称はあまり使わなくて、トリップスとセットっていう二つの言い方で呼ぶんだ」
「トリップス・・・なんで同じ役なのに二つで呼び分けるんですか?」
いい質問だ、と頷きながらアカヤギはカードを素早く選んで並べていく。
3、3と同じカードが2枚。スペースを開けて3、5の2枚だ。
「テキサスホールデムは自分が2枚。みんな使えるコミュニティカードが最終的に5枚になる。この中で3枚同じカードが揃うのは二つのパターンがあるからだよ」
そう言いながらアカヤギはさらに中央に3、7、10、Q、Kと3枚のカードを出した。
「今自分のカードが3が2枚でコミュニティカードに一枚だからこれで3枚でしょう?」
「はい」
考えながらしっかり倉田は頷く。
それを見るとアカヤギはさらに別のカードを同じく2枚と5枚の枠で並べていく。
5、6の2枚と、5、5、8、10、Kの5枚だ。
「これも5が3枚なんだけど、さっきと違うことがあるでしょう?」
「・・・ええ、と」
倉田は顎に手を当てながら何度かカードを見比べた。
「・・あ、比率ですか?」
「比率?」
「はい、3の方は2枚の方に揃っていて、5の方は5枚の方に2枚あって・・・」
自分でも何を言っているのか混乱してきた倉田がなんとか言葉を探しているとアカヤギは察したように頷いて笑った。
「なるほど、それで比率か・・・うん、正解だよ。分かりやすく言うと、自分でペアを作っていて場に一枚落ちて3枚になるか。それとも自分が一枚で場に2枚落ちて3枚になるか、だよ。自分で2枚持っている時のスリーカードをセット。反対に自分が一枚で場に2枚の時はトリップスだよ」
「なる、ほど・・・同じ3枚って言う役なのにややこしいですね」
素直な言葉に吹き出しながら、アカヤギは倉田が噛み砕いて飲み込むまで待つ。
そして倉田が何度か頷いたのを確認してから続きを話し始める。
「次はストレート。5枚全部が順番になっているものだね。気をつけなきゃいけないのは、Aと2は繋がらないってこと。10、J、Q、K、Aはありだしむしろ最強だけど。J、Q、K、A、2はだめってこと」
そう言ってアカヤギは一度並べたカードを全て回収した。
「次はフラッシュ。スートが全部同じってことだね。数字はなんでも良い」
2、5、6、8、Qを並べる。スートは全て♡だ。
「次がフルハウス。この辺りからあまり本番では負けることがない強い手に分類されるかな」
そう言ってアカヤギは3、3、3、K、Kと並べた。
「ワンペアとスリーオブアカインド。2枚3枚と同じカードを揃えるのがフルハウス。次に強いのが日本だとフォーカード、同じ数字を4枚集めることだ」
そもそもトランプは各数字4枚しかない。それを全て集めると言う時点で相当な強さがあることが倉田にもわかった。
「最強はストレートフラッシュ。さっき言ったストレートとフラッシュが一緒に出来上がってること」
そう言ってアカヤギは7、8、9、10、Jと並べる。全て♤だった。
「特にこの中で10〜Aのストレートフラッシュを最強の手、ロイヤルストレーロフラッシュって言ったりするよ」
今までの説明は倉田にも知っており確認の意味もあったため、倉田は余裕そうに頷いた。
それを見て、アカヤギも笑う。
「じゃあ、2問だけ応用問題だ。これは、どっちの勝ちだと思う?」
並べられたのは、上に♡5、♤5、♧6、♡6、♤Q。
下に♢8、♤8、♤A、♧A、♡10。
「ええ、と・・・上はツーペアで・・・下もツーペアですね」
倉田は引き分けかな、と考えたが、先程の説明を思い出してもしかして、とアカヤギの表情を伺った。変わらないいつもの笑顔だが、表情で読み取るなどプロのこの人からは無理だ。
試しているのかと決めて考え続け、最初のハイカードの説明を思い出した。
「大きい筋が勝つって言うのが、大事って言うことは引き分けじゃないんですね?これだと・・・下の方が勝ち、ですか?」
「ふふ、その通り!よく思い出したね。・・・役の強さはどっちもツーペアで引き分けなんだけど、その役に使われているカードの中で数字が大きい方が勝つんだ。3〜7のストレートと、10〜AではAを使ってる方が勝ちだね。・・・じゃあ、もう一つ応用問題」
そう言って今度は上に♡2、♤2、♢5、♤5、♧9。
下には♢2、♧2、♡5、♧5、♡Kが並べられた。
「ん、と・・・どっちもツーペアで、しかもどっちも2と5のペアですもんね・・・スートって強さが違うんですか?」
