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ずうっと先に待っていてほしいもの

人におすすめしたい本は?

と聞かれたら、
すぐに思い浮かぶ本が何冊もある。

日本語の柔らかさを味わうなら江國香織さん。
人の優しさのカタチや、恋や愛というだけではくくれなくて、もう人間愛!という大きな優しさに触れたいときは、吉本ばななさん。

もう何もしたくない、と思った時に開くのは、土井善晴さんの一汁一菜でよいという提案。

そして、負けるな、と自分に言い聞かせたいとき。必ず開くのは山口絵理子さんの本。
裸でも生きる、は大学生だったときに本屋の新書の棚で見つけて、朝方まで泣きながら読んだ。

今考えると恥ずかしくて顔から火が出そうなんだけれど、本に綴られた山口さんの経験を、文章を通して追体験して、いじめにあっていたことや海外に興味がある、という少ない共通の点を探してつないでは、わたしにかけてくれている言葉だ、みたいなことを思っていた。今書いていても、なんて青臭くて、世間知らずで若いんだろうと思って顔が熱くなる。


マザーハウス、という会社がある。
もうすでに有名なので、こんなふうに書くこと自体烏滸がましい気がするんだけれど、バングラデシュやネパールなどの途上国、と呼ばれる国でファッションアイテムを作って販売している会社。

社員募集をしているのを見ては、わわ、募集してる…!とおどおどしてしまうくらい、わたしが長年推しているブランド。去年、百貨店のバレンタイン催事に美しいチョコレートを出店していて、そのときに働いていた販売員さんに、山口さんの本、読んでます…!大好きです…!と告白してしまうくらい、好きなのだ。目に鮮やかなブルーのチョコレートは、珍しくて、美しくて、グレープフルーツと塩の味がおいしくって、大事に大事に少しずつ食べた。

なぜそこまで?と聞かれると、一言で答えるのは難しい。

名だたるブランドには、アイコンになるようなアイテムがある。シャネルならあの黒のキルティングチェーンバッグ、フェンディのバゲッドバッグ、ヴィトンのモノグラム、エルメスのバーキン。

マザーハウスの最初のバッグの素材は、ジュートだった。

革ではなく、ジュート。
バングラデシュの産出が多く、輸出量が世界で一番多くて安定して仕入れられる素材。

麻のバッグを、わたしはそれまで見たことがなかった。コーヒー豆が入っていたりするのを見たことがあるだけで。商業的に売れているものを追うのではなく、現地で長く作り続けられるものを素材として選んでいるところに、私は助けてあげる、なんて思ってない、手を繋いで横並びで一緒にビジネスをしたい、という山口さんの意志が伝わってきた。

ビジネスだけじゃなくて、文化も作ってる、と思った。仕事として現地に馴染んで、携わる人たち全てが幸せになって長く続けば、後世に引き継がれていく。現地での生活に溶け込み始める。

ちょうど、大学でエコロジカルサイエンスをとっているところでもあった。サステイナブルという英単語が、持続可能な、という意味だと覚えたばかりのころ。教授が理想的であればあるほど、実現は簡単ではないんだけどね、と言った。

今の慣れ親しんだシステムを変えることは大きな労力が必要であるし、ビジネスが絡む場合は利害もある。みんな簡単に全員でハッピー、めでたしめでたし、にはならないでしょう、と。地球のために、明日から環境に害を及ぼす素材は全て使わないでください、これが地球の、全人類のためなんですって言われても、明日から困っちゃうでしょ?と。

そのくらいのことに、挑戦してるんだ。教授の言葉が頭をよぎり、立ち上げのためにバングラデシュで過ごされたパートを読みかえして、また泣いた。
信用していた現地スタッフに裏切られても、涙で溺れそうになる日も、自分の意志を貫く強さに、心底憧れた。

涙を流しても耐える、ということがわたしには難しかったので、本当にすごい、と思った。

中学時代にいじめにあい、プライドだけは高かったわたしは静かなる逆ギレをして、言われた分だけいじめの中心グループのことを心の中で罵り続けたし、あんなもん人じゃない、と見下すことで卒業までたどり着いた。彼女たちより下にいるなんて生きる意味がない、と順位がつくものは全て上にいくように勉強もしていた。

耐えた、と思っていたけれど、わたしは心のレベルとしては、心底最低だと思っていた彼女たちと同じ位置に自分を下げてしまった。

山口さんの体験は、そんなことはまだ全然平和だった、と思えるほど過酷だった。住む部屋の水道の開栓に賄賂を求められ、たびたび家の近くで暴動が起きる。そんな中、停電したバングラデシュの部屋にいて、わたしはこれがやりたいから!という情熱の灯りだけであんなにパワフルに突き進めるだろうか。


