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「頭わるい」 女性候補を総攻撃のフィリピン選挙

心つよいなー、と思った。
フィリピン大統領選に立候補している唯一の女性の主要候補で、副大統領のレニ・ロブレド氏(57)のことだ。やっとその選挙集会に行くことができた。日本よりも女性の社会進出がすすんでいると感じるフィリピンだが、彼女をみていると、「おんなの苦労」を感じずにはいられない。

4月23日、マニラ湾近くの集会会場は、ロブレドのシンボルカラーのピンクの服を着た支持者でごったがえしていた。午後4時ごろ着くと、著名な歌手らが次々に登場するステージには近づけず、ようすを映し出す画面がある広場へ。ロブレドは午後10時半ごろ、ようやくマイクを手にこう話した。

40万人とも50万人ともいわれる人が集まった集会

「ボーイフレンドがたくさんいるとうそを広められたり、『お粥』だとか『注意散漫だ』とか『ばか』だとかさんざん言われてきました。でも、わたしは影響をうけたでしょうか?うけていないですよね。そうでなければ、今日皆さんがこんなに集まって、応援してはくれなかったでしょう」

お粥ってなに?と思う人もいるだろう。
ロブレドは人権派の弁護士だったころから、女性や貧しい人たちの地位向上にとりくんできた。副大統領になった2016年からは「すべての人によりよい暮らしを」をスローガンに貧しい人たちの支援をつづけ、お粥をくばる活動もしてきた。ところが、それにひっかけて、「薄くて中身がない」といった失礼な意味をこめた、「Leni Lugaw(お粥のレニ)」という呼びかたとイメージが、反ロブレドの人たちの間で定着した。

レニ・ロブレドを支持する家のポスター

「頭わるいんだよね」「何言っているのかわかんない」。
大統領候補のマルコス氏を支持する人が、こんなふうにロブレドを評するのを、わたしもよく耳にした。ドゥテルテ大統領もたびたび「力不足だ」といった言葉で、副大統領の彼女を日陰者あつかいしてきた。

フェイクニュースの標的にもなった。調査報道サイトVERA Filesは昨年12月、2021年にネットで話題になったうその情報のうち、選挙がらみの120件を調べ、こうした情報の恩恵をいちばんうけているのはマルコスで、攻撃の標的になりやすいのがロブレドだと報じた。

今月になって、ロブレドの長女アイカの「セックスビデオ」とされるフェイクのリンクまでSNSで広まった。日本でも人気のTikTokも、チェックなしで政治にかかわるフェイクが広がるバトルゾーンになっている、と現地紙インクワイアラーは伝えている。

ロブレドは23日の集会でこうも話した。

「わたしはNPA(フィリピン共産党の新人民軍)だという人がいますが、事実ではありません。この6年間たくさんのニセ情報とたたかってきました。気にしないと言ってきたけど、その対応はまちがいでした。フェイクニュースなら、すぐに事実をもって、それは偽りだと証明しなければいけない」

「うそでかためた候補が選挙に勝つなら、この国は終わってしまう」

この集会の6日前には、なんじゃそりゃという出来事があった。

民間調査ではマルコス、ロブレドに次ぐ3番人気とされるマニラ市長のイスコ・モレノ氏ら、いずれも男性の大統領候補と代理の5人が、マカティの高級ホテルで記者会見したのだ。「もしや候補を1本化するとか?」などと想像していた。

ところが、モレノは会見で、「反マルコスのために戦うだけならレニは撤退しなさい。わたしたちのうちの誰かがマルコスに勝つかもしれないから。レニは撤退せよ」と、ロブレドに選挙戦からの撤退を呼びかけたのだ。(上はインクワイアラー紙提供の会見動画)

「弱い男らは強い女を怖がってる」の看板を掲げる人

男性が徒党をくんでひとりの女性をいじめるみたいで、この会見は結果的に、人気があるモレノのイメージダウンになってしまったように思う。23日のロブレドの集会では、「女性の時代」と書いたTシャツを着る人や、「弱い男らは強い女性を怖がっている!」「引っこ抜かれる(撤退する)のはチンチンだけ」と書いた看板を掲げる人もいた。

アグネスさん(42)はパコ市から近隣の人と歩いて集会に参加した。ロブレドを支持する理由をきくと、「コロナで一番つらい時に、厳しい状況にあるフィリピンの人を助けようとしてきた。マルコスは国を一つにと言うが、言うだけではなにも起こらない。マルコスが勝てば、憲法を変え、任期の6年以上居座り続けるでしょうね」

一緒に応援しようよと呼びかける人

大学講師の男性(32)は、「うそつきは信じない。マルコス家が国民に何をしたか。大統領に就くなんて信じられないし、絶対に食い止めたい。ネバーアゲインです」

数年前、日本で「桜を見る会」などの問題が報じられたあと、選挙でだれに投票するかという話をしていたとき、友人が「他に入れるところがないから」というのを聞いて、「こんなにばかにされてもまたあそこに投票するんだ」とびっくりしたのを思い出した。ロブレドを支持する人たちは、彼女の活動を評価する気持ちとともに、「ばかにするな」「許さない」というマルコスへの強い思いに突き動かされている。

「盗んだものを返せ」とマルコスへの言葉を掲げる男性

投票日まで2週間をきった。民間機関のしらべでは、2割強の支持を得るロブレドに対し、マルコスが6割近い人気で優勢とつたわる。2016年の副大統領戦ではロブレドがマルコスをやぶった。ロブレド陣営は家々を訪ねて支持をよびかけ、追いあげている。最後までどうころぶかわからない。どちらが勝っても、超衝撃的だ。

ところで、

このコラムの冒頭にのせた黒地にピンクのプラカードは、集会でたくさんの人が注目していたが意味がわからず、後になって「撤退するのはチンチン……」の意味だとしった。この若い男性はその後プラカードをひっくりかえし、「冗談はさておき、性教育と家族計画をもっとひろめよう」とうったえた。まさにそれが、いろんな問題を解決する手だての一つだろう。
お若いかた、あっぱれです。

性教育と家族計画をとプラカードを掲げる若い男性


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