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漫画の描き方のコツ備忘録vol.2【ネーム・プロット編】②【登場人物の人数とページ数について】その1

漫画の描き方のコツ備忘録vol.2

【ネーム・プロット編】②
【登場人物の人数とページ数について】その1

今回も私が先人の手記や言葉や作品から学んだり、応用したりして漫画に生かしてきた制作に役立つ情報を、小筆として書き留めていきたいと思います。
漫画を描く人に向けたお話が中心でやはりマニアックな内容ですが、漫画制作にご興味ある方にもお付き合いいただければ幸いです。

また「この場合はこうした方が読みやすい」という先達が積み上げてきた知恵は確かにありますが、全ての創作は自由であり、通説や一定のルールに必ず従わなければならないという事は一切なく、
それに縛られる事を越えなければ面白いものが生まれない時もあると思いますので、今回も一つの参考としていただけたらと思います。

というわけで、引き続きストーリー漫画の読み切りネームプロットについてのお話です。

はじめに

漫画の批評やネームチェックの返しで

「登場人数が多い」
「誰に感情移入したらいいかわからない」
「視点が定まらず分かりにくい」

という言葉を目にする事があります。
しかし、それら自体は作品の課題への対策や処方箋でもプロ目線のアドバイスでもなく、読み手視点の感想に近いものです。

学校ではまず、解き方を教わってから問題を解いて答えを出しますが、ここでは解き方を教わった状態ではありませんので、
新人さんや投稿者さん制作初心者さんが、問題点への対処法が分からなくても当たり前ですし、その問題をそれらの言葉のみで自力で解こうとしてもなかなか難しい所であると思います。

仮に言葉通りに受け取り

「人物を減らせば良いんだな!よーし」

と、改稿してしまうと今度は

「主人公の気持ちの変化が唐突過ぎて説得力がない。」

という一見すると全く関係ない指摘をされたりします。
しかしそれは実は、主人公に心情変化を起こさせる大事な脇役まで削ってしまったため評価が【変わった】だけだったりします。

しかし受け取った側は
「自分の漫画は無駄に人数が多くて、主人公の気持ちの変化もうまく書けていないんだ!」
など【1つの作品に対する2つの批評を足し】ズレの出た不足の印象しか残らず、ネーム直しの沼にはまってしまう可能性があります。

漫画描きさんのルポや呟きなどを見ると、このような事が投稿の場でも、プロの現場でも一定の頻度で起きているような気がします。

本来、必要なのは
実際の漫画の制作において、どこをどうすれば良くなるのかを理解してより良い形にしていく事だと思いますので、今回の小筆ではこの辺りのテーマについて、実践に役に立つ、または自力で解けるヒントになるようなお話や手助けが出来たらと思います。

というわけで、2回目は【ページあたりの読みやすい人数】や【登場人物の配役】などについてのお話をしていきたいと思います。
予定より情報量が多くなってしまったので、ほどよい所でその2に続きます。
では、まず読み切りを作る際の、ページあたりの読みやすい登場人物の人数についてのお話から。

読み切りにおいて読みやすいの登場人物の人数とその役割

登場人物の【人数を絞る】

結論から言えば、読み切りの基本枠【16ページ】において読んで混乱しにくい【主要キャラクター※】の人数は大体【3(~4)人】までです。

※主要キャラクター
創作作品、ここでは特に漫画での中心的な登場人物や話を動かすのに必要となるキャラクターの事。
【主役格のキャラクター】という意味で使われる事もありますが、この記事では脇役も含めた【話を動かす登場人物・キャラクター】としての意味で使っています。

ドラえもんで言えば、ドラえもんとのび太くん二人が主役格です。
また、話にもよりますが恐らくドラえもんが準主役、のび太くんが主役で、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫は読み切りでは主に脇役です。

沢山の漫画を読んでみると、16ページほどの読み切り漫画を動かすために必須な主要キャラクターは大体3人※ほどとなっているかと思います。

※これには概念としての【1人】や【ひとくくりのグループ】も含みます。
例えば、【夫婦】【カップル】【友人達】【周りの生徒】【自分以外の全ての他人】【動物】【物体】などです。

