漫画の描き方のコツ備忘録vol.4【ネーム・プロット編】③【コマの割り方】〈基礎〉
漫画の描き方のコツ備忘録vol.4
【ネーム・プロット編】③
【コマの割り方】〈基礎〉
こんにちは。晏藝です。
今回も私が先人の手記や言葉から学んだり、自学したりして漫画に生かしてきた制作に役立つ情報を、小筆として書き留めていきたいと思います。
独学で漫画を描いているけど、やり方やコツがまだよく分からない。
描ける環境は出来たけどまだまだ分からない事があるし、忙しくて書籍などで知識をいれる暇がない。
詳しい人が身近に居なくて誰にも聞けない。などなどの漫画描きの方のお悩みに少しでもお役に立つ記事となればと思います。
描く人に向けたお話が中心で,いつも通りマニアックな内容ですが、制作にご興味ある方にもお付き合いいただければ幸いです。
今回のテーマは【ネーム・プロット編】【コマの割り方】〈基礎〉です。
漫画は停止画面のコマの連続で出来ております。
コマの割り方のほんの少しの気配りの違いで、伝えたいストーリーを最大限に表現する事も、伝えきれずもったいない状態にする事もどちらにも出来ます。漫画においてコマの割り方も、地味かつ重要な要素となります。
このコマ割り※についてもあらゆる知識の方向性がありますが、主にストーリー漫画のコマの割り方において、どのジャンルでも汎用性の高い部位に特化して、記事にしていきたいと思います。
コマ割り苦手!という方も居ますが、これについてはあまり難しく考えない方が良いかなと思います。
コマ割りの項目で、常に意識をおきたい最優先の目標はまず、
【読み手さんに仕上がった漫画を読みにくいと思わせない事】であり、
【物語に関係ない画面構成の部分でストレスを与えない事】です。
描いた漫画を読みやすくする事で、読む際のストレスを減らし、ともかくは作品を読み切ってもらいやすくなります。
作品の内容も非常に大事ですが、読む人への気遣いがあるかどうかは、何となーく読み手の方にも伝わるものかと思います。
最低限の決まりの中でコマを割れば、
苦手でも何も目安がないよりもやりやすくなりますし、基本をしっかりとおさえるだけでも、かなり作品を読みやすくする事が可能です。
初めから無理に難しい割り方をしなくても、数をこなせば自然に自分らしいコマの割り方の法則が出来ます。
という事で、今回はコマの割り方のコツ【基礎編】として、最低限かつ制作時に必ず守りたい、横読み漫画でコマを割る時のチェックポイントを7つほど上げていきますので、ご参考にしていただければと思います。
ウェブトゥーンなどに応用のきく項目もあるとは思いますが、主には横読みコマ割り漫画を前提としたお話となります。
【コマ割り7つの基本チェックポイント】
それでは漫画を読みやすくするためのコマの割り方の最低限の法則、7つの基本チェックポイントを上げていきます。
各項目の細かい説明は個別に後述していきますのでご参考ください。
①〈コマの進み方は右上から左へ、どん詰まりでまた右下にという読み方〉を、描く際にも常に意識する。
②〈誰が読んでもコマの進み方が同じ〉になるように、また〈読む順番が分からなくならないように〉分かりやすく割る。
③物語の中で〈重要なコマはより大きく、重要性の低いコマを小さく〉する。
④完成後に読まれる媒体のサイズを予想して〈1ページあたりのコマの個数〉やそれによる〈読みやすさ〉を意識する。
⑤コマ、絵、吹き出し、文字のサイズなど、全てが見やすくなるように〈コマや吹き出しの配置、順番や大きさ〉に注意する。
⑥基本のコマ枠は、原稿用紙の内側の〈基本枠〉のガイドラインに乗せて描く。
⑦見づらくなるので通常は〈四角くコマを割り〉勢いを出したい所だけ斜めに割るようにする。(ただし作風などによる)
以上がチェックポイントです。
基礎の基礎となりますが、制作時には毎回ほぼ必ず納めていきたい大事な部分です。
以下、各項目の解説詳細となります。
【各チェックポイントの詳細解説】
①読み手の視線の動きを意識
◇〈コマの進め方は右上から左へ、どん詰まりでまた右下にという読み方〉を、描く際にも常に意識する。
コマ割り※の説明の通り、伝統的な日本の漫画のコマは、右から左に。どん詰まりで右下に折り返しという法則で読みます。
ちょうどアルファベットのZと鏡映しのような視線の動きです。
描く場合にも、必ずその読み方を意識してコマと吹き出しの配置を行います。
これはコマ割りにおいては、ごく単純な基本事項です。
しかし、十分に慣れていても絵を優先しすぎてしまい、特に吹き出しの置く位置や順番を間違えてしまったり、読み手目線では読みにくい配置にしてしまったりと、崩れてしまう事がありますので注意したいポイントです。
②コマの進み方を明確に
◇〈誰が読んでもコマの進み方が同じ〉になるように、また〈読む順番が分からなくならないように〉分かりやすく割る。
例えば、上段のコマを割る縦の線の終点と、下段のコマを割る縦の線の始点が近すぎると、
