レイ・ブラッドベリ 『猫のパジャマ』

★★★☆☆

 2004年に出版されたレイ・ブラッドベリの短篇集です。収録されている作品は1940年代のものから2000年代のものまで幅広いです。ショート・ショートとまではいきませんが、短めの短篇ばかりなので、夏場の麦茶みたいにさらさら読めます。

 レイ・ブラッドベリの作品は『華氏451度』など何冊か読んでいますが、その割にはいまひとつ印象に残っておりません。村上春樹の『風の歌を聴け』の中で架空の作家デレク・ハートフィールドと関連づけられて言及されていたのが名前を知るきっかけだった気がします(あるいは、『華氏451度』をF・トリュフォーが映画化しているのがきっかけだったかもしれません)。
 SF畑の作家としては、カート・ヴォネガットやハーラン・エリスンの方が僕は好みです。

 レイ・ブラッドベリの作品はなんというか、状況設定だけで完結しているような印象を受けるものが多い気がします。たとえば、先に挙げた『華氏451度』も、書物が禁じられた世界という設定はそれだけで興味をそそられるのですが、読んでみると、もう少し踏み込んでほしかった気がしてしまうんです。もちろん書かれた時代の影響もあるでしょうが、それでもちょっとガッカリした記憶があります。

 本作でいうと、賭けに負けた代償としてアメリカ全土をインディアンに差し出すことになる『酋長万歳』は、物語の引きとしては強いのですが、終わり方と釣り合っていない気がします。引きの強さに対して結末のバランスが悪いというか、尻すぼみ感があります。
 あるいは、アメリカという国に精通していればまた違うのかもしれません。文化や歴史といった背景を知っていれば、細かなところの説得力が違う可能性はあります。物語が図式的すぎたり、設定負けしていると感じるのもこちらの理解力不足なのかもしれません。

 もちろん、ふつうに読んで楽しめるものもたくさん収録されています。

 "SF作家"という印象が強いブラッドベリですが、個々の作品を読むと、SF的な話は半分くらいで、残りは普通の(SF的ではない)話です。ほろりと来る話から皮肉の利いたサドン・フィクションやサスペンスものまで、幅広い短篇が収録されています。
 僕のお薦めは夜の道端で仔猫を取り合う表題作『猫のパジャマ』と『雨が降ると憂鬱になる(ある追憶)』でしょうか。ブラッドベリは優しい話やセンチメンタルな話が上手い気がします。彼がどこかで書いていた図書館についての文章がすばらしかった記憶があります。
 SF作家にはヒューマニストが多いのかもしれませんね。

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