お気に入りのキャラクターを沢山描きたい見てほしい。とは思っても、
多くの人が楽しむために漫画を読む以上は、物語の進行に関係ない人物が沢山登場し、それが読み手のストレスになればすぐ読むのをやめてしまうかもしれません。

読み手に楽しく作品を読んでもらうには、削れるものは最大限に削って、あらゆる情報を、必要最小限に抑えていく方が安全でもあります。

個性的で読みにくいというのも極めれば魅力ではありますし、芸術に寄った作品の場合はそれで良いかとも思いますが、一般的にはできる限りの読みやすく描くというのは非常に大事かと思います。

ならばキャラクターを削りに削って1人にしたら一番安全なのか?
と言えば、そうでもありません。

物語は通常、キャラクターの葛藤やカタルシスの解消、総じては【なんらかの感動(喜怒哀楽)】という感情を核にした主人公の物語イコール人生(の一場面)を描きます。

またキャラクターとは、感情を持つ存在(人間など)です。
そして、人生の紆余曲折において【感動(喜怒哀楽)】を伴う出来事が起きるのは多くの場合、人間関係がからんだ摩擦ですので、意図的にシンプルにその熱を引き起こして物語にするためには、2人以上の要素が必要となってきます。

とはいえ、登場人物を2人だけに絞ると、肝心のストーリーの幅も狭まってしまいます。

例えば【豆腐】と【醤油】しかない時に出来る料理は大体決まっていますが、ここにもう1つ【砂糖】や【野菜】などを自由に足せるなら、作り手によって色々な味付けをしたり、あらゆるバリエーションの料理を制作する事が可能です。

つまり【主人公】【幼馴染み】を組み合わせて、中華料理…ではなく【恋愛物】を描くとして、
ここに【犯人】【ライバル】【両親】【友人】【教師】【アンドロイド】【ペット】【妖怪】などなど、3つ目の要素が加わる事で全く違うストーリーにしていく事が出来ます。

もちろん豆腐と醤油だけでも、工夫をして料理する事は可能です。
8ページ前後のWEB漫画などでは、2キャラクターのみで長く回数を続けるものもあります。

しかし沢山の漫画の中で個性を出したり、いくつものパターンの一話完結の読み切りを描くためには、なるべく主要キャラクターが3人以上は欲しくなります。
さらにモブ少々は味や香りを調えるためによく使われます。

このように読み切りを読みやすく、読んでもらいやすく、バリエーションを付けて表現するには、登場人物の大枠の【人数】を必要最小限に絞る必要があります。

そして、ここからさらに読みやすくするためには、それぞれのキャラクターの役割に必要な分だけ【焦点】を絞るという作業が必要です。


登場人物に役割を与え【焦点を絞る】

では、16ページの読み切り漫画の登場人物の内約を見ていきます。漫画には主要キャラクターのほかに、モブキャラクターも登場します。

これらを合わせての配役は


◯主要キャラクター
3人

◯それ以外のキャラクター(モブ)
任意の数(適量)


などとなりますが、
ここに役割決めがなく、何人もの登場人物の定まらない視点で16ページの漫画にすると、非常に読みにくくなります。
なので、意図的にそれぞれ役に見合った分だけ【焦点を絞る】必要が出てきます。

一般的に物語の登場人物は、【主役(主人公)】【準主役】【脇役】【モブ】等に分けられ、このままの順で物語の中でのキャラクター重要度が高くなります。
(主要キャラクターには物語を展開していく役目がありますが、モブは居ても居なくても物語に支障がなかったりもします。)

これを16ページで3人の主要キャラクターの定義に当てはめてみるとこんな感じです。


◯主要キャラクター(計3人:主役格/脇役格)
〈主役格〉
●【主役/主演】1人
●【準主役/助演】1人

〈脇役格〉
●【脇役】1人(~2人)

◯それ以外のキャラクター(任意の数)
●【モブ】適量


では、実際にこれらの【役割】は、漫画の中では具体的にどうやって差別化されているのでしょうか…?