左に読み進むのか、下に読み進むのかパッと見で分かりにくくなってしまいます。
また、コマとコマの間の隙間も上下は広めに、左右は狭くなど、余白に広さのメリハリをつけたり、
横線と縦線のそれぞれの広さを統一したりしないと、読み手さんの気が散って読みにくさの原因となったりします。
こちらも、夢中で描いている内に崩れてしまう事がありますので注意したいポイントです。
③コマの大きさの差別化
◇物語の中で〈重要なコマはより大きく、重要性の低いコマを小さく〉する。
決めゴマ※など、重要なキャラの登場シーンや主役の活躍するシーン、その物語の中でずっと主人公達が居る事となる重要度の高い建物や背景や、
読み手さんに強く印象付けたいシーンなどはより大きくコマのサイズを取ります。
最大では見開きサイズです。
漫画の中で特に読み手の印象に残るのは
〈キャラクターの感情が大きく動くシーン〉と、
美しい、格好いい、感動する、怖い、ドキドキ、わくわくするなど
〈読み手の感情が大きく動くシーン〉、
ここに加えて
〈大きく描かれたシーン〉などです。
これらを組み合わせて、クライマックス(盛り上がり)や決めゴマを作ると、非常に印象に残りやすくなります。
理想としてはストーリーの中で、サイズ順にコマを切り出して並べてみた時に、物語の中のそのシーンの重要度と、コマの大きさがほどほど同じ順番になるようなコマサイズで物語を展開出来ていると素敵かなと思います。
④1ページあたりのコマ数について
◇完成後に読まれる媒体のサイズを予想して、〈1ページあたりのコマの個数〉や〈読みやすさ〉を意識する。
漫画1ページあたりのコマ数はざっくりと、最大6~7コマまでが読みやすいと言われています。
またWEB用の横読み漫画などは、1ページにつき5コマくらいまで、と言われる事もあります。
B4原稿の時は見やすくても、読み手さんが読む媒体に縮小した時に読みにくくなってしまっていると、大事なセリフを読み飛ばされたり、読みにくいコマがいくつも続けば作品離脱の原因にもなります。
いたずらにコマを詰めすぎないように、しかしページあたりの描き込みが不十分とはならないよう配慮が必要です。
出来上がりサイズが予想しにくいという方は、ネームを完成後のサイズで試しに描いてみたり縮小コピーをしてみたり、
電子作成なら制作中に仕上がりサイズに縮小して原稿を見てみると、大体の感覚が分かります。
また最終的に、描いた漫画はコミックスになる事があるかと思います。雑誌サイズで読みやすくてもコミックスになった時に非常に小さくて見づらいというのも、継続購入を思いとどまる原因になりかねないので非常に勿体ないです。
コミックスは小さいものでは、少年少女漫画サイズでこれは活字の新書とほぼ同じサイズとなります。
ベストセラーや名作になると、さらに小さく文庫サイズ(ハガキサイズ)で発行される作品もあります。
WEBについてはスマホサイズで読む事を前提とした漫画もありますし、コミックス化した作品のデジタル化も当たり前になりつつありますので、媒体によってはWEBサイズへの変更の可能性まで意識して制作しておくと良いかと思います。
ただし、手塚先生やその時代の作品などでは、文庫コミックで1ページ辺り11コマほど配置されていても、見やすい状態の漫画もありますので、この辺りは次回の応用編に記述したいと思います。
⑤吹き出しや文字の大きさと配置
◇コマ、絵、吹き出し、文字のサイズなど、全てが見やすくなるように〈コマや吹き出しの配置、順番や大きさ〉に注意する。
コマ割りと平行して重要なのは、吹き出しや文字の配置です。
漫画の文字はコマ内で、右の吹き出しから左の吹き出しに、左詰まったら右下の吹き出しの中のものへと、コマの読み方と基本は同じ順番で読みます。
作者の意図した順番に読まれるよう気を付けた配置をしないと、セリフ順の読み違いが起きて「あれ?」となり読み手さんの物語への集中が途切れる原因にもなります。
また、沢山の吹き出しが枠線の上に配置されると、特にコマ同士の交差点があるコマの角を隠してしまうと、セリフを読む順やコマの進み方が分からなくなったりする場合もあります。
他にも、繋がった吹き出しや、重なった吹き出しなどは、その次の独立した吹き出しより優先して読みますので、
きちんと意図的な順番に読んでもらいたい場合には、しっかり繋げて描いたりしっかり重ねたり、特殊吹き出しにする場合でも、
明確に描いて、白で読む人も黒で読む人もいるというようなグレーゾーンの構成は作らないようにする配慮が必要です。
吹き出しの中のセリフ文字は、可読性との関係により最小サイズが大体決まっていますので、この文字サイズ※(後述)を目安に吹き出しの大きさも決めます。
吹き出しはコマの中でかなり場所を取ります。
よく煮詰めて、セリフやモノローグ、ナレーションについてはなるべく、同じ意味やニュアンスのままで文字数を出来るだけ少なく出来るように努力したい部分です。
どうしてもセリフの増える場面では、コマサイズ自体を大きくし、ページ毎の文字が増えすぎないようにするなど工夫の必要も出てきます。
