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ロズタリア大陸『聖魔戦争』その19

その18→https://note.com/akihi_gfl/n/nf8c3d2b8613b

女神の剣 ガレス・スィード

ローザが瞳を大きく見開いて驚愕する。
「それは!!
でも……随分、力を失ってしまっていますね」
本来は現在、シャールヴィ王子が腰に差している長剣ほどのサイズだと手振りで伝える。
シェドが軽く顎に指を添え、弱体化した事情を説明する。
「ええ、永きに渡る平和は、やがて民達自身によって信じる力を失わせます……
とはいえ、神話戦争再び!とは出来ません。
今から約二百年ほど前でしょうか?
こんな事態もあろうかと予見して当時、子供のおもちゃ用に模造品を大量に制作してもらい、市井に広め販売させました」
ホンモノを邪教集団の手に渡らせる訳にはいかなかった。当時すでに短剣サイズまで力を失っていた。対策の一環として、わざとホンモノそっくりの聖剣を作らせ、それを現在もまだ宮殿の宝物庫に飾ってある。
「ちょっと待てぃ!
なら、あれか!クラヴィスとかいう奴が携えてるのは……!?」
「ええ、もちろん、偽物ですよ。
彼もそれを承知した上で利用しているみたいですね」
試しに……と、シェドが短剣をシャールヴィ王子に手渡す。
「鍛冶職人に依頼して、錆は落としてあります。鞘から引き抜き、手に取ってみてください。
貴方ならば聖剣の本当の姿が視えるはずです」
若干、疑いの眼差しを短剣に向けながら、シャールヴィ王子が鞘から短剣を抜き放つ。
「ナニコレ……切り干し大根??
あるいは漬物の類いか……??」
鞘から抜いた途端、刀身がへにょへにょと折れていき、まるで干からびた野菜のように萎れたのだった。
光景に思わずローザが憐憫の眼差しで刀身に手をやり、愛おしそうに撫でる。
「なんて哀れな姿に……」
すっかり、力が失われている理由をシェドが忍び笑いつつ、解説していく。
「刀身の強靭さは『勇者の末裔への信頼度』
そして刀身の長さは『かつて苦難を共にした英雄達の子孫、つまり他大公家当主達から末裔自身に対する信頼関係度』
柄の部分に埋めこまれた各宝石は各都市の魔力残存量を示しています」
五芒星の頂点だけ抜きんでて光り輝いていた。
「お前の話が真実だと『仮定』するなら……この赤く輝いている部分は工芸都市か?」
「えぇ、工芸都市の城内には魔道都市から出た魔道師達を率いる本部が設置され、精力的に活動してますから」
指導者はシャールヴィ王子とあまり年齢が変わらない女性と男性の二人で、協力してまとめあげている。機会が出来たら、いずれ必ず逢ってもらう予定だ、とも伝えた。
「工芸ねぇ~……そもそも俺、入国出来るのか?」
今は亡き父である国王が先代の大公妃を侮辱して国交断絶のきっかけを作っている。また、どういう訳か?後を継いだ息子もローズテリア王国との関わりを拒否!しているのだった。
「若き大公自身、実はあなたのことは、さほど気にしていないので、入国自体は可能だと推測しています」
ローズテリア王国との国交断絶を続けている理由は別にある。と軽くいきさつを説明する。
「挙式当日にクラヴィスの奴が暗殺者を仕向けて当時、皇太子妃になったばかりの彼女を誘拐したんです。
彼自身はその事件がなければ、妃が王国領土内の貴族出身ということで王国との国交を一部、解除してもいいかな?と考えていたようですね」
「つまり、俺と敵対している訳じゃない……と?」
「ええ。必要があれば、必ず協力関係、むしろ神話同様『親友』同志の関係になれるはずですよ?」
シェドが苦笑交じりに付け加える。
「もっとも、それは貴方と彼次第ですけどね……」
行きつけの古美術店で、古代のおもちゃ!と勘違いされ、ようやく人から人へと渡り、商業都市へと入荷されてきた。捨て値で販売されていた短剣をシェドが鞘に戻してシャールヴィ王子に手渡す。
「その短剣は先日、とある店舗で銅貨三枚、支払って購入しました。
磨きあげて銀貨一枚、金貨数枚…そして到底、値がつけられない!
真の聖剣へと変貌させるか?はシャールヴィ様、貴方次第となります!!」
これからは肌身離さず、その短剣を携帯し、生命力を注ぎこみ、刀身の堅さをまず取り戻す必要がある。
そこでシェドは不敵な笑みを浮かべ、わざと挑発的な台詞を吐いた。
「もっとも…神話時代から受け継がれた女神から授かった能力すら使いこなすすべ すらなきに等しく、邪教集団の信徒を一般人と勘違いする貴方のコトです。
銅貨三枚どころか博打で背負った借金を完済せぬまま、潰えるか!?
全ては貴方自身が『行動』で証明してみせるしか手はナイと思います、よ?」
そんなシェドをシャールヴィ王子は密かに青筋立てつつ、心に誓ったのだった。
『このクソガキ……いつか絶対、苦手なモノ突き止めて、泣き叫ぶまでけしかけ続けてやる!』
「あぁ、分かったよ!くそがっ!!」

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