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ぼんやりの前に「夏物語/川上未映子」を読んで

わたしはもしかしたら、いま、ぼんやりしはじめているかもしれない。(妊娠9ヶ月目だ)
川上未映子さんの「夏物語」を読み終わる。

芥川賞をとった「乳と卵」の続編で、
第一部は大阪に住んでいる緑子(12)とその母の巻子(39)が、その妹で小説家を目指して上京している夏子(30)を訪ねて、東京で3人で過ごす3日間のこと。 (乳と卵と同じ3日間)

第二部(2016年夏〜2019年夏)では、その8年後の、主に夏子の話が書いてある。

第1部(2008年夏)はcakesで無料で公開もしているようなので、よかったらどうぞ↓(乳と卵読んでなくっても読めます)

夏物語第一部

緑子のノートが、すごく、記憶にのこる。
乳と卵の記憶としても残っていた。
生卵の触感。

緑子と巻子、そして夏子。
今回の第二部は特に、夏子のものがたり。

38歳になり、念願叶って小説家になった(といっても一冊出した後、二冊目が書けないでいる)独り身の夏子が「自分の子供に会いたい」という焦燥感に駆られ、精子提供で子供をひとりで産むということに関心を持ち出す…というのが大まかな筋書きだ。(読む人もいると思うのでネタバレにならない程度に)

いま、妊娠しているこのタイミングで、
川上未映子さんの渾身の「産むことについて」の小説を読む機会に恵まれたのはなんとも、不思議な巡り合わせだと勝手に思う。(出産と子育てを書いたエッセイ「わたしの赤ちゃん」にはとても救われていた。「乳と卵」を読んだ頃は、まだ緑子に近かった気がする)

なんで「子供欲しい」って思うんだろう。
女に産まれてきたからには、一回は出産しておきたい、みたいな、漠然としたものがわたしの中にも、あった。これは、何か。

なかなか難航していた就活のときに
「ねぇ、いますぐ死ぬとしたら何に後悔する?」って話を酔っ払いながら友達としていて、私は
「好きな人と自分の子供を産んでみたかったなって思うかも」と言った、らしい。

らしい、というのは、当の本人はすっかり忘れていて「妊娠した」と報告したときにその友達から、そんなこと言ってたじゃん、叶ったねと言われて衝撃だったからだ。私、就活の最中、仕事より、子供欲しかったのか。まじか。まじかよ、って。

人生の中でしてみたいことリストの一番てっぺんにあったんだろうか、それ。ええ、きっと、あった。ありましたとも。自分自身の「女」との葛藤がありましたとも。

「産みたい」ってなんだろうな。
なんでだろ。就活の時の私と話したい。

そしていま母親になるに際して「女」である事のなんだか別の側面の葛藤と闘っていますとも。いましかきっとこんな事ぐちゃぐちゃ考えられないので忘れないように書くわけで。出てきちゃったら、というより、もうすぐ、たぶん、わたしもっとぼんやりしてくるそんな気がしているから。今のうちに。

「産みたい」なんていうのは完全にこっち側のエゴで、もしかしたら子供は産まれてくることなんて望んでないかも知れない。大変な世の中なのは百も承知なのに、生きていくのは色々大変なのに。
でも、いつか「産まれてきてよかった」って思う瞬間があってほしい、というのも親のエゴで、そのエゴってやつは歪んでいたとしても愛情って言っていいんだろうか。

完全にこっちの都合で、産む。
だから責任がある。誰より責任がある。

「女」ってやつは面倒くさい。夏物語にはいろんな女が出てきて、それぞれ、なんだか、面倒くさい。生き苦しい感がある。
「女でいることが、どれくらい痛いか」男と絶対分かり合えないっていう台詞があって、ぐうっとなる。女って、女って、女って。

そして私から出てくるのもまた女だ。

それでもやっぱり「会いたかった」って出てきた娘をみて私は思うんだろう。そして、泣いてしまうんだろうか。夫はどうだろうか。

一緒に生きていくこれからの人生は、どんなものになるだろうか。「会いたかった」のその先。私と、きっと、まんまと、どんどんと、恐ろしい程に大切になっていくであろう娘。

「お母さん」が特別なのは知ってる。誰よりも、期待して、どこまでも求めてしまうことを知っている。私がそうだったから。その一挙手一投足に、一言に、過剰に反応していたことも。
全身全霊で、きっと求められる。私はどこまで応えられるだろう。私のすべてで何が出来るだろう。

「会いたかった」のその先。
その先に行く前、まだ、ぼんやりしきる前。

たのしみとこわいが行ったり来たりしながら、私は私の残りにしがみついている。

“すごいねんで、何にも考えられへんねん。でな、もしかしたら人間ってほんまに死ぬかもしれんなって可能性があるときにはさ、頭の中でそういう物質がふわぁって分泌されるんかもしれんなとか思ったりな。八十五とか九十のおじいちゃんおばあちゃんらも、毎日もしかしたらこんな感じなんかもしれんな、とか。ほんでこんなふうに考えてることも、ふわぁって包まれて、消えていくねん”

もうすぐきっとぼんやりしはじめる。

#夏物語 #読書感想文 #川上未映子 #ちあきろく

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