「ううん、ハートもスペードも、全部同じだよ」
「・・・そうなると・・・え、まさかKですか?」
「ふふ、正解!役に使っているのも同じ数字だった場合、持っている5枚の中で高い数字で勝負するんだ。それも同じだったら次に強い数いっていう風になるね」
例えば、と言いながらアカヤギは2、2、6、9、Kの段と、2、2、K、7、5、の段を作った。
「どっちも2のワンペアで引き分け、じゃあ使っていない大きな数字はっていうと、どっちもKだからまた引き分け。そして次に大きいのは7と9だから、9を持っている方が勝ちってことになるね・・・難しいけど、勝負の強さはこんな感じだね。次は、大まかなゲームの流れを教えるよ」
そう言いながらアカヤギはカードを配る。
倉田の前には裏向きに2枚、アカヤギの前にも裏向きに2枚。もちろんお互いにお互いのカードはわからない。
「大まかな流れとして、まずこの時点でこの勝負をするかどうか決めるんだ。自分のカードだけを見て、これで勝負できるのかなって」
そう言いながらアカヤギは自分のカードを確認する。そして倉田もつられたように自分のカードを覗いた。
カードは♤3、♤9だ。
「んー・・・どうなんでしょう」
「ふふ、最初はこの段階なんてわからないよね。まぁ、これは指標になる表が存在するから、それを覚えれば結構変わるよ?・・・それはさておき、最初に勝負するかを判断し合う段階があるんだ。プリフロップって言うんだけど」
「・・・でも、それって終わらなくないですか?」
倉田はメモをとりながら質問をぶつけると、アカヤギは何か察したように笑いながらどう言う意味?と聞き返した。まるで、試しているかのようだ。
「いや、僕だったら最後に言いたいですもん。みんなどんな感じにしてるのかって見てから動いた方が有利だし・・・そう思ったらみんな最初に動きたくないんじゃないかって」
「ふふ、いいところに気がついたね。そう、それにポーカーって降りるのは0円なんだ。だから永遠に降り続けて強い手が来た時しかやりませんなんてこともできる。これじゃゲームは成立しないでしょ?テキサスホールデムには順番があるんだ」
そう言ってアカヤギは倉田のメモに手を伸ばす。そして楕円形の丸型の机を書いて周りに椅子のような小さな丸を十個追加していった。
「まず、カードを配る前に強制的にゲーム参加させる目にベットを強制される人がいるんだ。1ドルと、2ドルだとしよう1ドルの人のことをスモールブラインド、2ドルの人のことをビッグブラインドというポジションで呼ぶ」
椅子に1(S B)、2(B B)と時計回りに書いたアカヤギはさらにその右隣にU T Gとスペルを綴った。
「次にアンダーザガン、U T Gだね。そしてアーリーポジション、E P。十人だったらこれがE P1、E P2と並んで、次がミドルポジション。M P。これがまた同じようにM P1、M P2と続いて・・・M P3でもいいんだけど、十人だったらここをハイジャックということもある。まぁ、そうなんだ、くらいでいいよ。ディーラーボタンの二つ前の人のことを言うんだ」
「ディーラーボタン?」
「ふふ、順番に説明するから待ってね?」
そうしてアカヤギはM P3(H J)と書かれたさらに時計回り先にC Oと書いていく。
「カットオフ、そして最後にディーラーボタン。B T Nって書くよ?・・・ポーカーってこうやってポジションが決まっているんだ。これを一ゲームごとに時計回りに進めていって、みんなが一通りのポジションができるようになっているんだよ」
そして、とアカヤギはテーブルの周りに時計回りの矢印を書き、その根本はアンダーザガン、U T Gにあった。
「整理するよ。まず、始める前にS Bが1ドル、B Bが2ドル。これはテーブルのルールによるんだけど。S Bが10ドル、B Bが20ドルの時もある。ようはそのルールによって決まっている額をその二人は強制的に出させられるんだ。そしてそのあとようやく皆に2枚ずつカードが配られる。そしてそれを各々確認して、さっき言ったプリフロップが始まるんだ。チップを出してこの勝負を続けるか、諦めて降りるかって決めるんだ。そして、君が言ったように皆最後に言いたい。だから順番が決まってるんだ。これは、アンダーザガン、U T Gからだ」
ペンの先で矢印の根本を指したアカヤギは頷いてメモに飛び込むくらいにまっすぐ向いている倉田を確認してから話を続けた。