ここからはどう差別化=【焦点を絞る】を行えば良いかを見ていきます。

【焦点を絞る】とは読み手に、物語の中でどのキャラクターがどれだけ重要なのかを、読みながら自然に感じ取ってもらうように描く事でもあります。

これは、そのキャラクターの

  • 「出番の多さ」

  • 「セリフの多さ」

  • 「モノローグの有無」

  • 「感情を表すエピソードやシーン」

  • 「名前を呼ばれる回数」

  • 「読み手に名前を覚えてもらえる役なのか」

  • 「性格上の特徴」

  • 「外見上の特徴」

  • 「コマ占有率」

などなどなどの複数要素の組み合わせによって決まります。
これら全ての要素が少ない、または全く無い登場人物は印象が薄くなってしまい確実にモブ扱いとなります。
反対にこれらの要素がしっかり描かれていればいるほど、キャラクターの重要度も高くなっていき、主役に近付くというわけです。

つまり、基本的な構成の読み切りの場合には

〈読み手に与える印象の強さ〉イコール〈キャラクターの重要さ〉

となるように漫画に描いて、落とし込んでいくのがベターです。
人物の役割の重要度に合わせ、スポットライトの当て方と量を決める必要があります。

では、それぞれの役割についての詳細を考えて…と行きたい所ですが、これ以上は頭が疲れるので、今回は参考作品の例だけをあげて終わりにし、後半は次回に続きたいと思います。


読み切り参考作品の例

読み切りについての概念を文字で学ばなくても、膨大な読み切り作品を読む事で直観的にどうすれば良いか分かるようになる事もあります。

私が読み切りへの理解を深めるためにおすすめする書籍は、手塚治虫先生の『ブラックジャック』と藤子F不二雄先生の『SFすこしふしぎ短編集』です。どちらも先生方の後期の作品で、あらゆる読み切り短編のノウハウが詰まっています。
少女漫画的な作品が良いなあという方には、萩尾望都先生の『イグアナの娘』や『11人いる!』(中編)、特に『半身はんしん』がおすすめです。

手塚治虫先生の『ブラックジャック』は、約20ページの読み切り短編が中心です。16ページで3人の主要キャラクターの構成に近く、

【主役/主演】1人
【準主役/助演】1人
【脇役】1人~2人

の人物構成の話が主です。
読み切り短編を連ねた長編でもあるので、話中の説明を省ける部分も多くなっていますが、その上で脇役が増えたり、モブを印象の強弱合わせ20人以上出してもストーリーが破綻しない脅威の戦闘力…いえ漫画力です。

主要キャラクターは「ブラックジャック」「ピノコ」「ゲスト」ですが、この作品で面白いのが毎回変わる人物の構成です。
『ブラックジャック』という作品の主役はもちろんブラックジャックですが、必ずしも読み切りの本編の主役はブラックジャックではありません。
話によって、あらゆるパターンがあります。

【主役】ブラックジャック
【準主役】ピノコ
【脇役】ゲスト(患者)

【主役】ピノコ
【準主役】ゲスト(動物)
【脇役】ブラックジャック

【主役】ブラックジャック
【準主役】ゲスト(医者)
【脇役】ゲスト(患者)

【主役】ゲスト(患者)
【準主役】ブラックジャック
【脇役】ゲスト(ゲストの家族)

などなど。この構成を見てみるだけでも、いかに読み手を飽きさせないように工夫がされていたか分かります。
もしも『ブラックジャック』を未読の描き手の方は、ぜひ一度は色んなを読んで確かめてみていただきたいなと思います。

今回のまとめ

主要キャラクターとは〈物語を動かす役割〉を持った登場人物。
オーソドックスな16ページ読み切りであれば3人ほどに絞りたい所。
そしてその基本的な内約は、
【主役/主演】1人
【準主役/助演】1人
【脇役】1(~2)人

などであって、
それ以外のキャラクターである【モブ】は物語の展開には直接関わらない人物である。

補足に、個人的な印象としては、初見の読み切りなら8ページ増えるごとに【脇役】を1人追加していくと、物語の展開には適量かなーという感じがします。

24ページなら主要キャラクター【4人】(主役1)(準主役1)(脇役2~3)
32ページなら主要キャラクター【5人】(主役1)(準主役1)(脇役3~4)
という具合です。
読み切りでもページが長くなれば、準主役などの主役格を増やしても大丈夫だったり、
16ページでもうまく印象調整が出来れば2人以上に脇役を増やしても、大丈夫ですが…そこはまた作風や題材や練度にもよるかなと。