類語事典や言い換え検索などを、違和感なく読みやすい範囲で利用するのも手です。
確か手塚先生だったかと思いますが著作の中で、吹き出しの中の読みやすい文字の限界は
〈横列〉が〈7行〉ほどで、
〈縦列〉は〈10字〉か〈11字〉ほどと仰っていたかと思います。
文字を入れる吹き出し自体も、文字周囲の上下左右に適切な余白や行間をもうけないと、読みにくく感じますので、なるべくゆとりのある調整が必要です。
また、文字は標準サイズよりも大きくなれば、大きな声として脳内イメージで聞こえたり、小さいと小声のような印象を受けたりします。
キャラが叫ぶ時などには文字サイズや吹き出しを少し大きく取りたい所です。
これらを踏まえて、とにかく読み手の目線で読みやすいように吹き出しのサイズを決め、セリフの順番が読み方の法則とも違わないように気を付けて、かつ絵の邪魔にならないように配置をします。
文字サイズは後述する級数表などで、常に測りながら配置すると面積の無駄使いを省く事が出来ます。
⑥基本枠について
◇基本のコマ枠は、原稿用紙の〈基本枠〉のガイドラインに乗せて描く。
コマ枠は基本枠線に乗せるのが通常の割り方です。これを迫力を出すために断ち切り線の外まで描くのが、断ち切りコマです。
また〈吹き出しの中の文字類〉は断ち切りコマ内であっても基本枠から外に出ないように配置します。
基本枠から外れた位置にも自由に枠線は引けますが、特に商業誌などの場合には印刷の時にいやがられる事もありますので媒体によって注意が必要です。
⑦コマの形
◇見づらくなるので通常は〈四角くコマを割り〉勢いを出したい所だけ斜めに割るようにする。
というセオリーもありますが、私自身は作品によってはあまり従っていないので何とも言えない所です。
しいていえば、浦沢直樹先生のような映画的な構図の取り方やストーリーで描かれる作家さんの場合には、四角いコマ割りがとても綺麗に映えるような気がします。
少年漫画や青年漫画はアニメやドラマ、映画の画角のように四角くコマを切る作品が多く、少女漫画や女性向けなど絵的にも華やかに見せる必要がある作品は、コマの線自体も装飾の一部となるので比較的、斜め切りを多用する印象です。
もちろん少女漫画でも四角コマが基本だったり、少年青年でも斜め切りを多くする作家さんもいらっしゃいます。
そして、キャラクターみが強めの作品もわりとダイナミックに斜めコマを割る方が多めです。これは恐らくキャラクターを引き立てるために華やかさがコマ割りにも求められるためかなと思います。
常に、装飾や色が華やかなパーティー用の装いという感じ。
また、とにかくストーリーを最重視の作品、起承転結で見せるギャグ作品などは四角割りが多い印象です。
こちらはコマ内のストーリー以外の余計な情報を排してより集中と拡張をしてもらうためかと思います。
ずっと地味に謙虚に割って行って、ここぞという所で大ゴマや裁ちきりコマや斜め、見開きを使うというタイプの作品がその最たるものです。
着崩さないフォーマル仕立てからの勝負服という感じでしょうか。
作風や好みや絵柄や題材によってどちらが良いかは変わってきます。
そして、どちらにしてもやはり最重要なのは読みやすさです。
コマを斜めに割りすぎると、見づらくなるのは確かです。また、かなり配慮しないと②でご説明したような危ういコマ割りが出来やすくなります。
コマ割りに慣れていない間や、斜めに割る理由がない所では、なるべく使わないようにするのが無難と言えるかもしれません。
以上が、超基本的なコマの割り方の法則やコツとなります。
これらから逸脱しないようにして配置を行っていくと、自ずとコマの割り方が決まってきます。
そして、このセオリーを守ってコマを割れば、恐らくコマ割りの項目としてはある程度は読みやすい漫画に仕上がるかなーと思います。
描いた漫画を読みやすくするための【ネーム・プロット編】の【コマの割り方】〈基礎〉は以上となります。
今回は、ストーリー漫画のコマ割りにおいて、常に意識をおきたい最優先かつ最低限の目標
【読み手さんに仕上がった漫画を読みにくいと思わせない事】
【物語に関係ない画面構成の部分でストレスを与えない事】
のための基礎的な方法についてお話をさせていただきました。
そして以上7つはあくまでも〈基本事項〉となります。
この先には
【コマの割り方によってストーリーを、また自分の漫画を演出する】
というような〈応用〉も出て参ります。
基礎的な事は共通ですが、漫画は応用に入ると描き手の個性によって、やり方があらゆる方面に枝分かれして来ます。
なので、次回もなるべく汎用性が高く、どんな作風でも共通して使える【コマの割り方】〈応用〉についてを少し補足としてお話を出来たらと思います。
それでは、最後までお読みいただいて有難うございました!
次回もお付き合いいただけましたら幸いです。
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