「そもそもポーカーは不特定な情報が常につきまとうゲームなんだ。人のカードはもちろんわからないからね。でも、情報ももちろんある。・・・例えば、君のカードがあまり良くなくて、前の人全員が喜んで笑顔で自信満々にチップを出していたら君は続けたいかい?」
「いや、それは流石に無理です・・・」
素人でもわかる、と笑いながら言うとアカヤギは意地悪そうに「ブラフかもだけど」と付け加えて笑いながら続けた。
「そう、前の人の情報があるかどうかで判断材料が増える。だから基本的にテキサスホールデムは順番が最後のD T Nに近い方が有利なんだ。U T Gは何の材料もないのに一番最初に動かないといけないでしょ?皆に視線っていう銃口を向けられるし、不利すぎるっていう意味でもunder the gun、なんて物騒な名前なんだ」
閑話休題だね、とアカヤギは仕切り直すように席を一度払った。
「プリフロップではU T Gから時計回りに動くんだけど、できることは三つ。コール、レイズ、フォールドだ。コールは勝負に参加するっていう時にするんだけど、前の人と同じ額のチップを出す。だから、B Bの人と同じ金額を出せば参加できるってことだね。レイズは前の人の倍以上の金額を出すことによって賭け金をあげることができる。そして次の人からはB Bの金額じゃなくて、U T Gがレイズした金額と同じ金額を出すかどうかによって参加できるかどうか決まるように変わる。・・・要は、全員の賭け金が同じになるまでこれを繰り返して、全員揃ったら先に進むってことだね」
「フォールドは諦めて降りる、っていうことですか?」
「うん、これじゃ勝負にならないなって思ったらとか理由はさまざまだけど。カードを捨てることで賭け金を支払わないで諦めることができる。そして勝負をしたい人が出揃って全員が同じ金額のベットをしたら、初めて場にコミュニティカードが3枚配られた状態でもう一度さっきと同じようなことをする。フロップと言うよ。」
ここからの順番は同じだよ、とアカヤギはS Bを指した。
「スモールブラインドからまた同じように時計回りでこのまま続けるかを決めるんだ。3枚コミュニティカードが追加された時点と、もう一枚追加された時、そして最後に全部出揃った時点。計四回これを行うってことだね。そして全部賭け金が揃わない限り先には進まない。
でも、このフロップからもう二つアクションが追加される。まずはチェック、だよ。これは、賭け金を出さずに勝負を続行するって言う意味が近いかなぁ。もう一つの追加アクションをベットって言うんだけど、これの権利を次の人にあげるって言った方が正確だね」
ここでそもそもだけど、とアカヤギは話を少し戻した。
「最初のコールとかレイズとか。あとは始まる前のS B、B Bの賭け金ってどうなるのかって言うと、一旦誰のものでもない中央に集められるんだ。ポットっていうよ。買った人がこれを総取りする。ごめんね、説明が前後しちゃった」
アカヤギは話を思い返しながらイメージしにくいよね、と頷いてカードを回収した。そして立ち上がるとミステリオのマスターに声をかけ、少ししてからテーブルに戻ってくる。手には500円玉が何枚も握られていた。
「実際にイメージするためにポーカーしてみよっか。やりながら説明した方がわかりやすいもんね。マスターとバーテンダーさん一人手伝ってくれるから」
そう言うとテーブルにその二人がやってきた。軽く倉田に会釈してから席に着くと、アカヤギの対面に倉田、それを挟むように二人が座る。
「チップ代わりの五百円玉ね?適当に一人10枚から始めようか。・・・B T Nは何か印が置かれるんだけど・・・じゃあ、これで」
お酒のコースターを自分の前に置いたアカヤギはまずマスターを指さした。
「マスターが、スモールブラインド。時計回りに進んで、倉田くんがビッグブラインド。バーテンダーさんがU T Gだ。まず、ゲームを始める前の強制ベットがある。今回は試しだから1−2でいいよ」
そう言われるとマスターは流石に常連であるアカヤギに付き合って慣れているのかすっと1枚500円玉、チップを前に置いた。
それを見てさっきの説明を思い出した倉田は自分に配られた500円玉から2枚前に差し出す。
「うん、じゃあ配るね」
各人の前に綺麗にカード滑らせたアカヤギの動きに見惚れながら倉田はカードを捲る。
