自叙伝風小説43最終話

「初めてライブトーナメントで優勝できてね。相手もすごく強いし今もランキングに出るようなプレイヤーだったから嬉しかったよ。その二つもあって僕の大きな自信になったんだ」
小さな大会ではあるんだけどね、と謙遜するアカヤギに倉田は大きく首を振った。
「海外に挑戦して優勝したんですよ!もうそれで十分すごいですって!」
恥ずかしそうにありがとね、と返すアカヤギは当時を思い返すように頷いていた。
「そのまま祝勝会して、仲間内で祝ってもらった時もやっぱり嬉しかったよ。僕は成し遂げたんだって。オンラインでは優勝してたけどやっぱりライブトーナメントでの優勝もすごく嬉しいし特別だと思う」
それを自分のことのように笑顔で聞いていた倉田が思い出したようにシステム手帳を構えた。
「あ、あの・・・すごく不躾な質問なんですけど。優勝賞金って、どれくらいだったんですか?」
「いや、取材で聞いているんだから聞いて当然でしょう。・・・えっと、36821ドルだから、当時で350万円くらいだね」
「すごい・・・」
倉田が呆然としながら聞いていると、ふと気になってまた不躾ではあると理解しつつもペンを持ち直した。
「その、確かに一生遊べる金額っていう訳ではないと思うんですけど。優勝して、しかもライブポーカーで初めてで。もういいや、満足ってならなかったんですか?」
「・・・そうだねぇ」
だったら今はもうやめてるね、と笑いながらアカヤギはまた話し始めた。
「自分のミスを振り返ったり、あの時はこうするべきだったかな、とか反省会するのは自然にしていたからそんなつもりはなかったんだと思うよ。それにね、同時期に木原直哉っていうプレイヤーがいて、その人が日本人で初めてW S O Pのブレスレットを獲得したんだ。日本人でもできるんだって嬉しいのと、自分は取れなかったから悔しくて、いつかとってやるって思って。いい意味で悔しさも満足感もどっちも得られたから、更にしっかりとポーカーに熱がこもって行ったと思う」
「なるほど・・・!」
倉田が手帳に木原と名前を書き記したのを確認してアカヤギは少し魔を置いて情報を後出しした。
「木原プロって東大出身のプレーヤーでね。とあるバラエティに取り上げられたりもしているんだけど、実はその時代の少し後にオンラインポーカーで鎬を削ることになるんだけど、これはまた今度話すね」
「わかりました、楽しみにしています!」
うん、と笑顔で頷いたアカヤギは当時の話に戻った。
「その時のラスベガスでのトーナメントはあとは特筆なしっていう感じだけど。休みの日に仲間で賭けテニスをしたりサイドギャンブルしたり・・・オリジナルでギャンブル作って遊んだりもしたよ。大体負けた人がご飯を奢るって言って遊んでてさ。楽しかったなあ」
当時を懐かしそうに話す彼にやはり住んでいる世界が違うと驚きつつも倉田も楽しそうに聞いていた。
「ポーカーだけじゃなくて色々なことをされていたんですね」
「うん、トーナメントして早く負けちゃった時なんかも一人でブラックジャックしたり、サイコロを使ったクラップスっていうギャンブルで火照った体を癒して遊んだり。良い時間をそこで過ごせていたと思う」
「ふふ、聞いていてもよくわかります!」
倉田たちの話がひと段落したのを見計らってかマスターがそろそろ時間だ、と声をかける。
倉田はそんな長く話を聞いていたのかと驚きながらもすぐに荷物をまとめ始めた。
「後は、ポーカーで話したいのはいくつかあるんだけど・・・メルボルンに行った時かなぁ。さっきのトーナメントで戦った関谷さんとの話があったり・・・後は日本でオンラインポーカーに更に時間をかけた話とかもしたいかも」
「・・・まだまだそんなに!楽しみにしています!」
倉田は立ち上がり残ってぬるくなったお酒を一気に飲んで嬉しそうに頭を下げた。
「また次の火曜日、お話聞かせてくださいね!」
アカヤギはいつも通り笑顔で手を振って返すのだった。


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