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脳の右側で描け

絵を描く時に、脳のどちら側を使っているか考えたことがあるだろうか。

右脳〈型〉思考と左脳〈型〉思考のことなのかと問われれば、遠からずとも近からずだろう。
私の経験から言い表してみるなら、回転する人形のシルエットが右回転に見えたり、左回転に見えるアレかもしれない。
ありがちな紹介では、右に見えるあなたはこういうタイプ、左に見えるあなたはこういうタイプ、といった心理テスト。しかしこれは集中して見ると、自由に右でも左にでも切り替えできることに気づいている人も多いはずだ。

脳の使い方、使う部分は違うのだろうが、現象はこれに似ているのが、本書で言う「左脳から右脳に切り替わると絵が描けるということ。

古くから絵心があるという表現があるが、実は〈絵脳〉とでも言うべきことなのかもしれない。
本書では、平たく言って絵の下手な人の描き方を、記号の羅列同士を結ぶだけで、形態の現実を観察できていないものとして、左型の感覚を使っているとする。

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そこで記号が破綻する条件を与えてやる。
絵の中で、記号として感じている何物かの、いわばゲシュタルト崩壊だ。

方法は手本の絵を逆さにして、逆さの模写をするというもの。
被験者は、それまで自分の脳内で勝手に作り上げたイメージ記号を使わずに、そこにある現実の描線を、ありのままに追わなくてはならない。
この時の脳の使い方が、右側て描くことにつながる。

ただ練習を重ねて、慣れで上手くなるような美術教育では、予め専門脳を習得している者だけが称賛され、喜ぶことになる。
そんなことでは大多数が不愉快か、劣等感を突きつけられるハメになる。いや、事実そうされてきているはずだ。

そんな美術教育に、革命的な処方を投じる名著だ。
これに従って練習してみた私は、いかに人間が目を開けながら、目の前の現実ではなく「脳内のイメージ」を圧倒的に多く見ているのだと痛感させられた。

手にとってみれば、いわゆる絵心のない人が、急速に画家のデッサン力を身につけてしまう奇跡を見ることになる。
知的な驚きを保証する。

絶版 版元を変え新版入手可

脳の右側で描け
B・エドワーズ 北村孝一訳
マール社 1981年 絶版

決定版 脳の右側で描け
B・エドワーズ 中野邦子訳
河出書房新社 2013年

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