♡A、♤K。悪くはないのではないだろうか、と倉田は判断して頷いた。
「さ、U T Gの君はどうする?」
バーテンダーは自分のカードを見てコール、と呟いて2枚チップを差し出した。そして時計周りに次の順番であるアカヤギはカードをそっと捨てた。
そう、まずは前の人と同じチップを出すか諦めるかだった。
説明を思い出しながら倉田の前であるマスターはもう一枚追加でチップを並べ、彼の前には計2枚になった。
倉田も続ける、と伝えるとアカヤギはチップをかき集め、中央に並べた。
そしてコミュニティカード3枚を表に並べる。
出てきたのは♤3、♡10、♡K。
倉田は自分のカードをもう一度確認してから頷く。
フラッシュにするにはハートがあと2枚。ストレートにするには10、K、AとあるからJ、Qでこれもあと2枚。でもすでにワンペアができているし、Kだから数字も大きい。
そこまで悪くはなさそうだった。
「ええ、とさっきはプリフロップだからU T Gのバーテンダーさんからでしたよね・・・この場合は」
「私ですね」
S Bのマスターが頷くと軽く机を指先で叩いた。
「チェックです」
「S Bはチェックをしたよ。次は倉田くんの番だ。君が出来るのは、3種類。同じようにこのまま続けるのならばチェック。ベットをすれば中央にある金額が増えて、その後の二人はその金額を出すかどうかを迫られる。そこで皆降りれば君の勝ちだし、そこで乗ってきたら、勝った時に貰えるポットが増える。もちろん負けた時の損失も多いけどね。あとは配られた3枚が思ったのと違かったらフォールドしてもいい。ただし、参加費として中央に集められたチップは帰ってこない」
倉田は説明を聞いて考えながらゆっくりと頷いた。
「ええ、とではチェックで」
「僕もです」
バーテンダーさんも同じようにチェックと呟くと、アカヤギは頷いた。
「ひたすら皆の賭け金を揃えて先に行くと言ったでしょう?今は、皆賭け金なしっていうことで揃っているから、これでも次に行くんだよ」
そう言ってカードをもう一枚コミュニティカードとして追加する。
出てきたのは♡3だった。
「ええ、と・・・」
倉田はもう一度自分の持っているカードを確認しながら考え込む。
持っているのは♡A、♤Kで、場にあるのが♡3、♤3、♡10、♡K。
自分のを入れて考えると、まずKは変わらずペアになっている。そして3もペアにはなっている。だけど、これはコミュニティカードだけでできているペアだから、皆も同じように3のペアになっているということだ。さらに、配られた2枚の中に3が一枚でもあればその時点でトリップスになってしまう。
「そうですね、ではベットをしましょう」
マスターはそう言うとチップ代わりの500円玉を2枚前に出した。
「ありがとうございます、倉田くん。ベットはね、最低B Bの賭け金と同じだけ必要なんだ。最初に2枚B Bが出しているから、最低でも2枚ってことだね。・・・そして、ベットがされた時点で周りができることが変わる」
その説明のためにマスターはわざとベットしてくれたのだろうか。
倉田も礼のつもりで目を合わせて頭を下げてから続きを聞き始める。
「ここからは、勝負を続けるのならば賭け金を同じにしないといけない。だから続けるのならば同じく2枚を出す必要があるよ。もちろん無理ならば降りてもいい。もし自信があるのならばさらに賭け金をあげることもできるよ。レイズして4枚出したとしよう。その場合、U T Gは4枚以上出すか、諦めるかを迫られる。S Bのマスターも追加で2枚出すかそれ以上出すか諦めるかになるね」
「・・・んー、それは怖いので・・・でもとりあえず勝負してみたいです」
そう言って倉田は2枚チップを同じように差し出した。
そしてそれを見てU T Gのバーテンダーはそっとカードを捨てた。
「彼はフォールドを選択した。この時点で彼は最初にかけていた2枚のチップがマイナスっていうことになるよ。そして残っているマスターと倉田くんの賭け金も同じになったから次に進むね」
アカヤギは最後の一枚を場に出した。カードは♢A。これ以上カードが増えることはないので、これで手が確定したことになる。倉田が作り上げたのはA、Kのツーペア。しかも数字が最強とその次に強いものなのでツーペア以下だと全て勝てることになる。万が一相手も同じ数字のツーペアだった場合、次に高い数字は場にある10になるので引き分けということになる。それ以下の数字はお互い場にあるカードしかないからだ。