あとは推理もの等ですとミスリードのために脇役や、モブの露出を増やしたりしますが、なかなか初見の短編読み切りで犯人チョイス系の話はやらないかな?とも思いますので今回は想定しておりません。

また、最近の週刊誌などのキャラクター主体の長編作品の中での読み切りになってくると、すでに主役格の紹介は終わっているので、
20ページでも主役格【3人】(主役1準主役2)にプラス脇役【2、3人】主要キャラクター【計6人】みたいな多めの人物構成になってたりしますが、
もしも、こういった作品を参考にするならその作品の第1話目、初見である事を想定した読み切りだけにする方が無難かなと思います。

さて、次回はこの【役割】を具体的な制作において、どう差別化していけば良いのだろうかという事を【Who】の要素についても交え、【登場人物の配役】についてをもう少し掘り下げて考えていきたいと思います。
続いてしまったので、なるべく来週末には記事を上げていきたいと思いますので、よろしければまたお付き合いいただけますと幸いです。

それでは何か創作の参考になれば嬉しいです。


短期記憶についての余談

やはり手塚治虫先生のご手記ですが、
(この先もレジェンドクラスの先生方のお話はちょくちょく出てくるかと思います。漫画制作のド基本かつ洗練されていますので。)
「どんな長編であっても主役になりうるのは五人から六人」というお話があります。

確かに主役格が多い印象の藤子F先生のドラえもんの大長編も、ドラえもんのび太くんしずかちゃんスネ夫ジャイアンが主役格となり+ゲスト1人等の、約六人構成です。

これは私見なのですが、人間の短期記憶で一回で覚えられる値は平均7つほどという話を聞いた事があります。
調べたらマジカルナンバー7とか、7±2チャンクとか言うようです。
(7つから誤差プラマイ2的な意味。)

もしかすると〈主役格〉としてキャラクターをくくって脳が覚える時に、7を越えると覚えにくく、つまり処理がしにくくなってキャラクターが覚えられず作品が読みづらくなる、なるのかもしれません。

個人的には、サイボーグ009の主役格を9人一度に思い出そうとするとちょっと記憶がつかえる感じが…
でも、1鬼太郎、2目玉の親父、3猫娘、4子泣き爺、5砂かけ婆、6ねずみ男はいける!

そもそも原始の人間構成から考えて、1お父さん、2お母さん、3お兄さん、4お姉さん、5パートナー、6弟か7妹くらい覚えられれば十分なんかしらという感じですし、
家族構成ほどキャラクターの性別と年齢に差異のない、若者主体主役の009は少し覚えにくくて、老若男女の差異がある鬼太郎は覚えやすいというのもあるのかも知れません。

個人的にはキャラクターの大枠の特徴(年齢、外見、性差)にあまり差異がないと4、5人でも、同じ記憶の引き出しに一緒に入ってしまうのか覚えにくいなあという感じがします。

この辺りを自分ではどうかなと考えて、特徴ある人物や記憶に残りやすい人物、または人物構成に生かしてみても面白いかも知れません。

手塚先生はかなり広域に読者層を構えていらっしゃる先生だから、7マイナス2の短期記憶域の人や子供にも読みやすくなるように、五人からと経験測で仰っていたのかしら…と何となく思いました。

にしてもどの先生も全部ぴったり、長編が7±2チャンクなのすごいなあという。職人ですわ…。



※以下宣伝につき

例によって、まだまだ漫画の公開をnoteさんで出来ていないので、ひとまず下記が私、晏藝嘉三《アキヨシミ》のマンガフォリオのリンクです。
上は作品ページで、一番下がホームのリンクです。

ちょっとした試し読みと、電書販売ストアさんのリンク、作者プロフィールがメインです。そのうちこの辺りの活動の記事も作っていきたいと思います。

『おひとりさま』『猫鬼の死にぞこない』『ミケ』『物見の文士』『神垣は緋』ほかという漫画を描いております。

〈完結〉電子版『ミケ』


〈単話不定期連載中〉電子版『神垣は緋』

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