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ゆるやかなつながり

ハワイのカウアイ島という島に行った時のことです。
ホノルル(オアフ島)から飛行機で1時間弱。
オアフ島とは違って、大自然がそのまま残っていて、街も田舎で素朴な感じです。
日本でいうと、映画『always3丁目の夕日』で描かれる昭和時代を思わせるような……
ガーデンアイランドとも呼ばれる自然の景観が素晴らしい島で、観光も楽しかったのですが……
私が魅力に感じたのは、人々のゆるやかなつながりでした。
ガイドさんも、ふつうに街の住人なので、連れて行ってくれる場所場所に知り合いがいます。
きょうはどうだ?みたいなあいさつをしたり、世間話を始めたりします。
カウアイ島に人たちの普段の生活が、ゆるやかで心地いいんだろうな、ということがよくわかりました。

そして驚いたのは、帰りの飛行機での出来事です。
ホノルルに行く便が30分ほど遅れていました。
搭乗を待っていると、1人のお婆さんが待合室を行ったり来たりしていました。
いろんな人が出入りしているので、はじめは気にならなかったのですが、待ち時間が長くなってくると搭乗を待つ人の動きも少なくなり、おばあさんの動きが目立ちました。
同じところを何度も何度も往復しながら、ブツブツと独り言を言っているのです。
明らかに認知症の方のようでした。
おそらく近くに家族がいるんだろうなと思っていました。
搭乗が始まるまで、おばあさんは同じ動きを繰り返していました。

飛行機に乗った時には、そのおばあさんがどこに座ったのかわかりませんでした。
ハワイアン航空だったので、ほとんどが地元の人という感じ。
荷物などほとんど持っていないお姉さんがスマホで音楽を聴きながら乗っていたり、ちょっと近くに出かけるような雰囲気の家族連れが乗っていたり。友達数人ではしゃいでいる若者が乗っていたり。
日本でいったら、片田舎の街から、バスに乗って繁華街に行くような感覚なんだと思います。

やがて飛行機がホノルルに着いて、乗客がぞろぞろ降りて行きます。
出口の手前、一番前の席に、あのおばあさんが座っていました。
しかも、三席分に荷物をいっぱい散らかしています。
隣で男性CAさんがおばあさんとお話していました。
英語なので内容はわからないけど、もう降りる時間なんだよということを優しく説得しているような雰囲気でした。

なんと、あのおばあさんは、1人でカウアイ島からホノルルにやって来たのでした!
認知症のおばあさんが1人で飛行機に乗っていても、誰も不審がらないどころか、CAさんも慣れた感じで話をしている。
おそらくおばあさんは、ずっと昔からこうやって島と島を移動していたのでしょう。
夜の便だったので、おばあさんはホノルルの人なのか?空港に親族が迎えに来ているのか?
何にしても、CAさんも慣れたもの。世間話をしながら、他の乗客が降りている間に、おばあさんも片付けをして降りるようにさりげなく促していたんだと思います。

日本の交通機関で、そのようなゆるやかな対応は出来ないし、危険も多くて、『即通報』となってしまうかもしれません。
でも、本来なら認知症の人も、こうやって今まで通りの生活をすること、それを公共の職員がさりげなく見守ることで、最後まで幸せに生きることができるのでしょう。

素朴な田舎の地域だからこそできるゆるやかなつながり……
認知症の人だろうが、障がいのある人であろうが、助けが必要なときに、誰もがさっと手を貸してあげられるような心の余裕を持っている。
ハワイの緩やかな時間が、人を豊かにするんだろうなと思った出来事でした。

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