だが、もし3を一枚でも持っていた場合トリップスで負けてしまう。
「ここで最後のラウンド、リバーに入るよ。やることは同じ。マスターからベットするかレイズするかフォールドするか、だよ」
「そうですね・・・正直見ている限り負けてしまいそうですが、最初なので勝負ということにしましょう」
そう言ってマスターはチェックと声をかけた。
「さ、倉田くんはどうする?」
「あの、質問なんですけど・・・これは勝てるって思ったら思い切りレイズしてもいいんですか?」
そのほうがポットのチップは増えるから勝てる金額も増えるはずだ。
だが、アカヤギは笑って首を振った。
「もちろんそれはできるよ、オールインって言う持っているチップを全てかけるっていうことまでできる。でも、それをすると相手は判断材料が増えてしまうんだ。相手はそれだけ自信があるのか、って。もしそこで相手がフォールドしたら結局君の勝ちは今の状態で勝つのと変わらないんだ。どこまで相手からチップを取れるか、っていうのも大切なポイントだよ」
「ああ、なるほど!・・・あげてもついてきてくれる範囲で、っていうことですね」
メモしつつ倉田は最初だしこのままで、とチップを出さなかった。
「じゃあここで参加者全員のベットが揃ったからショウダウン、手札を公開するステップに入るよ。・・・ここからは正直カジノごととかローカルルールが沢山あるから一概には言えないんだけど。まず、カードをオープンするのには順番があるんだ。せーので出すわけじゃない。でも、その順番が色々あって、ベットとか最後のアクションをした人、S Bから順番通り。色々あるから基本的にディーラーがオープンって声かけてきたら素直に出してあげるといいよ。・・・海外だと色んな人がいるけど」
「色んな人、ですか?」
それはどういう意味だろうか、と倉田が聞き直すとアカヤギは苦く笑った。
「ただのバッドマナーなんだけど、順番が決まっているのに手札を公開しないで、「君の勝ちだよ、流石。ほらカードを見せてくれ」みたいに言ってきて、見せたら実はもっと強いカードが出てきて煽られる、とかね。・・・あとは滅多に見ないけどショウダウンブラフっていうのもあるんだ。ポーカーってカードを捨てたらもうフォールドになるんだ。細かく言えばディーラーがカードを回収したら、とか。他の捨てられたカードに触れたらとかカジノによってルールは変わるんだけど。例えば君がストレートだったとしよう。相手がショウダウンの時に「フルハウス」って言ったとしよう。君は諦めてカードを捨てた。でも相手は実はただのハイカードだった。結果的に君はカードを捨ててしまったから、もう成立しない。なんてこともあるんだ。もちろん卑怯な手っていうことも考えられるし、もしかしたら相手が自分の持っているカードを勘違いしているかもしれない。もし相手が勘違いでフルハウスだと思ってカードを出す。君はカードを捨てる。だけどよく見たらフルハウスになっていなかった、なんてことがあってもルール上君はフォールドしたと同じで相手の勝ちになってしまうんだよ。最後まで油断できないってことだね」
「うわぁ、色々あるんですね・・・!大金がかかってたらって思うとゾッとします」
「そうなんだよ、結構バッドマナーもあるからもしカジノに行くなら気にした方がいいよ。自分がフォールドしたからって何でもしていいわけじゃないから、黙って行く末を見守るだけにするんだ。例えば君が3、2のカードが来てプリフロップで降りたとしよう。そのあとコミュニティカードに3、3、3なんて奇跡が起きたとしよう。もしここで「あー!3あったのに!」って言ってしまったら、他の人はもう3がないってわかってしまうでしょう?フォーカードだってブラフを仕掛けたい人からしたらいい迷惑だから、だめだよね。これは結構カジノのセキュリティが飛んできて揉めたりすることになるんだ」
「はは、行くことがあるかわからないですけど・・・気をつけます」
まさか自分が行くことはないだろうと考えつつ倉田は頷いた。
「じゃあ、続きを話す前に。せっかくだから四人で少し遊ぼうか」
アカヤギはカードを回収して切り始めた。
倉田もいつの間にかテキサスホールデムに夢中になっており、ここから四人でしばらくゲームに没頭するのだった。

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