英語が話せるようになりたいというだけの理由で、高校と大学は国際系のコースと学部を選んだ。高校でもいくつかの授業は英語で行われ、
3年目には世界情勢というクラスもあった。大学の授業も英語で全て行われる大学だったので、集まる学生も海外への興味は強かったのだと思う。

高校時代には、国境なき医師団に寄付をしたい、と有志で集まって全校生に向かってプレゼンをした。なぜ寄付が必要で、どういうことが問題で、寄付をすることでどのくらいの本来失われなくてもいい命を救えるか。
今思い出すととても稚拙な内容だと思うけれど、当時は一生懸命だった。行動した先に、よりよい世界がつくられるのだと、本気でみんな思っていた。

大学に入ると、もう少し知恵もついたわたしは、友人たちと朝まで途上国支援は解決になるか?を話し合った。いっとき支援して、解決するならもう解決してるんじゃないの、根本的解決には至ってないよ、と友人が言えば、でも根本的改善には、一番揺らいではいけない命の安全性を確保しないと進まないんじゃない…?と答える。

世界の不条理を話す時、いつも私たちの会話は机上の空論であることは、きっとどこかでわかっていた。テーブルに情報の上澄みだけを並べて、わたしたちは話していたから。わたしたちの誰もが、本当の意味での途上国を知らない。
そこに強く咲く笑顔があることも、わたしたちと同じ生活があることも、解決すべき課題が日本人のわたしたちにとっては大きすぎて見えなくなる。

日本の高校・大学で、整えられた教室、または小さくもクーラーも暖房もある部屋でわたしがそんな会話をしている間にも、山口さんは現地で戦っていたのだ。現地の人と会話し、笑い合い、泣きあって、お互いに手を取り合って前に進んでいた。

本という媒体、それは小さな接点だけれど、わたしは彼女を知る人生でよかった、と思っている。

わたしが就職活動をほぼ全滅させ、逃げるように入った会社で働く間にも、マザーハウスはどんどん大きくなる。わたしの住む北国の百貨店にも、いよいよお店ができた。
デパートで販売できるクオリティのものを、と1冊目の本に書かれていたことが、実現している。

何か決心をするような時に覗くホームページには、カラフルな革のバッグや、ヘリンボーン柄に進化しているジュートのバッグが並ぶ。
ジュエリーまでラインアップされている。

商品だけ見て、素敵と思えるアイテムがずらりと並ぶ。革をグラデーションで染め上げたお財布や眼鏡ケース、ペンケースの色合いの優しさには見るたび毎回うっとりする。

リーダーがいくら頑張っても、それに応えるチームがなければ、こんなに素敵なものは出来上がらないと思う。国籍や、暮らしてきた習慣、考え方が違う、というのは、本来なかなか越え難い。
日本人同士でさえも、あたりまえ、が異なることが多くて、仕事を進めるにあたっても支障になることが多い。バングラデシュのマトリゴールをはじめ、各直営工場で働く人たちも素晴らしいんだと思う。海外から人が来る、というのは日々の出来事の中でもはじめは受け入れるストレスが多いであろうから。

こうしたい!に、じゃあ一緒に頑張ろう!と乗ってくれる人を探すのは、同じ日本人でも難しいことだから、素晴らしいチームなのだと思う。
どんなに大変なことを一緒に乗り越えてきたら、そんなチームが出来上がるのか、わたしには想像もできない。

そんなふうに生み出されたアイテムたちを見ているだけで、わくわくするし、美しい、と思うのだ。どれにしようか、と考える時間もとても楽しい。ただ、何度も何度もこれまでホームページを眺めてきたけれど、購入を我慢しているのには理由がある。


社会人になり、自分のことだけで精一杯になって過ごすうちに、すっかり世界との繋がりは薄まったわたしだけれど、小さくも夢ができた。

どんな形であれ、急な雨をやり過ごすことができる、ほっとできる場所を提供すること。
気持ちにざあざあ降りの雨が降る日、少しだけ気持ちが楽になるような場所が作りたい。

まだまだ思いついたばかりで、目の前はまっさらで道すらなくて、遠くに出口かもなぁ、くらい曖昧に光る場所が見えているだけ。どうすればいいかもまだ見えてないし、どんな壁が出てくるかもわからないし、道のりはきっと遠いと思う。始めるのに、もっと若かったなら、とも思う。

もし、その曖昧な光がきちんとドアの形を帯びて、ドアノブにちゃんと手をかけて開けることができたら、わたしは自分におめでとう、の気持ちでマザーハウスのプロダクトを買おうと決めている。

形は全然違うけれど、うまくいかないなんて当たり前、それでも前に信じて進む、と山口さんの本から学び、その先にある風景をマザーハウスが見せてくれている。わたしも、これから自分のやりたい、と思ったことを信じて進んでいきたい。

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